5-105 名も無き王の墳墓1階層
―1―
東の中庭にある冒険者ギルドに入る。さあて、どんな感じかなっと。あれ? 外の時みたいな挨拶がないね。
室内には丸テーブルが4個、それと奥にカウンターって感じだね。奥に有るカウンターの向こう側には暇そうにしている一人のおっさんが居た。
丸テーブルに他の冒険者の姿は見えない。うーん、迷宮探索に行っているのかな?
俺は、そのまま奥のカウンターに向かう。
「何だ、最近は魔獣が冒険者をやるようになったのか」
おっさんが呟く。いや、まぁ、確かにそうだけどさ。
『名も無き王の墳墓の情報が欲しい』
俺の天啓におっさんが片眼を閉じニヤリと笑う。
「お前、新人か」
そーです。歴戦の新人です。
「名も無き王の墳墓の情報だな。ま、ここに来る連中はその為だから、当然って訳だな」
そりゃね、それ以外は外の冒険者ギルドに行くだろうからね。
「長くなるが構わないか?」
構わん、構わん。是非、説明したまえ。
「名も無き王の墳墓は全10階層だ。上層部にあたる1から3階層はGやEに該当するような弱い魔獣が中心だ。さらに迷宮の構造も単純だな」
ほうほう。
「それならもっとランクの低い冒険者に開放しても、なんて思ったんじゃないか?」
ちっちっと、おっさんが指を振る。
「名も無き王の墳墓には徘徊する強力な魔獣がいるって訳よ。だから、不幸な事故を無くすためにCランク以上からの挑戦になっているって訳よ」
なるほど。異界の呼び声の鎧みたいな、徘徊している強敵がいるのか。
「次に中層の4から6階層だな。ここも魔獣が強くなっているとは言ってもEからD程度だからな、Cランクに上がっている冒険者なら苦労することもないって訳よ」
ふむふむ。
「ここで手に入るアイテムを持っていると1階層から7階層への直通通路を使えるようになるって訳よ」
そ、それは青いリボンだったりしませんか?
「7から9階層は魔獣も強くなりCやBクラスの魔獣が出るようになるって訳よ。この階から落とし穴やパーティを惑わす罠なんかが出始めて危険度が増してくる」
ふむふむ。
「最後の10階層は一本道だな。最後に待ち構えている魔獣とは1対1でしか戦えないからな、いくらソコまで進める猛者でもよ、一人は無理って訳よ」
ふむふむ、姫さまから聞いている事前情報と同じだね。まぁ、でもさ、俺ってば殆どソロだから、その辺はいつも通りで行けそうな気がするんだよなぁ。
「名も無き王の墳墓の属性は闇のみ。それ以外の属性の魔法を使うなら属性装備が必須って訳よ」
な、なるほど。砂漠と一緒って訳か。俺は、と。風なら真紅妃が、金ならフェザーブーツが、水なら水天一碧の弓が、闇は元からあるし、うん。いつの間にか全ての属性装備が揃ってるじゃん。これなら俺が覚えている全ての魔法が使えるし、なんとかなりそうだな。でも、迷宮だよな? 迷宮内は狭いだろうから、アイスストームを使うのはキツそうか。狭い所で使ったら俺自身が巻き込まれかねないからな。となるとアイスウォールやアイスランス中心、スキルもスパイラルチャージや百花繚乱といういつもの、か。そろそろ、もうちょっと上の技が欲しいなぁ。
『他に注意点は?』
聞けることは全部聞いておかないとね。
「名も無き王の墳墓は上位の冒険者しか挑戦出来ないから、入り口が混むことは余りない。が、それでも中で他の冒険者と会った時は揉めないように注意することがあるって訳よ」
ふむふむ。まぁ、確かに揉め事は避けないとね。
「まず、魔獣は先に手をだしたパーティが優先だ。幾ら、相手がヤバそうで手助けした場合でも、手に入れた素材は先に手を出したパーティに優先権がある。これを忘れるな」
ふむふむ。手助けする側は完全に善意になるって感じか。
「それと、手に入れた素材なんかは、ここで買い取るからな」
ここは換金所があるわけじゃ無いんだな。まぁ、でもさ、冒険者ギルドで買い取って貰えるなら、その方が楽か。
と、これで聞くことは聞いたかな。もうちょっと詳しい内容を教えてくれてもいいかなーっと思わないでもないけど、そこは自分で迷宮を探索して覚えろって感じなのかな。まぁ、Cランクになるような冒険者ならってトコロも、あるのかもしれないね。
さあて、情報も手に入ったからね、さっそく名も無き王の墳墓に挑戦しますかね。
―2―
小さな祠に入ると、祠とほぼ同じサイズの棺があった。そして、その棺の中に下り階段が見えていた。なるほど、ここが入り口になっているんだね。
じゃ、行きますか!
石壁に囲まれた階段を降りていくと広い通路に出た。壁には火の点った燭台が並んでおり、通路はほんのりと明るい。右には扉、左は通路っと。おや、右の扉の前に人の姿が見えるな。
扉の前には無数の小さな石像が置かれており、その石像に囲まれるように兵士姿の人が居た。石像は虎や猪、馬や兎、動物の姿をしているね。ほー、この世界でもこういった動物が居るのか。
「ちょっと待て、ちょっと待て、そこの魔獣、近寄れば、き、斬るぞ」
ふむ。迷宮に居るから俺の情報を手に入れていないのかな。不本意ながら、ちまたで下水のランとして有名な芋虫様ですよー。最近は自分が星獣だってことも忘れそうなくらいに下水、下水って言われているランですよー。
『このような姿だが、冒険者をしている』
俺は兵士姿の人に胸元にぶら下げているステータスプレート(金)を見せる。
「あ、ああ。そうか、俺の知らない種族の人だったか、す、すまない」
いや、まぁ、種族って言われると、微妙なんだけどね。だってさ、俺みたいなのって俺しか居ないだろうし、ね。
「こちらは7階層への直通通路だ。6階層で手に入る『ある』物を持ってこないことには通る許可を与えることは出来ない」
ふむふむ。これ、この兵士さんの周囲に一杯ある小さな石像がヒントだよね。どう考えても、この動物の石像を持ってこいってコトだよね。そのある物ってモノが何かを当てるのも試練の一つって感じなのかな。
さあて、では左の通路を進みますか。左の通路を進み続ける。途中、何個か扉があったが、それを無視して進み続けるとすぐに行き止まりとなった。ふむ、他の冒険者と出会うとか、そういうコトは無い……か
と、1個1個、扉を開けて中を探索してみるか。最初の分岐路まで戻り、一個目の扉を開ける。
すると中から角の生えたネズミが飛び出してきた。はっ? もしかしてホーンドラット? 1階層って、この程度なのか? とりあえず飛び出してきたホーンドラットを躱し、すれ違いざまに真紅妃で貫く。ホーンドラットはあっさりと動きを止めた。いや、まぁ、所詮、ホーンドラットだしな。しかも1匹とか……負ける要素が無いじゃん。
う、うーん。名も無き王の墳墓ってもしかして、凄い楽勝なのか? ま、まぁ探索を続けますか。
2021年5月4日修正
入り口が込むこと → 入り口が混むこと