5-106 階段を発見
―1―
ホーンドラットが飛び出してきた部屋の中を見る。少し広めの室内には何も無かった。ただ、俺が倒したホーンドラットが転がっているだけである。うーん、このホーンドラット、この室内にどうやって現れたんだ? 謎だ。迷宮が魔獣を作り出しているんだろうか? やっぱり、その可能性が高いよなぁ。そう言えば、世界樹でも魔素を使って動いていると思われるリフトがあった所では魔獣が現れなかったもんな。うん、やっぱり、その可能性が高いか。
で、このホーンドラット、どうしよう。今更、解体するのも面倒だし、売るにしても小銭にしかならないし、うーん。こういう作業を専属でやってくるような、そう14型みたいな存在が必要だね!
……。
うん、次は14型も連れてこよう。
さあて、ばんばん扉を開けていきますか。
次の扉を開けると、4体のスケルトンが飛び出してきた。今度はスケルトンか。スケルトンたちは手に棍棒や錆びた剣などを持っている。ふむ、ちゃんと骨の中に魔石を持ったスケルトンだな。うーん、ちょっと危険かな?
――《百花繚乱》――
真紅妃から高速の突きが放たれ、骨を砕いていく。次々と骨が砕け、骨片の華が咲いていく。一瞬にして4体の骨が粉々になる。残ったのは小さな4個の魔石だけだった。で、部屋の中は?
この部屋の中も広いけどさ、何も無し、か。これ、明らかな手抜きじゃないか? 1階層だから、なのかな。うーむ。
次の扉を開けると、何も現れなかった。室内は同じような広さだな。うーむ、予想していたのと違って凄い手抜きダンジョン感が凄いぞ。
最後の扉を開けると、そこには無数のヴァインが居た。うわ、食人植物がこんなトコロにも!
――[アイスランス]――
入り口から中の全てのヴァインを一掃する為に氷の槍を生み出そうとするが、魔法は発動しなかった。あ、しまった。水天一碧の弓を魔法のウェストポーチXLに仕舞ったままだった。そりゃ、発動しないよな。事前に情報を入手していたのに、生かせないとか、俺、完全に無能じゃん。いや、まぁ、敵が弱すぎて油断したってのもあるか。
目の前のヴァインから蔦が伸びてくる。はぁ、仕方ない、地道に1個1個潰していくか。蔦を回避し、真紅妃でヴァインの芯を貫き、そのまま横へスライドさせ、なぎ払い、周囲のヴァインを斬り裂く。すぐに周囲のヴァインから、しなる無数の蔦が伸びてくる。横へとスライドさせた真紅妃を一回転させ、逆方向の蔦を斬り払い、そのまま突き刺す。さらに突き刺す。突き刺す、突き刺す。蔦を斬り払い、突き刺す。
ふぅ、これで終わりか。とりあえず用心のために水天一碧の弓は取り出すだけ取り出しておこう。
――《魔法糸》――
魔法糸を作り水天一碧の弓を背中に結びつける。ま、余り広くない迷宮で弓を使う機会は少ないだろうからね。ま、とりあえず、これで氷魔法は使えるだろうし、うん、オッケー、オッケーですよ。
さあて、室内はどうなっているかな?
―2―
少し広めの室内には正面と右側に扉があった。うーん、石壁で、こうも無機質なダンジョンだと気が滅入りそうだなぁ。燭台の明かりも薄暗くて、ホント、心に響く作りだよ。
とりあえず正面の扉を開けるか。
扉を開けると……そこには下り階段があった。って、もう? 短い、短いよ! 第1階層ってコレで終わり? 右側に部屋があるとしても5部屋程度じゃん。何だ、コレ?
う、うーん、下り階段を見つけたからさ、今日は一旦戻るかな。
ヴァインから魔石を取り出し、名も無き王の墳墓から外に出る。そう言えば、ここには他の八大迷宮で見かけた台座がないな。あれでびゅーんと近道出来るようになるのかと思ったんだけどなぁ。ここは、ちょっと他と作りが違うのかもしれないな。
俺が名も無き王の墳墓から出ると見たことのある姿が見えた。
「ラン、ランがやっと来たのじゃ!」
そう、そこには、あの姫さまが居た。姫さまじゃん、俺が来たことを聞いたのかな。
「姫さん、待ってくれー」
赤騎士と青騎士も遅れてやってくる。おや、ジョアンの姿が見えないな。どうしたんだろう?
「ふっふっふ。どうじゃ! わらわの言ったとおりだったのじゃ!」
姫さまが赤騎士たちの方を振り返り、胸を張る。しかし、走ってきた赤騎士は肩で息をしているような状態で、すぐには答えられないようだった。
「はぁはぁ、って、おいおい、その姿、ランかよ! もうCランクに上がったのか? 砂漠で話した時はDランクだったよな?」
「ふふーん。だから、ランは凄いと言ったのじゃ」
姫さまが腰に手を当て、大きく仰け反る。だから、そのまま倒れちゃうよ。
『ところでジョアンは、どうしたのだ?』
いやまぁ、このメンバーの中にジョアンが居ないと心配になるよな。
「あー、ジョアンな。あいつなら練武場で鍛錬していると思うぜ」
赤騎士が練武場の方向を指差す。そうか、ジョアンも頑張っているんだなぁ。
「わらわたちはもうすぐ神国に帰るのじゃ。それに間に合わせるとはさすがはランなのじゃ」
いや、まぁ、狙ったわけじゃないんですけどね。でもさ、ジョアンたちが神国に行くまでには名も無き王の墳墓に挑戦したいと思っていたのは本当だけどさ。




