5-125 刹那の断崖
―1―
「ラン、もうすぐ橋がかかるのじゃー」
ああ、そうらしいね。
「もう2、3日中には橋が架かるでしょうね。その時には、冒険者ギルドに依頼が出ると思います」
「んんー。もう、そんな時期なんですねー」
青騎士の言葉にクロアさんが反応する。んー、どういうコトだ? 確か、神国の前には小迷宮にもなっている『刹那の断崖』って名前の断崖があるんだよな? そこに橋がかかるのと冒険者ギルドに依頼が出るのが、どう繋がるんだ?
「そうなのじゃー。その時は、ランにも頼むのじゃ」
姫さまがご機嫌だ。って、何々? どうなるの?
「おう、何だ。ランは知らないのか」
そうなんだぜー。知らないんだぜー。
「私も知らないでス」
おー、シトリさんも知らないのか。蜥蜴人だから、ここの近くの砂漠の住人だろうにね。迷宮都市と神国の中だけで有名な話なんだろうか? うーん。
「断崖の上に氷の橋が架かるんです」
「そうそう、その時に併せて魔獣が現れるからな。その討伐依頼な、冒険者ギルドの依頼として出るんだよ」
青騎士と赤騎士の2人が説明してくれる。へー、そうなんだ。にしても、後、2、3日か。俺はまだまだ、ここで『名も無き王の墳墓』の攻略を続けるだろうからなぁ。さすがにさ、後、数日で『名も無き王の墳墓』を踏破することは出来ないだろうからなぁ。お姫さまたちやジョアンとはここでお別れか。ちょっと寂しくなるな。
「ランが、わらわの国に来るのを、向こうで、ずーっと待ってるのじゃー」
おうさ。神国にも八大迷宮があるっていうからな。ここの『名も無き王の墳墓』を攻略したら、向かうぜー。
―2―
――《転移》――
姫さんたち、クロアさん、シトリさんと分かれた後、《転移》スキルを使い自宅に戻る。はぁ、帰ってきたぜー。今日は凄い探索した気分だよなぁ。だってさ、1日で徘徊する魔獣を2種類倒してるんですぜ。ネザーブレイドにシルバーロア、それにクロアさんたちを救出して、うん、結構、頑張ったよな。
色々な冒険者が歩いている中、自宅へと戻る。と、今は食堂や従業員の宿舎みたいになってるから、何というか、余り、自宅って感じじゃないけどなッ!
「マスター、お帰りなさいませ」
自宅の前には14型が待っていた。はいはい、ただいま、ただいま。
「マスター、お食事の準備ですね。すぐ作るように伝えてきます」
ん? いやいや、今日の食事はいいよ。向こうで食事をしてきたからね。と、そうだ。
『14型、今日の食事は必要ない。それよりもフルールを呼んで貰えないか?』
「了解したのです」
14型が優雅なお辞儀をして、そのまま消える。もうね、この子なんなの、忍者なの? しのぶの? きえるの?
と言うわけで、一旦、自宅に戻るのを止めて、裏口から入りますか。いつもの部屋に入り、俺専用の椅子に座る。うーん、このマッサージチェアのような座り心地。快適、快適。さ、フルールがやってくるのを待ちますか。
しばらく待っていると、何故かポンちゃんがやってきた。
「オーナー、飯かい?」
違うんだなぁ。あー、でも、ヤドカリ素材を手に入れたから、料理に使えるかな? せっかくだから、伝えておこう。
『食用に使えそうな魔獣を手に入れたのだが』
「お、さすがはオーナー。後でクニエのとこにお願いするよ」
ああ、さすがにシルバーウルフやシルバーロア、さらにヤドカリをここで出すわけにもいかないしね。じゃ、後で換金所に居る、クニエさんに素材を渡すか。
そして、ポンちゃんが食堂に戻った後、フルールがやって来た。俺が14型に頼んで呼んで貰ったから来たのか、それとも休憩に来たのか……。うーん、まぁ、考えるだけ無駄か。
「あら、オーナーですわぁ」
そうだぜ! オーナー様だぜ!
『フルール、狼系の素材を手に入れたのだが』
「そうなんですの」
そうそう。と言っても素材として解体してあるわけじゃ無いからね。やっぱり、この後、クニエさんの換金所に行く必要があるな。
『ちなみに狼系の魔獣の素材からは何が作れるだろうか?』
「素材を見てみないことには、ですわぁ」
そりゃそうか。
「それより、ポンちゃんが遅いですわぁ。お腹が空きましたわぁ」
俺の話より食事かよ。ホント、この犬頭は……。にしても、ポンちゃん、フルールが来たのに食堂の方から戻ってこないな。この時間だから夕ご飯を食べに来た冒険者たちで忙しいのかな。
「毛皮系ならマントや篭手、鎧が中心になると思いますわぁ」
と、突然どうした? って、さっき、俺が聞いたことの答えか。うーん、マントに篭手、鎧ねぇ。どれも微妙だなぁ。篭手は『てぶくろ』があるし、マントは『夜のクローク』と『女神セラの白竜輪』が、鎧も『赤竜の鱗衣』があるからなぁ。うーん、ホント、微妙。いや、待てよ。この姿の時に、芋虫状態で装備出来る鎧を作って貰うってのは有りか? 毛皮系ならベストみたいな感じで作れるんじゃないか? それも有りか。
さーってと、それじゃ、クニエさんのとこに行って素材を渡しますか! で、後は魔法の練習をして睡眠って感じだな。
明日は、『名も無き王の墳墓』の6階層まで一気に進めて、1階層の兵士さんの所から7階層に降りられるようにしたいなぁ。と、荷物持ちを兼ねて14型を連れて行こうかな。最近は戦闘でも役に立つようになって、戦闘メイドぽくなってきたしね。
よーし、そんな感じで頑張りますかッ!