2-36 群狼
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翌日になり、俺は探索を開始する。
帰りは転移を使えば一瞬で帰られるので思いっきり遠くまで探索をするのです。
まずは馬車の停留所からフウロウの里に向かう道順をなぞる。遠回りしていたという話からフウロウの里の位置と転移時に上空から見たスイロウの里の位置を考え、探索範囲を狭めていく。
魔法糸を使い木々を飛び回り高速移動をする。
そしてついに見つけた。飛び回ること数時間、距離にすれば百、数十キロは探索したね。
視界の先にあるのはシルバーウルフの線。ここが眼帯のおっさんが言っていたシルバーウルフの居る崖がある場所だな。周囲には他に線が見えないので1匹だけだな……丁度良い。
俺はコンポジットボウを構える――あ、探すのに夢中になっていたけど試し打ちしとけば良かった。まぁ、いい……。
シルバーウルフの線に向けて矢を放つ。命中。
攻撃を受け、こちらに気付いたシルバーウルフが駆けてくる。……でかい。と言ってもレッドアイのような要塞感溢れる巨体ではないが、それでも普通の狼よりも一回り、二回りはでかい。
ホント、何でもスケールが大きくなる世界だぜ。
銀色狼の速度は速いが、俺は焦らず矢をつがえ放つ。
小さいながらも重量感溢れるコンポジットボウからうなりを上げて矢が放たれる。
矢は狙い違わず銀色狼の脳天に突き刺さる。狼の動きが止まる。
よたよたと動き、頭を振るとそのまま唸り声を上げ、また駆けてくる。矢が刺さったままなのに元気だな。
もう一射。
銀色狼は急停止し、小さく右横に飛び回避する。な、なんだと。初心者の弓の時よりも矢の速度はかなり上昇していたのに、それでも回避されるのか……。
って、近寄らせるわけには……近接武器を持っていないからヤバイ。
もう一度、矢を射る。
これも右横に飛び回避される……が、大急ぎでもう一度矢を放つ。今度は命中。こちらも脳天に突き刺さる。
脳天に2本も矢が刺さった銀色狼が大きな咆哮を上げる。その声に呼ばれたのか周囲に次々とシルバーウルフと書かれた線が増えていく。これはやばいぞ。
脳天に矢が刺さった銀色狼も目の前まで近寄られてしまっている。というかね、脳天に矢が刺さっていても生きているとかおかしい。
集まってきた銀色狼も線だけでは無く実際に姿が見える距離まで近寄られる。2、3、4……10匹ほど。これ詰んでね。
周りの銀色狼はいきなり襲っては来ず、俺の周りを集団でくるくると回る。やべぇ狩られる。
周囲の一匹が回転から離れ俺に飛びかかってくる。俺は魔法糸を飛ばし、体をスライドさせて回避する。が、それを狙ったようにもう一匹が飛びかかってくる。俺は鉄の矢をサイドアーム・ナラカで持ち、飛びかかってきた銀色狼に伸ばす。鉄の矢は噛みつこうと大きく開けた口の中へ突き刺さる。そのまま鉄の矢が銀色狼の喉を貫く。銀色狼はたまらず大きく飛び退く。
すぐに次の銀色狼が飛びかかってくる。くそ、無理だ。
――<魔法糸>――
俺は魔法糸を飛ばす。狙いは最初の鉄の矢が刺さった銀色狼。あっさりと右横にステップされ魔法糸を回避されるが、地面にくっついた魔法糸をそのまま縮め、俺はそちらの方向へ飛んでいく。そして脳天に矢が刺さった銀色狼の横を抜け、その抜けざまに脳天に刺さっている鉄の矢を伸ばしたサイドアーム・ナラカで掴む。
――<転移>――
俺は鉄の矢を掴んだまま遙か上空へ。サイドアーム・ナラカの下へ引っ張られる具合が凄い。これ自分の腕で掴んでいたら……腕がもげていたかも知れない。サイドアーム・ナラカの先がどうなっているかを見る余裕なんて無い。
上空で停止し、地面へと落下。そのまま地面へと叩き付けられる。世界樹で試したように何かの防護フィールドに守られているのか怪我をしたり、傷ついたりすることは無い。
さあ、サイドアーム・ナラカの先はどうなっている?
……普通に銀色狼が居た。弱っているがまだ死んではいない。
――<魔法糸>――
俺は魔法糸を使い銀色狼を絡め取る。さすがにこの距離、この体勢で回避されることは無い。
――<魔法糸>――
俺は更に魔法糸を使い木の枝の上に。そこから鉄の矢を放つ。魔法糸に絡め取られ動けない銀色狼は為す術も無く鉄の矢をその身に受ける。銀色狼がジタバタと大きく暴れる。
もう一射。銀色狼は、鉄の矢が体に刺さるぎりぎりのタイミングで魔法糸から抜け出し、そのまま体をひねり鉄の矢を回避する。まだ死なないのかよッ!
鉄の矢の残りは2本。
――<魔法糸>――
俺は魔法糸を銀色狼に飛ばす。動きが鈍くなっているが、それでも回避される。が、その行動……読んでたぜッ!
すでに構え、放っていた鉄の矢が魔法糸を避けた銀色狼に刺さる。……予想地点に来てくれて良かったぁ。こいつ、回避するときは常に右側にステップして回避していたからな。読み通りだったぜ。
そして銀色狼はゆっくりと動きを止め――崩れ落ちた。
はぁはぁ、勝ったか。レッドアイほどの激戦、苦戦ではないけれど、自力の足りなさを痛感した。決定打が欲しいなぁ。
結局、鉄の矢は残り1本だった。くっそ、ぎりぎりの戦い過ぎる。回収可能なのは刺さっている鉄の矢5本と外した1本だけだし、これ銀色狼の換金額次第では赤字……か? 3本向こうに残してしまったのは痛いよなぁ。
里は目と鼻の先だ。とりあえず帰ろう。
……はぁ、疲れた。