5-104 王城の中へ
―1―
――《転移》――
翌日、《転移》スキルを使い試練の迷宮前に着地する。さあて、まずは冒険者ギルドに行きますかね。
「お帰りなさいませ、リ・カイン冒険者ギルドへ」
猫人族のお姉さんの挨拶を受けながら、冒険者ギルドの中へ。
『聞きたいことがあるのだが、よろしいか?』
「では、こちらへ」
猫人族のお姉さんが口ひげをピクピクと動かしながらも、笑顔でカウンターまで案内してくれる。そのまま猫人族のお姉さんがカウンターの裏に回り、座る。
「どういったご用件でしょうか?」
俺は猫人族のお姉さんにステータスプレート(金)を見せる。コレを見てくれ、どう思う。
「ひぇ」
猫人族のお姉さんから小さな悲鳴が漏れる。
「どどどど、どういうことですか?」
そういうことです。いいね、いいね、この反応。どうよ、どうよ、俺、凄えぇだよね!
「何故? 昨日の今日で? あの後、帝都行きからBランククエストに変えた? いや、でも……」
いや、あのね。やっぱり、昨日の今日で持ってきたのは不味かったかなぁ。
「下水のランさま!」
はい。何でしょう。
「ステータスプレートの情報を見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
嫌です。駄目です。だってさ、《転移》スキルはまだまだ秘密にしたいもん。
『ところで、これで八大迷宮『名も無き王の墳墓』に挑戦出来ると思うのだが』
俺の天啓に猫人族のお姉さんが難しい顔になる。
「そ、そうですね」
『情報を貰いたい』
「……わかりました。『名も無き王の墳墓』は、この迷宮都市にある王城の地下にあります。詳しくは王城の冒険者ギルドで聞いて下さい。そのステータスプレートを王城の門番に見せれば中に入れて貰えるはずです」
ほうほう、姫さまの話と一緒だね。まぁ、詳しい話は向こうでってことか。じゃ、王城に行きますかね。
猫人族のお姉さんは、まだ何かを言いたそうに、こちらを見ているが、ま、まぁ、無視で。ちゃちゃっと王城に向かうのさー。
―2―
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い続け、王城の中庭に降り立つ。あ、そうだ、ここに《転移》のチェックを作っておくかな。今後は試練の迷宮前よりもこっちの方がいいでしょ。
――《転移チェック6》――
試練の迷宮前から王城の中庭に転移チェックを移す。っと、城の門から入ってないけど、大丈夫かなぁ。うーん、最初の1回は王城の門から入るか。後でとやかく言われるのも面倒だしね。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、中庭から門の前に移動する。何だろう、凄い無駄なことをしている気がする。い、いや、考えたら負けだよね、うん。
『中に入りたいのだが』
門の前に立っている騎士鎧に身を包んだ門番さんへと天啓を飛ばす。
「おや、下水に住んでいる芋虫魔獣が来たぞ」
いや、住んでないんですけど。
『中に入りたいのだが』
俺が天啓を飛ばすと門番さんはうんうんと何度も頷いた。
「君の実力はヤズ様からも聞いているが、一応、ステータスプレートを確認しても良いかな?」
ああ、ここで確認するんだな。じゃ、見て下さい。門番にステータスプレート(金)を見せる。
「確かにCランクを確認した。中に入っても良いぞ」
あ、はい。これで中に入っても大丈夫か。にしても、この門番さん、ちょっと貫禄がありすぎるよね。ホント、門番って感じじゃないなぁ。
「案内は必要か?」
案内かぁ。
『頼む』
俺が天啓を飛ばすと門番さんが手を叩いた。すると門が内側から開き、中から簡易な服装に身を包んだ兵士が現れた。
「ふむ。この下水の芋虫を場内に案内してやれ」
門番さんが兵士に命令をする。ほー、兵士よりも門番の方が偉いのか。
「こっちだ」
兵士の案内に従い、俺は城の中へ。
―3―
城の中に入ってすぐが宿泊施設になっていた。
「こちらの部屋はヤズ様の好意により、無料で開放されている。上級冒険者は数が少ないため、現状では空き部屋が多いくらいだ。ただし、汚したり、騒いだりはしないように。目に余る場合は出入禁止とさせて貰う」
な、なるほど。上級冒険者を囲う為に無料で、って感じなのかな。
そのまま進むと色々な店が見えてきた。何というか、アーケード街にあるお店って感じだよね。
「ここでは八大迷宮『名も無き王の墳墓』攻略の為の道具や装備品、食材などが販売されている。食材を調理する場合は東側の中庭で行うように。間違っても西側の中庭で行うなよ。西側はヤズ様を初めとした城の方々が趣味で作られた庭園だからな」
ふむふむ。西側って、俺がさっき《転移》のチェックを入れた場所だよね。そうか。ふむ、それなら、余り人も来そうにないし、チェックを入れて正解だったかな。
アーケード街を抜けると左右の分かれ道と大きな階段が見えてきた。
「左と右の道は場内の庭へと通じている。東側はその途中に練武場がある。武器を試したり、スキルを試したり、そういったことに使うといい」
ふむふむ。前回、赤騎士、青騎士と戦った場所だよね。そうか、あの部屋の先が東側の庭になっているのか。
「階段の先はヤズ様への謁見室や個室になる。この迷宮都市における政治の中心の場だ。余り用もないのに立ち入らないように。特に今は神国のお姫さまも滞在しているからな」
なるほど。上の階は、上の階で広そうだな。
『トコロで『名も無き王の墳墓』や『冒険者ギルド』はどちらになるのだろうか?』
俺の天啓を受け、兵士が答える。
「慌てるな、しっかりと案内するからな」
兵士は東側の道を歩き進んでいく。途中、練武場へと続く扉があり、そこを抜けさらに歩いて行く。
「この先だ」
道の先は開け放たれた大きな扉があり、どうも庭に通じているようだ。うん、さっきの説明の通りだね。
兵士とともに東側の庭を進んでいく。中庭には他の冒険者の姿もちらほらと見える。兵士から案内を受けている俺を観察するようにチラチラとこちらに視線を送ってきているな。
途中、キャンプ地にあるような炊事場があり、その先に二つの建物が見えてきた。1個は新しく作られた3階建てほどの大きな建物で、もう1個は祠のような建物だ。
「あの大きな建物が冒険者ギルド、素材の買い取りなどもソコでやって貰うといいだろう。ただ、余り大きな物の場合は、外にある冒険者ギルドに行くように」
ふむ。まぁ、換金するとしたら、墳墓で手に入った物だろうし、小さな物が中心になるのかな?
「そして、あちらが『名も無き王の墳墓』になる」
兵士が指差したのは小さな祠だった。
「中はすぐに下りの階段になっている。詳しい情報は冒険者ギルドで聞くように」
あ、はい。なるほど、なるほど。城内はこんな感じなんだね。
「では、自分は自分の仕事に戻る。城内の出入りは自由となっているが、揉め事は起こさぬようにな」
そう言い残して兵士さんは帰っていった。
ふむ。ついに『名も無き王の墳墓』に到着か。
さ、まずは冒険者ギルドに寄って情報収集だね!




