5-114 名も無き王の墳墓2階層
―1―
『名も無き王の墳墓』に足を踏み入れる。さあて、今日は2階層を突破するぜ。もちろん、2階層の徘徊する魔獣、ネザーブレイドを倒して、な!
迷宮に入ると、何故か、兵士さんが声を掛けてきた。
「お、おい、そこの。ちょっといいか?」
あ、はい。何でしょ。
「昨日、この迷宮に入った冒険者たちが、まだ戻ってこない」
へ? 昨日のって、あの小生意気な騎士、俺を食べようとしていた巨人の戦士、料理をしていた魔法使いさん、治癒術士、ちびっ子な探求士、巨大な弓を持った森人族のパーティ? いや、それしか考えられないよな。でも、昨日の今日だろ?
『迷宮内で一泊しているのでは?』
だよね。迷宮が広くなれば、それも有りじゃん。
「うーん、だといいんだが。6階層までは、そんなに広くないんだ。だから、そちらを回る冒険者は、殆どが日帰り感覚で挑むんだよ。だから、ちょっと心配なんだ」
あ、そうなんだ。
『分かった、気に留めておこう』
「頼んだ。俺は下に降りられるほど強くないんだ」
ああ、分かったぜ。確かに頼まれたぜ! ま、欲を言えば何か報酬が欲しいけどさ、冒険者は助け合いだからな! 俺も異界の呼び声で助けて貰ったしね。広げよう冒険者の助け合いって、ね。
では、その冒険者たちも気になるし、このままサクサクと急いで進みますか。
兵士に別れの挨拶をし、4つ目の扉まで歩く。さあて、今日も魔獣が出るのかな。
扉を開けると、そこには一匹のヴァインが居た。あ、ヴァインさん、こんにちは。そして、死ね! 真紅妃でヴァインの芯を貫く。一瞬にして、ヴァインは動くのを止めた。はい、楽勝っと。にしても、この扉の先ってさ、必ず魔獣が出るのかな? そうだと、ちょっと面倒だよね。雑魚だから、いいけどさ、いちいち倒したり、解体したりだと……うーん。
と、そうだ。右の扉も開けよう。前回、宝箱があったからな。今回も何か手に入るかもしれないしね。
ヴァインから魔石を取り出し、そのまま右の扉を開ける。右の扉の中には錆びた剣を持ったスケルトンが居た。あ、こんにちは。そして、死ね! 真紅妃でスケルトンの魔石を砕く。一瞬にして、スケルトンがバラバラになり、動くのを止めた。はい、楽勝っと。にしても、1匹だけとか、俺を舐めてるよね。せめて、この100倍は持ってこいってんだよー。
さぁって、室内には……?
今回も小さな木箱があった。この部屋は必ず宝箱があるのかな? となると、毎日、ここを開けに来れば、お金持ちに? いやまぁ、前回は売ってもお金になりそうにない短剣だったけどさ。まぁ、とにかく! まずは鑑定して罠を調べてみるかな。
【いしつぶて】
あー、いしつぶて、か。うん、いしつぶて、だな。何だろう、この何かを思い出させるようなトラップは。まぁ、考えたら負けか。ま、石が飛んできても回避すればいいか。俺には《超知覚》のスキルがあるからね。飛んでくる石つぶて、なんて、スロウリィだよ、スロウリィだねッ!
じゃ、開けますか! サイドアーム・ナラカを使い、木箱を開ける。開けた瞬間、中から小さな石ころが、恐ろしい勢いで飛び出してくる。俺の目には、それが、まるで静止したかのように、ゆっくりと、しっかりと見えていた。見てから、回避、余裕だぜッ!
ススっと横に動き、石つぶてを回避する。余裕、余裕。
しかし、何故か、俺の頭に石つぶてが当たる。痛ぇ。どうして、どうしてだ? しっかり回避したよな? 何で、俺の頭に石が、痛い、痛いじゃんかよ。これ、体液出てるんじゃないか? ひでぇ、ひでぇよぅ。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らせ、頭部分の傷を癒やす。で、中身は何かな? 俺に、これだけの傷を負わせたんだ、良い物だよな? な? えーっと、何だ、コレ?
箱の中には小さな木の枝が入っていた。小さな木の枝? と、とりあえず鑑定だ。
【木の小杖】
【木属性の小杖。特別な力は持っていない】
は? いやいや、特別な力は持っていないとか、わざわざ解説さんに言われてるぞ、コイツ。いや、でも木属性を持っているから、コレがあれば、この迷宮でも木の魔法が使えるのか。うーん、便利なのか、微妙なのか、鑑定で売値とかも分かればなぁ。
とりあえず魔法のリュックに入れておくか。
―2―
2階層へと降りていく。ちょっと、薄暗くなってきたな。さあ、出番だぞ、羽猫よ。
――《ライト》――
羽猫が光り、階段を照らしていく。さあ、進むぜ。今回は倒すつもりだからね、明かりを付けて進むぜ。
そして、大理石のような柱が並ぶ通路に出る。さあ、2階層だね。
通路の奥からびたんびたん、といった何かを叩き付けるような音が聞こえる。音はどんどん、大きくなり、俺の目にもネザーブレイドと書かれた線が見えるようになった。さあ、やってきたな!
現れたのは目の部分に薄汚れた包帯を巻き、手に細長い棒と袋を持った、手と足が異様に長く伸びた魔獣だった。現れたな、ネザーブレイドッ! って、アレ? 昨日見た時はシャムシールみたいな武器だったよな? 棍棒みたいなのに変わってる。うーん、イメチェン?
俺の頭の上の羽猫が気になるのか、ネザーブレイドが羽猫を目掛けて飛びかかってくる。
「にゃ!」
俺はススっと横へ回避する。俺には《超知覚》スキルがあるからね。お前の動きなんて、スロウリィだぜ、スロウリィ!
俺の横を抜けたネザーブレイドが、近くの柱に飛びつき、こちらへと振り向く。
――《ウィンドボイス》――
「死ねばいいのに」
俺の魔法に伴い、遠くに風の声がこだまする。
ネザーブレイドが声のした方を振り向き、飛ぶ。ふふふ、ふぁふぁふぁ、単純なヤツよのぅ!
――《飛翔》――
飛んだネザーブレイドを追いかけるように《飛翔》スキルを発動させる。さあ、喰らえッ!
――《スパイラルチャージ》――
ネザーブレイドの後ろから赤と紫の螺旋を纏った真紅妃が迫り、そのまま貫く。ネザーブレイドが、その勢いに吹き飛び、柱に当たり、そのまま地面を転がる。が、すぐに態勢を立て直し、天井へと飛ぶ。が、頑丈だなぁ。それとも、これがSPが多いってコトなんだろうか? そう言えば、真紅妃で貫いたはずなのに、もう傷が見えないな。
羽猫の力によって明るくなった迷宮内に、ふしゅー、ふしゅーとこちらを威嚇するような音が響く。