5-119 名も無き王の墳墓4階層
―1―
この下に誰か居るってコトだよな? どうしよう、とりあえず天啓を飛ばしてみるか?
『下に誰か居るのだろうか?』
これが例の冒険者たちだったら、助け出さないとね。まぁ、これがさ、この迷宮の罠って可能性も捨てきれないけどさ。
……。
声が帰ってこないな? 向こうは、向こうでこちらを警戒している? それとも俺の天啓が届いていないのか? うーん、もう一度、天啓を授けてみるか。
『こちらの天啓が届いているだろうか?』
……。
途切れた道の上でしばらく待っていると返事が返ってきた。
「そこ、誰か居るんですカ?」
居るですヨ。って誰だ?
『ああ、居るぞ』
俺が天啓を飛ばすと、下の方で動きがあった。
「すみませんス、怪我人が居まス。助けて」
ふむ。怪我人か……。どうしようかな。魔法糸を下ろして、上がってきてもらおうかと思ったけど、怪我人が居るなら無理そうかな。しゃーない、一度、俺が降りて、ヒールレインで治せるような傷なら、そこで治して、それから上がってきてもらうか。
『今から降りるが、驚かないで欲しい』
一応、言っておかないとね。突然、上から俺が振ってきたらびっくりするだろうしね。まぁ、もし、これが罠だったとしても、罠ごと食い破ってやるだけだからさ、気にせず降りるぜッ!
「エ? どういうコト?」
さあ、降りるぜ、ピョーンっとな。
羽猫の明かりが照らす中、下へと下へと落ちていく。結構、高いな。
――《浮遊》――
ある程度、落下速度が乗った所で浮遊によりブレーキを掛ける。
「クロアさん、空から光る芋虫ス」
いや、そうだけどさ。って、クロア? 何処かで聞いたことがあるような……。
穴の底に降り立つ。そこには神官服を着込んだ蜥蜴人と血だらけになり、腕を押さえながら壁により沿うように立っている、何処かで見たことのある森人族の女性がいた。
―2―
「んんー。星獣様でしょうねー」
森人族の女性は喋るのもやっとという感じだ。倒れ込みそうになるのを蜥蜴人が支える。
「以前、他の迷宮で見かけた星獣様と同じ姿ですねー。もしかすると新しい種族が誕生したのかもしれませんねー」
いや、多分、それ同じ人だと思うよー。というか、どっちも俺だよな。
『世界の壁で出会ったクロア殿だよな?』
俺が天啓を飛ばすとクロアさんは、少し、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「んんー。なるほどー。あの時の星獣様でしたか。まさか、ここでも会うとは……」
いや、喋るの辛そうだな。腕の傷は噛み傷かな? と体中から血がにじんでいるのか服が赤くなっている。
「クロアさんは、私をかばってここへ落ちたのでス」
蜥蜴人さんが申し訳なさそうに下を向く。へー、そうなんだ。この2人はパーティを組んでいるのかな? って、行方不明というか、昨日戻ってこなかった冒険者たちってこの2人かッ! てっきり、料理をしていた6人組かと思ったけど、違っていたのかよ。いや、ちゃんと兵士さんから、冒険者の容姿なんかを聞いていかなかった俺が悪いか……。
「しかし、星獣様もこちらに落ちるとは……、いや、星獣様は飛べるんでしたねー」
あ、ああ。そう言えばクロアさんの前で《飛翔》スキルを使ったもんな。って、まずは回復だな。
――[ヒールレイン]――
クロアさんの上に癒やしの雨を降らせる。
「んんー。これは、回復魔法?」
「これが回復魔法ですカ!」
これで少しは良くなったかね。感謝したまえ、はーはっはっはー。
『何故、このような場所に?』
俺の天啓を受け、クロアさんが苦笑する。
「それはですねー」
「クロアさんが私をかばっテ!」
いや、それは聞いたよ。だから、どういうことだってばさ。
「シトリ、私が喋りますねー」
勢いよく口を開いていた蜥蜴人が口を開けたまま止まる。
「ここに居る、シトリは治癒術士を目指しているんですねー。んんー。その試験の突破に必要な素材が、この迷宮にも、あるんですねー」
「そうなんでス! それでクロアさんに無理を言って頼んで、ここに連れてきてもらったんでス!」
ス、スって言われると、何だろう、何々っすって、アレだよね。よくある後輩キャラ的な感じだよね。って、いや、というかだね、この迷宮ってCランクにならないと入れないんだよな。治癒術士になるのって、そんなに難易度が高いのか? そりゃあ、貴重になるわ――って、いやいや、どう見ても、この蜥蜴人さんがCランクの熟練冒険者には見えないじゃん。何度見ても駆け出しにしか見えないよな?
「シトリは駆け出しですからねー。私が護衛として付いたのですが、このザマですねー」
俺が疑問に思ったことを先回りするように答えてくれるなぁ。さすがはクロアさん、凄いっすねー。って、この調子なら、クロアさんの傷は大丈夫そうだな。
じゃ、俺は一旦、上に戻りますかね。
「んんー。星獣様、上の道はどちらに上がるのですかねー?」
どっち? どういうコトだ? って、そうか。湖側と、この穴の反対側のコトだな。いや、でも、どういうコトだ? もしかして、俺が来たのって順路じゃないのか? いや、うーん。
『湖側だ』
俺の天啓にクロアが腕を組み、少し考え込む――が、すぐにしゃべり出した。
「湖側……、なるほど。んんー。その逆側はシルバーウルフ……、狼型の魔獣が沢山居ると思うので気をつけて下さい」
なるほど。クロアさんの腕の傷はそれか。となると、まぁ、湖側に行きますか。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、飛び上がる。そのまま、元の道へと戻る。じゃ、魔法糸を下ろしますか。
――《魔法糸》――
蜘蛛の糸ならぬ、芋虫の糸だね。さあ、上ってくるがいいぞ。




