5-124 食事の時間
―1―
そうだ。せっかくだから、兵士さんに熊の置物と蛙の置物を渡してみるか。これで通して貰えるようならラッキーだけど、どうかなぁ。
魔法のリュックから蛙の置物を取り出し、兵士さんに渡す。どうよ、どうよ。
「これは?」
俺は兵士の周囲に置かれた石像たちを見る。小さなモノ、少しだけ大きめなモノ、鼠や犬などの見たことのある石像たち。これの仲間だよな。どうよ、どうよ。
『これならどうだろうか?』
さらに熊の置物を取り出し、渡す。
「なるほど!」
兵士さんが苦笑している。あー、やっぱり駄目だったか。いやいや、俺もさ、もしかしたらって思っただけでさ、別にさー、これで通れるとか思ってないしー。……思ってないんだからね!
「いやぁ、この石像を見て、結構、同じようなのを持ってきてくれる人は多いんだ。そのうち、この階層が石像で埋まるかもしれない」
はーい、そうですねー。だろうと思ったよ、思ったよッ! やはり6階層で手に入る何かが必要になるのか。
兵士さんにお別れして、3人で名も無き王の墳墓から外に出る。おー、外は、もう夕方か。
「お腹空いたでス」
蜥蜴人のシトリさんが神官服の上からお腹をさすっている。そりゃあ、一日中、迷宮に篭もっていたワケだしな。
「シトリも私も種族的に余り食事を必要としませんが、それでもお腹が空きましたねー」
クロアさんがシトリさんを見て笑っている。
そうだな、俺もお腹が空いたかなぁ。この城で何か食べられるかな。
にしても、ネザーブレイドの袋の中を見るなって、何だったんだろうなぁ。ホント、謎だよ。
―2―
「ランなのじゃー」
そうなのじゃー。城に入った所で姫さまたちと出会う。姫さまに赤騎士と青騎士か。ジョアンの姿が見えないけど、どうしたんだろう?
「おう、ランか。どうしたんだ?」
姫さまの後ろに控えていた赤騎士がこちらへと声を掛けてくる。迷宮帰りさー。
『名も無き王の墳墓から戻った所だ。それで何かご飯を食べようと思って、な』
俺の天啓に姫さまが腕を組み、うんうんと頷いている。そして、そのまま歩き出す。えーっと、ついてこいってコトかな。
「食事の用意があります。どうぞ、お連れのお二人も一緒に」
青騎士がクロアとシトリに声を掛ける。二人が顔を見合わせ喜び合う。
「んんー。助かりますねー」
「嬉しいでス」
さあ、今日のご飯はなんだろねー。
『ところでジョアンの姿が見えないようだが?』
姫さまの後を追いながら、赤騎士に声をかける。
「ああ、ジョアンな」
赤騎士がニヤリと笑う。
「彼は今、修行中です」
青騎士さんが教えてくれる。修行ねぇ。
「ちょうど、今、聖騎士のトップって言えるような人がよ、この迷宮都市に来ているからな」
ああ、あの人か。なるほどな。確かにジョアン的には大先輩となる聖騎士なんだろうし、今が強くなるチャンスか。
「自分たちはもうすぐ国に戻りますからね。ギリギリまで修行するつもりみたいですね」
そうか、そろそろ神国に渡る時期が近いのか。
皆で2階に上がり、いつもの食事部屋に入る。
「ご飯にするのじゃー!」
姫さまの言葉に応えるようにか、それともタイミングが良かったのか、次々と料理が運ばれてくる。
さ、では、皆でご飯にしますか。
―3―
食事にする。
えーっと、今日は肉系ばかりだなぁ。野菜とかは無いんですね。肉ばかり食べていると栄養が偏りそうだけどなぁ。
もしゃもしゃ。
ちょっと味付けが辛い。何だろう、凄い香辛料がきいている感じがする。ぴりりならぬ、びりりって感じだよな。
『そういえば、『名も無き王の墳墓』で聞いたのだが、赤騎士が……』
俺の天啓の途中で赤騎士さんが頭を抱えて呻きだした。ど、どうしたの?
「あ、アネキの話か」
ん?
「スーのお姉さんは、この迷宮都市では有名ですからね」
青騎士さんが苦笑している。
「スーの姉は、騎士の枠を飛び出て冒険者をやっているのじゃ」
へぇ、そうなんだ。コレってさ、多分、騎士のクラスって意味では無く、神国の騎士を辞めてって意味だよな。
「んんー。しかし、星獣様は神国のお姫さまとお知り合いだったんですねー。私の聞いた下水の芋虫の噂話も本当だったんですねー」
ちょっと待て、ちょっと待った。俺の噂って何よ。どんな噂が流れているんだ?
和やかな雰囲気のまま、食事の時間は流れていく。