5-109 お好み焼き
―1―
――《転移》――
西側の中庭から自宅へと戻る。さあて、ポンちゃんに相談だね。でも、この時間だとポンちゃんは食堂で仕事中か。
「マスター、お帰りなさいませ」
あ、14型さん、今、帰りました。と、そうだ。
『14型、ポン殿に話があるから呼んで貰えるか?』
俺の天啓を受け、14型が優雅にお辞儀をする。じゃ、頼んだからね。
そのまま家の裏口から部屋に入り、俺専用の椅子に座って待つ。しばらく待っているとポンちゃんがやってきた。
「オーナーが、この時間から居るってのは珍しいよな。何か作った方がいいかい?」
いや、そうじゃないんだ。
『ポン殿、相談があるのだ』
そうそう、相談があるというのだ。
「分かったよ。ちょっと待ってくれよ、食堂の方を任せてくるからよ」
ポンちゃんがニヤリと笑い、食堂の方へと戻っていく。あー、確かに、まだ営業時間だもんね。いやあ、お仕事を邪魔してごめんなんだぜー。
専用の椅子に座り、待っていると14型がやって来た。14型の方が先に来るのかよ。
「マスター、話は通しておきました」
あ、はい。俺もさっきポンちゃんに会ったんだよ、いやぁ、14型さんは有能だなぁ、うんうん。
14型を後ろに控えさせて、そのまま待っていると、次はフルールがやって来た。いや、お前、何しに来たの?
「あんら、ランさまですわぁ。珍しい」
いや、俺がこの時間に居ると珍しいのかよ。で、何しに来たんだよ。
「休憩、休憩ですわぁ。この時間はフルールのおやつタイムですわぁ」
あ、はい。そうなんだ、良かったね。フルールが席に座り、そのまま待っているとポンちゃんがやって来た。
「なんだ、フルールも居るのかよ。いつものか?」
フルールが犬頭を縦に振る。それを見てポンちゃんがヤレヤレって感じに肩を竦めながら食堂へと戻っていく。いや、俺の話が進まないんですけど……。
と思ったらポンちゃんはすぐに戻ってきた。手に持っている皿に乗っているのはクッキーか? それっぽい食べ物だな。犬頭のフルールがらんらんと目を輝かせながら、それを見ている。
「ほらよ」
ポンちゃんがフルールの前に皿に置くと、フルールはすぐに食べ始めた。
「フルールは幸せですわぁ」
あ、そう。やっぱりクッキー系の甘い焼き菓子って感じぽいな。と、そうだ。俺の話、話。
ポンちゃんも自分の席に着く。
「で、オーナーよ、話って?」
そうそう、それだ!
『迷宮都市のヤズ卿に、何か食べ物を贈ろうと思うんだが、何か良い案は無いだろうか?』
「ヤズ卿か……」
ポンちゃんが腕を組み考える。あれ? ポンちゃん、ヤズ卿を知っているのか。
「迷宮都市の盟主で食道楽で有名なヤズ卿だよな?」
そうそう、って、そうだったんだ。でも盟主って? 国王ってワケでも無いし、領主ってワケでも無いみたいだし、謎な立場の人だよな。
「しかしよ、ここから迷宮都市まで距離があるよな? オーナー、それはどうするんだ?」
あー、それは《転移》でぴょーんと。と、そうか、《転移》って珍しいスキルみたいだからな。
『そこは大丈夫だ』
「でもよ、さすがに移動はするだろうからよ、余り複雑な調理法の料理は無理だよな?」
あー、確かに。形とかを大事にするような料理は無理だな。
「そうだな。最近だがよ、かなり高級品だが、レッドドラゴンの肉が入ってきたからよ、それを使ってみるか?」
おー、誰かが最近、レッドドラゴンを倒したのかな。あれ、意外と強敵だったからなぁ。凄い冒険者もいるもんだ。と、そうだ、せっかくのチャンスだ。俺も何か、この世界に無い、俺の知っている料理を作って無双しますかッ!
となると、アレだな! 俺が知っている料理って言うとラーメンやカレーか? ラーメンはなぁ、この世界にはインスタント麺とか無いし、諦めるとして、カレーか! 万能料理のカレーなら、ヤズ卿を唸らせることも出来るだろう! って、カレー粉がないじゃん。カレー粉無しでカレーは無理だよなぁ。うーん、他に何かあるか? 俺の知っている料理って、うーむ。いや、待てよ、そうだ! 小麦粉があったよな? 小麦粉があるんだから、粉モノ料理なら作れるんじゃないか? そ、そうだよ。カレーやラーメンは無理でもお好み焼きぽいモノなら……うん、これなら出来そうだ。
『ポン殿、卵やキャベツのようなシャキシャキとした歯ごたえの野菜、それに肉はあるだろうか?』
俺の天啓にポンちゃんが首を傾げる。
「ああ、ああよ。歯ごたえのある野菜なら、ちょっと高めだけどあるぜ。それに卵か、よ……。オーナー、凄い高級料理を作る予定か?」
あ、卵って高いんですね。そう言えば、鶏とか見ないもんな。鶏ぽい巨大な魔獣なら、この間、倒しましたけどね。
と、後はソースか。うーん、粉モノなら、ソースが重要だよな。でも、そういう、ソースって、あー、そうだ! スイロウの里の食堂で蒲焼きのタレがあったよな。あの時は保存が出来ないからって断られたけど、今なら、この食堂に氷室があるから保存も利くし、うん、アレで代用しよう。割と美味しくなるんじゃね?
「なんなんですわぁ。フルールが仲間外れにされてますわぁ」
クッキーを食べ終わったらしいフルールがこちらの話に食いつく。
「他国のお偉いさんに贈り物が必要なんですぅ? それはフルールの得意分野ですわぁ」
あ、そうですか。じゃあ、フルールも何かお願いします。
―2―
翌日、無事、スイロウの里から蒲焼きのタレをゲットし、その日は1日かけて、ポンちゃんにお好み焼きの作り方を伝授する。うん、色以外の見た目だけはお好み焼きぽいモノが出来たぞ。まぁ、野菜の色が青色だったから、青いお好み焼きなんですけどね。青って食欲が減衰する色だよなぁ。先人たちは、よく、この色の野菜を食べようって思ったもんだぜ。
更に翌日、俺はポンちゃんから、作り慣れて貰った焼きたてのお好み焼きをゲットする。と、何故かフルールからも、謎の包みを受け取る。しかしまぁ、焼きたてを食べて貰いたいけど、昼前からお好み焼きはキツいか? 蒲焼きのタレを塗りたくっているから、結構、こってりしているしなぁ。それに、なんとか昨日ゲットした、レッドドラゴンの肉からステーキを作って貰ったけど、これも冷めたら肉が硬くなりそうで……うーむ。
ま、今から昼過ぎに変更ってのも、な。朝からだけど、食道楽な人なら大丈夫でしょ、うんうん。それに朝の方がお偉いさんの予定は空いてそうだしね!
――《転移》――
《転移》スキルを使い迷宮都市にある王城の庭に着地する。ほんと、結構な距離があるのに《転移》スキルなら一瞬だよな。まぁ、3日って約束だけど、1日早い分には大丈夫でしょう。
そのまま城内に入り、2階へと上がる。って、これ、どうしたら、いいんだ? 今まではふっと姫さまが沸いてきたから、そのまま姫さまに着いていくだけで良かったけど、えーっと、どうしよう。姫さま、沸いてこないかなぁ。
と、とりあえず、そこら辺にいる人に頼んでみよう。っと、アレ? あそこに見える騎士鎧の人って、門番してた人じゃん。城の中に居るってことは、実は偉い人だったのか? ま、まぁ、顔も知っているし、話しかけてみるかな?
俺が話しかけようと近づくと、向こうもこちらに気付いたのか、向こうから声をかけてきた。
「おや、そこに居るのは芋虫冒険者じゃないかね。どうした、城で迷ったのか?」
いや、ちゃうんすよー。ヤズ卿に贈り物があるんすよー。
『いや、ヤズ卿に贈り物が』
「なるほど、なるほど。それなら私が預かっておくが?」
いやいや、それだと困るんすよー。
『いや、食べ物なのだ』
そこで門番? の人が頭を抱える。
「ヤツは、またか!」
ううん?
「はぁ。芋虫魔獣、そこで待ってるんだ。私が連れてこよう」
門番? が大きくため息を吐き、そのまま歩き出す。いや、えーっと、もしかして、結構、お偉いさんでしたか?
しばらく待っているとマントをはためかせた騎士鎧の人がヤズ卿を連れてくる。何故か、ヤズ卿がおろおろと周囲を見回している。
「芋虫冒険者、連れてきたぞ」
あ、はい。すいません。何だか、獅子頭のヤズ卿が小っこくなってるよ。
「あ、うん。ランよ、約束は明日だったと思うのだが」
あー、そうだったね。でも、早く用意できたからね。
『すまぬ。早く用意が出来たので』
俺の天啓にヤズ卿が吹っ切れたように、豪快に笑う。
「そうか、そうか! それならさっそく飯にしよう! いやぁ、小難しい会議より飯だ、飯!」
なんだろう、この無理して笑っている感。騎士鎧の人が大きくため息を吐いている。
ま、まぁ、これで、ご飯って流れになったのかな。しかし、ホント、この騎士鎧の人、どんな立場の人なんだろうか?