おしえて、シロネせんせい5
「はぁ」
シロネは大きくため息を吐き、歩いて行く。今日は迷宮都市からAランクの冒険者を呼んでの授業だ。冒険者もAランクとなるとプライドが高く気むずかしい人間が増えてくる。どのような人間が来るか聞いていないが、神国に来るのだから、普人族なのだろう、とシロネは考える。
シロネが実技講習の為に作られた特殊な建物の中に入ると、すでに生徒たちが待っていた。
「シロネ先生、ノアルジーさん以外は皆、揃ってますわ。あの方は好き勝手し過ぎですわ」
並んでいる貴族の令嬢たちの中から豪華な服装に身を包んだ少女が進み出る。
「むふー。一応、私はノアルジーさんが特殊な事情で余り授業に出られないとは聞いていますねー」
豪華な服装の少女が歯ぎしりでも起こしそうな顔で地団駄を踏みそうになり、慌ててそれを我慢する。
「もう! 私でも特別扱いされないのに、おかしいですわ!」
豪華な服装の少女の言動にシロネは内心で苦笑する。そして、考える。確かに、皆を平等に扱う第三王女の性格からすると、一人だけを特別扱いするのは考えにくいことだ。そこに何の理由があるのか、考え――そして諦める。
「では、今日の授業を始めます。むふー。今日は迷宮都市リ・カインからAランクの冒険者を呼んでいます。その方が来られるまで属性関係の講義を行います」
シロネの言葉に少女たちが俄に騒がしくなる。
「Aランクの冒険者ですの?」
「野蛮な方でなければ」
「Aランクですもの、立派な方に決まってますわ」
少女たちの言葉にシロネはため息を吐く。
「では、属性の関係ですが……」
「ほら、皆様、先生が話していますわ」
シロネの言葉を聞き、豪華な服装の少女が皆を静かにさせる。
「そうですね。属性には相性がありますねー。相反する属性があるのは知ってますよね」
シロネの言葉に少女たちが頷く。シロネはそれを確認して話を続ける。
「火と水、木と金、土と風、闇と光ですねー。火は木に強く、水は金に強いです。そして木は土に強く、金は風に強いです。むふー。魔法を使う時は、その属性を考えるといいですねー」
シロネの言葉を受け、少女が頷き、そして疑問を口にする。
「シロネ先生、それでは防ぐ時はどうすればいいんですの?」
「そうですねー。むふー。火の属性を防ぐ時は風の属性を、水の属性防ぐ時は土の属性を、木の属性を防ぐ時は水の属性を、金の属性を防ぐ時は火の属性を、土の属性を防ぐ時は金の属性を、風の属性を防ぐ時は木の属性を使いますねー」
シロネが図を描いて説明する。
と、そこで外が騒がしくなった。
「ちっ。お前、ノアルジーだろ! こんなトコロに居たのかっ! その仮面を取れ!」
「あら、バーンさん。人違いですわ」
「気持ち悪い喋り方をするな。俺の名前を知っている時点でノアルジーだろうが!」
そのまま1人の男が部屋の中に入ってくる。
「はぁはぁ、ちっ。逃げられたか」
男は肩で息をしている。が、すぐに息を整え、シロネの方へ向き直る。
「むふー。Aランク冒険者の方ですか?」
シロネの言葉を聞き、男は室内を見回す。そしてニヤリと笑う。
「そうだ。俺がAランクの紫炎のバーンだ」
シロネは内心、ため息を吐きながら、それでもAランク冒険者の男を歓迎する。男で魔法を使える人物は珍しい。魔法学校以外で独自に習得をしたのだろう。得てして、そういった人間の方が強力な魔法を習得するものだ。
「むふー。優れた魔法の力を持っていると聞いています。よろしくお願いします」