5-115 名も無き王の墳墓2階層
―1―
ネザーブレイドさんよ、明るいから、お前の動きはしっかり見えているぜ。
再度、ネザーブレイドが、棍棒を片手にこちらへと飛びかかってくる。だから、見えてるってばよ!
――《払い突き》――
ネザーブレイドが持っていた棍棒を払いのける。そのまま一回転。くるりと周り、真紅妃を伸ばす。しかし、そこにネザーブレイドの姿は無かった。はぁ? 攻撃を弾いて体勢を崩したのに、居ないって詐欺じゃん、詐欺じゃんよ!
ネザーブレイドは長い手を伸ばし、柱を掴んでいた。そこから手に持った袋をこちらに叩き付ける。へ? 棍棒は? いつの間に袋に持ち替えた?
攻撃を防ごうとするが体が動かない。って、スキルの発動中だから、か? いや、サイドアーム・アマラは動くから、こちらに盾でも持たせていれば、何とかなったか?
俺の脳天に袋が叩き付けられる。が、重い、痛い。コレは、アレか、その袋もブラックジャック的な武器なのか? あ、あが、あたま、頭が割れるかと思ったぞッ!
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らせる。いててて、ホント、頭が割れるかと思ったぜ。と、ヤツは?
俺の目の前に大きく開けた口が迫る。って、目の前かよッ!
――[アイスランス]――
俺の手から尖った木の枝のような氷の槍が生まれ、目の前に迫っていたネザーブレイドを貫き、吹き飛ばす。はぁはぁ、油断も隙も無い。にしても硬いなぁ。ここが迷宮じゃ無ければアイスストームをぶっ放すトコロなんだけどな。その瞬間、斜め上に赤い線が走る。
俺が斜め上を見上げると、どうやって動いたのか、先程、吹き飛ばしたはずのネザーブレイドが天井に張り付いていた。くそッ! 動きも機敏かよッ!
――[アイスウォール]――
飛んできたネザーブレイドが氷の壁にぶち当たる。そのまま氷の壁を砕き、こちらに迫る。天井は? この高さなら行けるか?
――《飛翔撃》――
迫ってきたネザーブレイドを飛び上がり回避する。そして、そのままッ!
煌めく三角錐となってネザーブレイドへ突っ込む。真紅妃がネザーブレイドの肉を削り、抉り、貫く。そのまま真紅妃を引き抜き、後方へと飛ぶ。
地面に縫い付けられたネザーブレイドがヨロヨロと立ち上がろうとしている。させるかよッ!
――《飛翔》――
からのッ!
俺はすぐさま魔法のウェストポーチから真銀の槍を取り出す。
――《W百花繚乱》――
真銀の槍と真紅妃が穂先も見えぬほどの高速の突きを繰り出す。起き上がろうとしていたネザーブレイドを突く、突く、突く、突く。ネザーブレイドから黒い体液が飛び、真っ黒な華となる。
これで、終わりだッ!
――《Wスパイラルチャージ》――
真紅妃と真銀の槍が螺旋を描き、ネザーブレイドへ迫る。その瞬間だった。俺の視界、横に赤い線が走る。え?
気付いた時には俺の横に、もう1体のネザーブレイドが居た。え? 2体? え?
―2―
俺の体が大きく飛んでいく。柱にぶつかり、そのまま滑るように落ちていく。な、何が起きた? 俺が吹き飛ばされた? 2体、居るとか……、卑怯じゃないか……。
「にゃっ!」
羽猫が俺の頭からずり落ちてくる。ああ、柱と俺の間に潰されなくて良かったな。って、ライトの効果が切れてるじゃん。まぁ、この状況じゃ仕方ないか。
にしても、もう1体の名前は見えていなかったぞ。俺の視界外に居たのか? それとも俺が戦っている間に生まれたのか? くっ、完全に油断した。
2体のネザーブレイドが発していると思われる荒い吐息が近づいてくる。まずい逃げないと……。さっきの一瞬で見えたけど、ちょっと後ろに飛べば階段だよな? 今はライトの効果が切れて暗くなっているけどさ、間違いないはずだ。
……。
……逃げる?
いや、違うよな。ここは逃げるトコロじゃ無い。迎え撃つトコロだッ!
俺はずり落ちてきた羽猫を、自身の小さな手で抱える。ちょっと、じっとしていろよ。コレから大変なコトになるからなッ!
そうだよな。こうなったら迷宮で使うのは危険とか、そういうことは言ってられないよな。俺の、俺の最強の攻撃で倒してやるッ!
重なるように表示された2体のネザーブレイドの名前がどんどんこちらへと近づいてくる。ちょうど、いいぜッ!
――[アイスウォール]――
前方に氷の壁を張る。そのすぐ後に氷の壁に何かがぶつかった音が、氷の壁が砕ける音が響く。これでばっちり居場所を把握したぜッ!
喰らえッ!
――[アイスストーム]――
俺の前方に氷と風の嵐が巻き起こる。氷嵐が暗闇の中でも、音と煌めきで自己主張をする。くッ、このままだと、俺まで巻き込まれるッ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、後ろへ、階段があったと思われる方へと飛ぶ。変わらない吸引力が俺をも飲み込もうと、嵐の中へ誘う。巻き込まれてたまるかよッ! 全力で逃げるッ!
《飛翔》スキルの効果が切れ、俺の体が宙に浮き、恐ろしい勢いで後ろへ、嵐に引きずり込まれる。真紅妃、頼むッ!
俺は真紅妃を地面に突き立て、耐える。ガリガリと地面を削り、数歩分、後ろに下がったトコロで嵐が収まった。ふぅ、ホント、迷宮で使う魔法じゃないな。いやぁ、これ、上位版じゃなかったから、まだいいけどさ、上位版を使っていたら自分自身が巻き込まれて終わっていたな。
俺が後ろを振り返ると、2体のネザーブレイドは死んでいた。さすがにアイスストームは耐えられないか。と、このままだとさ、真っ暗で死体の場所まで行くことも出来ないな。仕方ない、羽猫がライトのスキルを使えるようになるまで待ちますか。
にしてもさ、あの冒険者たちは、ネザーブレイドにやられたのか? なーんて予想していたけどさ、どうも違うみたいだな。上手く抜けたのか、倒して抜けたのか、まぁ、どちらにせよ、下の階にいるってコトみたいだな。
じゃ、羽猫がライトが使えるようになったら、この階を探索して、下に降りますか!




