5-122 名も無き王の墳墓3階層
―1―
――《魔法糸》――
暗闇の中、《魔法糸》を下へと飛ばす。うん、下に到達した感触。さ、2人に上がってきて貰いますか。まぁ、暗くて見えにくいけどさ、大丈夫でしょう。
「にゃ」
と、そこで光り輝く羽猫が戻ってきた。そして、そのまま俺の頭の上に上がる。これで周囲が見回せるな。にしても、ホント、お前、逃げ足だけは速いよなぁ。
『上がってきてくれ』
俺は天啓を下へと飛ばし、そのまま待つ。あ、その間に、この死骸の山を片付けるか? いやぁ、この数ですよ。2人が上がってきてから協力して貰った方がいいか? いやいや、待っている間の時間潰しになるか。
よし、頑張ろう。
羽猫が俺の頭の上から降り、周囲を照らしてくれる。そんな光の中で、俺は解体作業を始める。シルバーロアのお腹を真銀の槍で切り裂き、中から魔石を取り出す。おお! 大きいな。
そこで何故か、サイドアーム・アマラに持たせていた真紅妃が震える。いや、あの、食べさせろって言ってるんですか? いやいや、ちょっと、待ってくれよ。貴重な魔石ぽいんだから、これはお預けで、ね、ね?
さてとシルバーロアの体は結構、高く売れそうだからな、いや、良い装備品にもなりそうだしね、持って帰りますか。シルバーロアの死骸を魔法のウェストポーチXLに仕舞う。シルバーウルフも結構良い素材になったよな?
こちらもパパッと魔石を取り出して、魔法のウェストポーチXLに入れますか。いやぁ、結構、袋が一杯になってきたな。これは真銀の槍を魔法のウェストポーチXLの中に仕舞うのは無理か。仕方ない、迷宮だと邪魔になるか、と魔法のウェストポーチXLに仕舞ってきたけどさ、真紅妃を外に出している時点で今更だしな。普通に持ち歩きますか。
俺がシルバーウルフを解体して魔石を取り出し、魔法のウェストポーチXLに仕舞っている所で2人が上ってきた。シトリさんは本当に、高い所の上り下りが苦手なんだな。
「んんー。星獣様、これは?」
ランタンを手に持ったクロアさんが、周囲に散らばっている血の跡を指差す。
「あの巨大な狼が居ないでス!」
ああ、シルバーロアのことね。
『ああ、シルバーロアなら倒した』
どう、凄いでしょ。俺ってば凄いよね。ホント、強くなったよなぁ。
「この階層の徘徊する魔獣を倒したのですか。んんー。さすがは星獣様ですねー」
む。な、何だか、その言い方だと星獣様だから凄いって感じに聞こえるよね。いやいや、俺の実力ですからね、ですからねー。
「あら。んんー。星獣様、レベルが上がっているようですねー。おめでとうございます」
「おめでとうでス」
え? あ、本当だ。レベル上がってるじゃん。下水で地道に戦っていたからなぁ。それプラス、シルバーロアか。最近、余り確認していなかったから、何の経験値が多かったのかよく分からないな。ま、いいか。
【レベルアップです】
さすがになかなかレベルアップしなくなってきたなぁ、と思ったんだけどさ、まだまだ上がるね。
【ボーナスポイント8】
筋力補正:10(3)
体力補正:7 (3)
敏捷補正:78(6)+8
器用補正:10(12)
精神補正:5 (0)
ま、振り分けなんて決まってるけどさ。
筋力補正:10(3)
体力補正:7 (3)
敏捷補正:86(6)+8
器用補正:10(12)
精神補正:5 (0)
敏捷補正100到達! ついに100ですよ。100!
さあ、どれだけ素早くなったか試してみよう。しゅたたっとな。
……。
あれ? 何だか、全然変わった気がしない。元々が充分過ぎるくらいに早いからか、余り変わった気がしない。うーん、一定以上は数値を増やしても変わらないのかなぁ。まぁ、筋力補正をどんどん増やしたらムキムキになるのかっていうと、そういうワケでも無いだろうし――あくまで補正だもんな。やっぱり補正よりも元々の能力の方が重要ってコトか。
ちょっとがっかりである。
いや、待てよ。どうだろう? これからは俺も筋肉を増やすためにトレーニングを開始するというのはいい考えじゃないか? 基礎の地力を上げるッ!
……。
芋虫って筋肉が増えるんですかねぇ。というか、だ。まず筋肉があるのかが分からない。このぶにょぶにょした体の中に筋肉が詰まっているんだろうか? う、うーん。
―2―
「んんー。では、帰るなら今の内ですねー。この階の徘徊する魔獣が倒れた、今なら、魔獣も襲いかかって来ることが無いですからねー」
「はいでス。地上に戻るでス」
へぇ。徘徊する魔獣を倒すと他の魔獣が現れにくくなるのか。って、2階層の時、普通に現れた気がするんだけどなぁ。部屋の中だから別扱いなんだろうか?
ま、まぁ、冒険者救出って目的は達したワケだし、俺も一緒に戻るか。それに、もしかすると、もしかするとだけどさ、2階層で手に入った熊の置物や蛙の置物があったじゃん。あれさ、7階層への直通通路を通して貰う許可証になるんじゃないかなぁ。兵士さんは、6階層で手に入る『ある』物って言っていたけどさ、コレが代わりになりそうじゃないか? だってさ、あの兵士さんの周囲にあった石像と同じような感じだもん。これは陶器製だけどさ、何とかなるんじゃね?
よし、駄目元で聞いてみよう!
となるとサクサク戻らないとな。こっち側のルートは、全然、分からないからさ、2人の後を歩くだけだぜ!
クロアさんが先頭を歩き、シトリさんを守るように俺が殿をつとめる。うん、シトリさんは、ホント、駆け出しって感じだからな、気をつけないとな。
クロアさんがスイスイと石壁の迷路を進んでいく。うーん、道を覚えているのかなぁ。しばらく歩くとのぼり階段が見えてきた。おー、早い早い。まぁ、1日で6階層まで行ける、往復できる距離ってコトだから、こんなものか。いや、でも、迷ったら1日では済まないよな? とくにこの上の階層なんて、よく分からないけど、スタート地点に戻されてさ、あれ、永遠に彷徨っていたら、と思ったらゾッとするぞ。
3人で階段を上がる。
さ、3階層に戻ってきたぞ。