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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略

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424/999

5-119 名も無き王の墳墓4階層

―1―


 この下に誰か居るってコトだよな? どうしよう、とりあえず天啓を飛ばしてみるか?

『下に誰か居るのだろうか?』

 これが例の冒険者たちだったら、助け出さないとね。まぁ、これがさ、この迷宮の罠って可能性も捨てきれないけどさ。


 ……。


 声が帰ってこないな? 向こうは、向こうでこちらを警戒している? それとも俺の天啓が届いていないのか? うーん、もう一度、天啓を授けてみるか。


『こちらの天啓が届いているだろうか?』


 ……。


 途切れた道の上でしばらく待っていると返事が返ってきた。

「そこ、誰か居るんですカ?」

 居るですヨ。って誰だ?

『ああ、居るぞ』

 俺が天啓を飛ばすと、下の方で動きがあった。

「すみませんス、怪我人が居まス。助けて」

 ふむ。怪我人か……。どうしようかな。魔法糸を下ろして、上がってきてもらおうかと思ったけど、怪我人が居るなら無理そうかな。しゃーない、一度、俺が降りて、ヒールレインで治せるような傷なら、そこで治して、それから上がってきてもらうか。


『今から降りるが、驚かないで欲しい』

 一応、言っておかないとね。突然、上から俺が振ってきたらびっくりするだろうしね。まぁ、もし、これが罠だったとしても、罠ごと食い破ってやるだけだからさ、気にせず降りるぜッ!

「エ? どういうコト?」

 さあ、降りるぜ、ピョーンっとな。


 羽猫の明かりが照らす中、下へと下へと落ちていく。結構、高いな。


――《浮遊》――


 ある程度、落下速度が乗った所で浮遊によりブレーキを掛ける。


「クロアさん、空から光る芋虫ス」

 いや、そうだけどさ。って、クロア? 何処かで聞いたことがあるような……。


 穴の底に降り立つ。そこには神官服を着込んだ蜥蜴人と血だらけになり、腕を押さえながら壁により沿うように立っている、何処かで見たことのある森人族の女性がいた。




―2―


「んんー。星獣様でしょうねー」

 森人族の女性は喋るのもやっとという感じだ。倒れ込みそうになるのを蜥蜴人が支える。

「以前、他の迷宮で見かけた星獣様と同じ姿ですねー。もしかすると新しい種族が誕生したのかもしれませんねー」

 いや、多分、それ同じ人だと思うよー。というか、どっちも俺だよな。


『世界の壁で出会ったクロア殿だよな?』

 俺が天啓を飛ばすとクロアさんは、少し、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。

「んんー。なるほどー。あの時の星獣様でしたか。まさか、ここでも会うとは……」

 いや、喋るの辛そうだな。腕の傷は噛み傷かな? と体中から血がにじんでいるのか服が赤くなっている。

「クロアさんは、私をかばってここへ落ちたのでス」

 蜥蜴人さんが申し訳なさそうに下を向く。へー、そうなんだ。この2人はパーティを組んでいるのかな? って、行方不明というか、昨日戻ってこなかった冒険者たちってこの2人かッ! てっきり、料理をしていた6人組かと思ったけど、違っていたのかよ。いや、ちゃんと兵士さんから、冒険者の容姿なんかを聞いていかなかった俺が悪いか……。


「しかし、星獣様もこちらに落ちるとは……、いや、星獣様は飛べるんでしたねー」

 あ、ああ。そう言えばクロアさんの前で《飛翔》スキルを使ったもんな。って、まずは回復だな。


――[ヒールレイン]――


 クロアさんの上に癒やしの雨を降らせる。

「んんー。これは、回復魔法?」

「これが回復魔法ですカ!」

 これで少しは良くなったかね。感謝したまえ、はーはっはっはー。


『何故、このような場所に?』

 俺の天啓を受け、クロアさんが苦笑する。

「それはですねー」

「クロアさんが私をかばっテ!」

 いや、それは聞いたよ。だから、どういうことだってばさ。

「シトリ、私が喋りますねー」

 勢いよく口を開いていた蜥蜴人が口を開けたまま止まる。

「ここに居る、シトリは治癒術士を目指しているんですねー。んんー。その試験の突破に必要な素材が、この迷宮にも、あるんですねー」

「そうなんでス! それでクロアさんに無理を言って頼んで、ここに連れてきてもらったんでス!」

 ス、スって言われると、何だろう、何々っすって、アレだよね。よくある後輩キャラ的な感じだよね。って、いや、というかだね、この迷宮ってCランクにならないと入れないんだよな。治癒術士になるのって、そんなに難易度が高いのか? そりゃあ、貴重になるわ――って、いやいや、どう見ても、この蜥蜴人さんがCランクの熟練冒険者には見えないじゃん。何度見ても駆け出しにしか見えないよな?


「シトリは駆け出しですからねー。私が護衛として付いたのですが、このザマですねー」

 俺が疑問に思ったことを先回りするように答えてくれるなぁ。さすがはクロアさん、凄いっすねー。って、この調子なら、クロアさんの傷は大丈夫そうだな。

 じゃ、俺は一旦、上に戻りますかね。

「んんー。星獣様、上の道はどちらに上がるのですかねー?」

 どっち? どういうコトだ? って、そうか。湖側と、この穴の反対側のコトだな。いや、でも、どういうコトだ? もしかして、俺が来たのって順路じゃないのか? いや、うーん。

『湖側だ』

 俺の天啓にクロアが腕を組み、少し考え込む――が、すぐにしゃべり出した。

「湖側……、なるほど。んんー。その逆側はシルバーウルフ……、狼型の魔獣が沢山居ると思うので気をつけて下さい」

 なるほど。クロアさんの腕の傷はそれか。となると、まぁ、湖側に行きますか。


――《飛翔》――


 《飛翔》スキルを使い、飛び上がる。そのまま、元の道へと戻る。じゃ、魔法糸を下ろしますか。


――《魔法糸》――


 蜘蛛の糸ならぬ、芋虫の糸だね。さあ、上ってくるがいいぞ。

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