5-123 名も無き王の墳墓1階層
―1―
3人で3階層を進んでいく。こっちの道は初だからねー、何処に通じているんだろうか。にしてもクロアさんは迷い無く、サクサクと道を進んでいくなぁ。しっかり道を覚えているんだな。
余り広くない、石壁に覆われ曲がりくねった通路。途中、扉が、一つ、二つ……かな。結構な距離を歩いた所でクロアさんが足を止めた。
「んんー。私が先を行くので、シトリお願いしますねー」
クロアさんの言葉にシトリさんが頷く。えーっと、前方にあるのは、おー、おー、例の十字路か。ここにも『床』って線が伸びているな。
クロアさんが十字路に進み、『床』と線が伸びた部分を踏む。
「そこでス」
クロアさんが足を止める。と、あれ? クロアさんが左を向いている。いつの間に左を向いたんだ?
「ここですか。んんー。では先に進みますねー」
クロアさんが右を向き、俺から見ると正面だな――の道へ歩く。十字路を抜けた所で、こちらへ振り返る。
「んんー。次はシトリですねー」
「はいでス」
クロアさんの言葉を受け、シトリさんがゆっくりと、一歩ずつ、何かを確かめているように歩く。
「シトリ、そこですねー」
シトリさんが足を止める。と、あれ? シトリさんが左を向いている。いつの間に左を向いたんだ? って、もしかして、これが、この階層の罠か。
はいはい、ターンテーブルね。まさか、実際に、この目でターンテーブルってモノを見る機会があるとは思わなかったよ。端から見ていると、凄い不思議な光景だな。だってさ、まっすぐ歩いていたはずの人がいつの間にか左を向いているんだぞ。そして、ターンテーブルの上に乗っている人は、その異常さに気づけていない。いや、だってさ、さっきまで正面にクロアさんが居て、急に左を向いたら、さっきまで正面に見えていた人が消えるわけじゃないか。なのに、それがおかしいって気づけないって――それって、異常なコトだよな。
「はいでス」
シトリさんが右を向き、正面、クロアさんがいる方に向き直る。
なるほど、なるほど。ま、これで仕組みは分かったぜ。やっぱり、あの『床』ってのがトラップだったんだなぁ。
「次は星獣様ですねー」
そうだな。
俺はゆっくりと十字路へと歩く。そして『床』と線が伸びている部分を踏んだ瞬間に右を向いた。右を向いたはずなのに、そこには驚いた顔のクロアさんとシトリさんが居た。
「合図を必要としないとは……。んんー。星獣様は、何処で変わるのか分かるのですか?」
おうさ。と言っても星獣としての力って、ワケじゃなくてさ、この俺の右目にくっついている叡智のモノクルの力だけどね。いやぁ、コレ、ホント、トラップキラーだよな。罠が分かるって凄い便利です。
―2―
そのまま、何事もなく3階層を抜け、2階層に。2階層に入った所でクロアさんがランタンの明かりを消そうとする。
『クロア殿、ネザーブレイドなら討伐済みだ』
さっき、うん、ちょっと前に俺が倒したからね。さすがに復活しているとかは、無いでしょ。無いよね? まぁ、復活していたとしても、それほど苦戦するとは思えないしね。ひゃっはー、かかってきやがれー、って感じですよ。
「なるほどー」
クロアさんが頷き、そのままランタンを掲げ、先を進んでいく。俺とシトリさんの2人は、その後を着いていく。まぁ、2階層は直進すれば、すぐに上りの階段だからね。迷うことがないってのはいいね。
階段を上り1階層に。さあ、戻ってきました。と、ここには魔獣が居ないな。この部屋ってさ、俺が入り口から来た時は必ず魔獣が居たけど、下から戻ってきた時には居ないな。倒して進んでいるから、居ない? いや、でもさ、この迷宮に挑戦しているのが俺だけってコトは無いからね。うーん、どういう感じになっているんだろうか? 復活しているのか、何か精製して魔獣が生まれているのか、うーん、謎だ。まぁ、でもさ、今までの経験から、この漂っている魔素が何か関係しているんじゃないかなぁ、って予想しているんだけどね。
そして部屋を出て、兵士さんのトコロへ。
「お、おおー! あんたら、無事に戻ってきたのか。日帰りって聞いていたから、戻ってこないから心配していたんだ」
兵士さんがホッとしたのか、大きく息を吐いている。うん、帰ってこない冒険者ってこの2人であっていたんだ。てっきり、あの6人の冒険者チームかと思ったんだが――うん、思い込みって怖いなぁ。
「んんー。ご心配をおかけしました。そこの星獣様に助けて貰ったんですねー」
「そうでス。星獣様はシルバーロアも倒したらしいのでス」
2人の言葉に兵士さんが、驚いたような顔でこちらを見る。
「ほ、へ、ほー、へー。1人で4階層の徘徊する魔獣を? あんた見かけは大きな芋虫にしか見えないのに凄いんだな」
芋虫にしか見えないって、確かにそうですけども!
「俺は、ここで結構長いけど、俺が知る限りでは……、ああ、1人での打倒は――赤騎士以来か」
赤騎士? 赤騎士って姫さまの護衛の? スーさんか。あの人、結構凄かったんだな。
『神国の姫の護衛の赤騎士か? さすがだな』
俺の天啓に兵士さんが手を横に振る。
「神国のって、今、滞在している姫さまだろう? 違う、違う。俺の知っている赤騎士は女だ。今は、遙か西にあるナハン大森林ってとこの八大迷宮に挑んでいるって聞いている」
ほー。人違いか。にしても、ナハン大森林の八大迷宮って言うと世界樹か。ふっふっふ、俺は世界樹の迷宮の攻略者なんだぜ! どうだ、凄かろう。
「んんー。霊峰に挑んでいる冒険者たちが居るとは……凄いですねー」
霊峰? 世界樹じゃないの? そ、そう言えば、世界樹って攻略済みでレベルが低い迷宮扱いだったな。むう。本当の意味で攻略したのは俺だけ――いや、俺とミカンとシロネだけなんだけどなぁ。うーん。ま、いいか。




