5-134 名も無き王の墳墓7階層
―1―
サンドワームの体が渦巻く砂地から伸びていく。巨大な口部分がどんどん上へと伸びていく。それは高台の上にも届きそうなほどの大きさだ。で、デカいな。
巨大なサンドワームが俺に覆い被さるように体をくねらせた。その瞬間、俺の視界が全て真っ赤に染まる。こ、これは危険だ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、サンドワームから一気に距離を取る。
サンドワームが大きく息を吸い、周囲の砂を吸いながら俺が居た砂地へと――その場所へと、その大きな口を叩き付ける。こ、こわッ!
さあ、どうするどうする?
『名も無き王の墳墓』の魔獣は基本、闇属性なんだよな? サンドワームだから金の属性とか土の属性のような気もするけど、どうだろう? 水属性で効果があるのか? うーむ。とりあえず魔法を打ち込んでみるか。
――[ウォーターカッター]――
高圧縮された水のレーザーを飛ばす。ウォーターカッターがサンドワームの体の一部を貫くが、それをモノともせず砂の飛沫を上げ、砂の中へと潜る。むぅ、サイズが大きいからか、余り効いてない感じだな。さあ、どうする、どうする?
……。
俺はその場所で、しばらく待っていた――が、しかし、サンドワームは現れなかった。は? 逃げられた? 何だよ、それ。
サンドワームが居た場所の砂地を確認してみるが、少し硬めの砂がサラサラと流れるばかりで何も無かった。うーん、こんな硬い砂で流砂を起こしていたのか? 何か特殊な力なのだろうか? ま、まぁ、この砂地のエリアを探索していたら、また出会うかな。
―2―
サンドワームが居た地点を抜け、更に進むとまたも壁に突き当たった。ここが端か。では、今度は壁沿いに南下してみますかね。
ミイラを倒しながら壁沿いに南下していると壁に木の根が絡みついているのが見えた。あら?
木の根が伸びた先を見ると、天井を壊し、その上の階層にまで伸びていた。いや、逆か。上の階層の木の根が下の階層まで突き破ってきているんだな。ここを上がれば大広間になっている6階層にたどり着くのかな? こちらが本来の6階層から下へ降りるルートなのか? まぁ、まずは6階層の探索よりも、この階層を探索しないとな。
更に南下すると、スロープのように上へと上がる道が見えてきた。ふむ、どうしようかな? とりあえずスロープを進んでみるか。
スロープを進むと高台に出た。高台の端には吊り橋も見えている。なるほど、6階層から降りてきた時は、ここから高台の上に上がれるんだな。さあて、もう少し下を探索するか、それとも上に戻れたので、このまま高台の上を探索するか、どうしようかな。
まずは下の外周から埋めていくか。
上ってきたスロープを下り、砂地に戻る。戻った先の砂地には、またもミイラが沸いていた。飛びかかってきたミイラを避け、真銀の槍で突き刺す。はい、お終い。
このミイラさ、脆いし、弱いのは楽でいいけどさ、何も手に入らないし、無限に沸いてくるし、ホント、この時間を無駄にしている感じが辛い。コイツが常に湧き続けるから下では休憩も取れないしさ。これでせめて魔石でも持っていたならなぁ。大事なコトだから、2回言うけどさ、完全に無駄ってのが辛い。
そのまま、壁沿いに南下していく。右手に並んでいる高台を5回ほど通り過ぎた所で壁に突き当たった。うーむ。これで3方の壁に突き当たったワケだけどさ、この階層が正方形だとしたら、かなり広いな。今の俺ってば、歩く速度は結構速くなってるからさ、それでも一辺が1時間以上かかるってことは3、40キロくらいあるのか? ひ、広いなぁ。これ一周するだけで日が暮れそうだ。今日は迷宮で一泊するつもりなんて無かったから、何も準備していないぞ。う、うーむ。
転送台のあるスタート地点は大体の場所は把握しているから、《飛翔》スキルで飛べば戻れそうだし、今日は一周したら一度戻るかな。
更に南の壁から西方向へ歩き出すと3個目の高台の上に何か大きな建物が見えた。櫓、か? ここって多分、スタートの転送台の真後ろだよな? とりあえず確認の為に、《飛翔》スキルで上がってみるか。
―3―
俺が《飛翔》スキルで上に上がろうとした時だった。近くの砂地が流砂のように渦巻いていく。うぉ、飲み込まれないように気をつけないと――って、またサンドワームかッ!
俺は流砂に飲み込まれないように距離を取る。そのまま離れた場所で流砂を観察する。と、羽猫、一旦、ライトは消してくれ。明かりで相手に気付かれるかもしれないしな。
「にゃ」
羽猫の鳴き声とともに光が消える。ま、天井の明かりだけで、うっすらとは見えるから、何とかなりそうだ。
さあて、どうしよう。倒すとしてもサイズが大きすぎるし、いくら水魔法の効果があったと言っても、サイズが大きすぎて焼け石に水って感じだったからなぁ。数を撃つか? う、うーん、微妙。では、逃げるか? いや、でもさ、このクラスなら魔石も大きそうだしさ、召喚スキルで消耗しすぎて休止中の真紅妃のためにも、出来れば魔石が欲しいんだよなぁ。よし、倒そう。で、始めに戻るけど、どうやって倒すか、なんだよなぁ。氷魔法を使えないのが辛い。使えたらさ、遠くからアイスストームでも放っとけば終わりそうなんだけどな。
――[アシッドウェポン]――
真銀の槍に酸液を纏わせる。渦巻く流砂からサンドワームが、その姿を現す。そのまま高台まで届きそうな大きな巨体を、全身が見えるほど大きく伸ばし、すぐさま体を砂の中へ沈め、顔だけを――口だけを出している状態になる。お、大きいな。それとヤツの周囲には流砂が渦巻いているから、近寄ったら吸い込まれそうだ。ん? とっさに真銀の槍にエンチャントしたけど、もしかして、無理に近接で戦わなくてもいいんじゃないか? 水は効果があったんだから――そうだよ、俺には水属性の弓があったじゃん! 水属性の魔法の発動用に背負っているだけだった水天一碧の弓があるじゃん!
すぐさまサイドアーム・ナラカに持たせた真銀の槍を背に回し、背中の水天一碧の弓をサイドアーム・アマラで握りなおす。さあ、行くぜ。
水天一碧の弓に黒金の矢を番える。
――《集中》――
集中して狙いを定める。サンドワームは獲物を探しているのか、砂地から伸びた口部分をクルクルと回している。口部分についている無数の水晶みたいなのが目、なのかな? 砂で暮らすうちに退化したのか、それとも元からそういう形だったのか、目としての用途は成していないように見えるな。
――《チャージアロー》――
それでも狙うのは、まずはソコだよなッ!
俺は溜め、強く光輝く黒金の矢を放つ。黒金の矢は狙い違わずサンドワームの水晶体に突き刺さり、それを打ち砕く。サンドワームが痛みにか、咆哮をあげ、その大きな巨体をくねらせる。おー、効いている、効いてる。
――《チェイスアロー》――
誘導する矢が水晶体に突き刺さる。おー、チェイスアローなら動き回って狙いの付けにくい相手でもしっかり当たるな。でも、さすがにチャージアローほどの威力は無いか。チャージアローなら一発で砕いたもんな。
巨体の動きがゆっくりになり、口部分を左右へと動かし始める。何だろう、獲物を探しているのかな? サンドワームにはこちらの姿が見えていないようだ。
よし、このまま矢で射殺してしまおう。すまんな、遠距離攻撃を持っていなかったお前が悪いんだぜ。