5-107 国と国の間
―1―
「ラン、名も無き王の墳墓に挑んでみて、どうなのじゃ?」
姫さまが聞いてくる。どうなのじゃ、と言われても、まだ第1階層だから、何とも言えないよな。冒険者ギルドで言われていた徘徊する強い魔獣ってのも会ってないしなぁ。まぁ、コレからだね、コレから。
『まだ入ったばかりだからな、コレからだ』
姫さまがふむふむと頷いている。
「この名も無き王の墳墓を初めて攻略するのは――わらわは、ランだと思っているのじゃ!」
まぁ、俺もさ、そうなりたいと思っているんだけどね。第1階層に他の冒険者の姿がなかったのは、もっと先に進んでいるからだろうしなぁ。10階層で稼いでいるような冒険者も居るだろうから、何時、攻略されてしまってもおかしく無いよな。ま、まぁ、そうは言っても俺は俺で急いで攻略するつもりだけどさ。
「ちなみにじゃ、わらわの神聖レムリアースにも八大迷宮があるのじゃ」
そう言えばシロネが八大迷宮が3つあるって言っていたよな? って、アレ? 俺が知っている八大迷宮って、ナハン大森林に二つ、世界樹と何か、それと帝国にある――世界の壁、空舞う聖院、そして、この迷宮都市の名も無き王の墳墓と二つの塔だよな。これで6個になるぞ。3個? 2個の間違いじゃないか? 俺はシロネに騙されていたのか?
『知り合いに神国には3つの八大迷宮があると聞いていたのだが、神国にある迷宮のことを聞いても良いだろうか?』
姫さまが、腕を組んだまま、ふむふむと頷く。
「わかったのじゃ!」
そして、そのまま姫さまがすたすたと歩き出す。へ? どういうこと? そっちは城の中の方だよな?
「ラン、姫さまは一緒に食事をしよう、そこで話すって言ってるのさ」
そう言い残して、赤騎士が姫さまの後を追う。そうだったのか。って、難しいよ、それを理解するのは難しいよ。
「では、ジョアンを拾って食事にしますか」
青騎士も歩き出す。ふむふむ。
じゃ、俺もついて行きますか!
―2―
途中、練武場にて脇目も振らずに練習を繰り返していたジョアンを無理矢理拾い、城の2階へ。
「ら、ランも城に来たんだな!」
おうさ! でも、ジョアンたちはもうすぐ神国に行くんだよな。
2階を歩き、一つの部屋に入る。
「さあ、座るのじゃ」
座るのじゃ、って俺の体型だと椅子に座るのは厳しいんだけどなぁ。まぁ、立ったままでいいか。
「ふむふむ。その姿には厳しそうだな!」
と、そこで俺の後ろから、声が――って、誰だ! 思わず振り返ると、そこにはヤズ卿が居た。
「なんだ。お前たちも、これから飯か」
獅子頭のヤズ卿が口を大きく開けて豪快に笑っている。いや、あの、そこに立たれると齧られそうで怖いんですけど。
ヤズ卿も部屋に入り、そのまま自分の席と思われる上座に座る。
「ふむふむ。しかし、あれだな。今日は迷宮都市1番のご馳走が入ったんだがな。ちょうど、お前が居る時とは……うーむ」
何故か、ヤズ卿が俺を見て唸っている。何々、俺が居たら駄目なの? 俺もご馳走なら食べたいんですけど、駄目なの? 意地悪するんですかい?
「まぁ、あれよ。お前も、なんだ、気を悪くするな」
獅子頭のヤズ卿が自身の髭を触りながら、そんなことを言う。俺が? どういうことだ? と思っている間に次々と料理がテーブルの上に並べられていく。タイミングが良いというか、準備がいいなぁ。狙っていたかのようなタイミングだよ。
並べられていく料理を見ていく。うーん、やはり肉料理が多いな。荒野っていう緑の少ない場所だから、肉中心になるのかな? っと、何だ? 中央に置かれた料理、何かを揚げたモノみたいだけど、何だ? って、よく見たら!
「迷宮都市で1番のご馳走って言うとな、これよ」
ヤズ卿がグロい形状の揚げ物をひょいと掴み、そのまま咀嚼する。
「そうよ、芋虫の天ぷらよ。はっはっはっは! お前には刺激が強すぎる料理だろう?」
そう、ヤズ卿が美味しそうに食べているのは芋虫の天ぷらだった!
いや、まぁ、俺はこんな姿ですけども、別に芋虫に対して思う所があるわけじゃないから、別に食材であっても、種族的な観点で何も思わないけどさ、虫を食うってのが、なぁ。虫を食べるって、ちょっとグロくないか? スイロウの里で蜂の卵を、白飯と勘違いして食べた時も吐こうか迷ったくらいなんだぞ。食虫文化は馴染めないなぁ。まぁ、こういう荒野だと虫って栄養価が高いらしいから、貴重な食料になるのかもしれないけどさ、でもさ、う、うーん。
ま、俺は他の料理をいただくとしよう。
―3―
「という訳なのじゃ!」
いや、何がというワケか分からないんですけど。姫さま、話を省略せずにちゃんと話して下さい。
「な、なんのことだ?」
ジョアンがガツガツと全てを喰らい尽くす勢いで食べながらも話に参加してくる。
「迷宮都市の関係のコトなのじゃ」
あれ? そういう話だったか? 俺は八大迷宮の数の話だったような。
「ふむふむ。あれのことか」
ヤズ卿、分かって喋ってる? 適当に相づちを売っているだけの気がするなぁ。
「ランにわらわの知っている八大迷宮について教えるのじゃ」
何というか、姫さまってばさ、ぱっと見馬鹿ぽいのに、知識はあるよな。
「ナハン大森林に二つ、帝国に二つ、迷宮都市に二つ、神国に一つ、世界のへそに一つなのじゃ」
へ? ど、ど、どういうこと? それに世界のへそって、何処よ、何処のことだよ。
「おー、その話か!」
ヤズ卿、やっぱり何の話か分かっていなかったんだね。この人がトップで、この国大丈夫か?
「迷宮都市は中立都市ゆえ、神国にも帝国にも属しておらんのじゃ。しかし、国の境的には帝国に、文化や交流的には神国に属しているとも言えるのじゃ」
ふむふむ。
「つまりなのじゃ!」
溜めるねぇ。
「神国寄りの者は迷宮都市を神国の属国として扱い、帝国寄りの者は迷宮都市を帝国の属国として扱うのじゃ。これでランの疑問の答えになると思うのじゃ」
うん?
……。
な、なるほど。つまり、シロネは神国寄りの考え方で迷宮都市の八大迷宮を神国のモノとして扱っていたから、数が3なのか。シロネさんってば、神国をぼろくそに言っていたわりには、考えが神国よりだったんだな。
「ちなみに、わらわの神聖レムリアースにある八大迷宮は『空中庭園』という名前の風属性の迷宮なのじゃ。すでにわらわのご先祖様が攻略済みなのじゃ」
な、なるほど。神国はすでに攻略済みだったか。
「神国か、帝国か、どちらの人間かを図るには1番分かりやすい手法よな。ま、俺の国を! 勝手を言いやがってと思う所だがな!」
ヤズ卿が大きく口を開け、笑っている。まぁ、ヤズ卿からしたら、複雑だろうな。中立都市のはずなのに、左右の国からは自国領扱いされているんだもんな。よく、これでバランスが保てているよなぁ。それだけヤズ卿か有能ってコトか? そうは見えないけど、そうなんだろうな。
2016年3月11日修正
勝って → 勝手を




