5-118 名も無き王の墳墓4階層
―1―
とりあえず、謎解きは後回しで先を進むか。と、その前に仮面を取り外そう。このままだと歩くのにも不自由するからな。仕方ないね。って、外れない、うがー、外しにくいぞ。
「にゃにゃ」
頭の上の羽猫も仮面の取り外しを手伝ってくれる。ふう、取り付けも、取り外しも一苦労だな。ま、まぁ、早く次の階に降りるか。
少し長めの階段を降りると、その先には、湖が広がっていた。
え?
いやいや、ここ迷宮だよな? 天井も石壁だよな? しかも、ここより下の階層もあるんだよな? なのに湖?
何か、この湖を渡る方法があるのかな?
とりあえず階段を降りて、すぐの浜辺のようになっている地形を東側に進む。まぁ、何かあるかもしれないからね。
浜辺のような地形をしばらく歩いていると、1メートルくらいはある、大きな巻き貝のようなモノが転がっていた。何だろう? でも、線は魔獣になっているな。これ、近寄ると危ないパターンかな。
俺が巻き貝の方にゆっくりと近寄ると、中からハサミを持ったザリガニのような生物が顔を出した。あー、やっぱり、こういうパターンなんですね。って、完全に大きなヤドカリじゃん。
顔を出したヤドカリが、こちらを威嚇するようにハサミを鳴らす。えーっと、殻が結構固そうだけど、真紅妃で貫けるかな?
ヤドカリがハサミを床に突きつけ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。真紅妃を叩き付けるように上から貫いてみる。殻は簡単に壊れ、ザリガニの中心部分にあったであろう魔石を、真紅妃が砕く。真紅妃に貫かれ、ザリガニは動きを止めた。へ? 脆すぎないか?
俺は自身の小さな手で殻を叩いてみる。カツンっとな。って、痛ぇ。超硬い。柔らかいと思って、そのつもりで叩いたから、腕が折れるかと思ったぞ。かったいなー。
ザリガニ部分も食用の素材になるかもしれないし、丸ごと持って帰るか。とりあえず魔法のウェストポーチXLに入れてっと。
じゃ、進みますか。俺が進もうとした時だった。湖側から、3匹のザリガニが歩いてくる。いや、もしかしたら、さっきの戦いに釣られて湖から出てきたのかもしれないけどさ、凄いゆっくりだな。ホント、動きが遅い。これ、遠くからチマチマと攻撃したら完封出来そうな遅さだよね。まぁ、俺には真紅妃があるから、1個1個叩き潰していきますけどねッ!
ザリガニがこちらを挟むためにか、大きなハサミを広げ襲いかかってくる。俺は、それを無視してザリガニの背後に回り真紅妃で殻ごと貫く。はい、1匹目。と、そこでザリガニが本気を出したのか、残りの2匹が、突然、飛ぶような恐ろしい勢いでこちらへと突っ込んでくる。お、早い。でも、充分、見えているんだよなぁ。突っ込んでくるザリガニを迎え撃つように真紅妃で正面から貫く。
――《魔法糸》――
真紅妃を刺した、そのまま、魔法糸を飛ばし空中に飛び上がる。その俺の下を最後のザリガニが通り抜けていく。倒したザリガニから真紅妃を引き抜きつつ、その大きなザリガニを放り投げる。
――《飛翔》――
駆け抜けていった最後のザリガニを追うように飛び、そのままの勢いで貫く。はい、お終いっと。というか、真紅妃さん、狙ったかのように魔石を砕くなぁ。確かに一撃で倒せるから、早く勝負は付くけどさ、後で魔石の回収が出来ないじゃん。しかも、砕いた後にちゃっかり吸収しているからな。何だろう、俺が真紅妃に操られてる気になってくるよ。ま、残った素材はしっかり回収しておきますか!
―2―
それから何度かザリガニを貫きながら、湖の周囲を探索する。
東側をしばらく歩くと壁に突き当たった。何というか、砂浜に突然、壁が現れたかのような違和感が凄いです。凄いですッ! まぁ、天井があるし、羽猫のライトがなければ真っ暗闇だから、ここを砂浜って言うには無理があるんだけどね。壁が有るから、東側から向こうに進む道は無しっと。
次に西側を進む。東の壁から元の上への階段までの距離は1キロくらいか? それほど長くはないね。
そこから先は変化がなく、東側と同じように、壁に突き当たった。本当にザリガニが生息しているだけだ。う、うーん。ここで、行き止まり?
何らかの手段で、この湖を渡らないと駄目ってコトか。それとも上の階に他のルートがあるのか?
よしッ! とりあえず渡ってみよう。俺には《飛翔》スキルもあれば《浮遊》スキルも、そしてッ! この為に用意されたかのような魔法、ウォーターリップルがッ! よし、使ってみますかッ!
――[ウォーターリップル]――
フェザーブーツが水で作られたかのような膜に覆われる。さぁ、進むぜ!
――[ウォーターリップル]――
数歩進み、効果が切れそうなトコロで再度魔法を発動させる。これ、地味にさ、MPに来るよなぁ。今の最大MPが多い状態だから使い放題に近いけどさ、最大MPが100も無い時だったら、まったく使う気になれなかった魔法だよな。
しばらく歩き続けると、羽猫の光に照らされた向こう岸が見えてきた。お、意外と短いね。とと、魔法を掛け直さないと――いや、でもさ、この距離なら《飛翔》を繋いで渡った方が早かったかもなぁ。
――[ウォーターリップル]――
さ、もうちょっとだ。
【[アクアランス]の魔法が発現しました】
へ? いや、え? 魔法が発現した? このタイミングで? も、もしかして、ウォーターリップルの魔法を連続で使い続けたからか? うーん、魔法の発現法則も良く分からな、な、なじゃぶ、べ。考え事をしていたからか、ウォーターリップルの効果が切れ、俺の体が湖の中に落ちる。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使い、湖の中から体を浮かす。ぷはっ、死ぬかと思った。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い向こう岸まで一気に飛ぶ。はぁはぁ、湖の上で考え事とか、俺は馬鹿か。にしても、湖、結構深そうだな。この湖の底にも何かがあるとか、そんなことは無いよな? ま、まぁ、そういうのは後回しだな。
にしても、アクアランスの魔法ねぇ。試しに使ってみるか。
――[アクアランス]――
俺の前方へと投げ槍のように鋭い勢いで水が放出された。放出された水は空中で飛沫となり、そのまま消えた。へ? 水芸? も、もう一度だ。
――[アクアランス]――
今度は上を狙って発動させてみる。上空に鋭い勢いで水が放出され、霧散した。え、えーっと。これ、強いんだろうか? 俺が覚えているウォーターカッターの方が放出して動かせるし、切れ味も鋭い感じがするよね。う、うーん。これは、もしかするとウォーターカッターがあれば、要らない魔法なのかなぁ。ま、まぁ、選択肢が増えたってことにしておくか。て、消費MP24かよッ! ウォーターカッターが16だから、それよりも、8も、8も多いのかッ! そ、それだけの価値があるんだろうか……。
―3―
向こう岸に渡り、更に奥へと進むと、どんどん道幅が狭くなっていった。そして、羽猫の明かりでも端から端が見えるくらいの幅になった所で、道が途切れていた。本当に、その言葉通り、道がない。大きな穴が空いているだけだ。えーっと、何だ、これ? この穴の下に降りろってコトか? いや、でもさ、これ、向こうが暗すぎて見えないけど、道がある可能性もあるよな?
ちょっと、《飛翔》スキルで飛んでみるか?
と、そこで穴の底から言葉? 字幕が流れてきた。
「んんー」
も、もしかして、この途切れた道の下に、戻ってきていない冒険者たちが居るのか? 落ちて上がって来られなくなったとか、そうなのか?
いや、でも、そうだよな。字幕が流れてきたって、コトは喋ることが出来る、会話が出来る人が居るってコトだもんな。
2016年7月1日誤字修正
あると壁に突き → 歩くと壁に突き