5-103 昇格の祝い
―1―
さあて、今日はどうしようかな。さすがに今日の今日で迷宮都市に戻って達成しましたーって言うのもなぁ。せめて明日にしよう、うん、そうしよう。
となると今日の予定をどうするかだよなぁ。蟻退治に行く? いやいや、今更、蟻を退治してもなぁ。仕方ない、我が家の見学をして、俺が池に作り替えている裏庭で魔法の練習をして――うん、そんな感じにしますか。
では、自宅に戻るんだぜ。
――《転移》――
自宅はチェックしているからね、一瞬だね。さあて、色々見て回ろう。いつの間にか色々な建物が増えているからなぁ。
転移で降りてすぐにあるのが換金所かな。大きな魔獣も持ち込めるように、か、平屋だけど凄く大きな建物になってるよね。その横に冒険者ギルド、2階建てなんだぜー。西の冒険者ギルドより、俺の所の方が大きくなってるんだもんなぁ。
で、正面が食堂。こっちも拡張されて大きくなっている。元々、俺の自宅として作って貰った所が――1階の殆どが食堂に変わっているな。一応、正面のエントランス部分とその右側、それに地下室、2階部分が我が家だな。エントランスより右側はフルールやポンちゃん、それにユエやフエさんの個室になっているようだね。上の階は丸々、俺の部屋だぜ! って、言っても寝る時くらいしか使ってないんだけどね。
その正面にある食堂の左側がフルールの鍛冶工房だね。ちょっと前にぶっ壊れたからか2階建てに作り替えてるんだよなぁ。で、1階が販売所兼小工房って感じでクソ餓鬼連中が練習に励んでいる。クソ餓鬼連中は分担して販売も行っているようだし――意外と有能だったのか?
で、2階が完全にフルールの工房だな。炉も大きく成長して、色々なモノが作れるようになっているらしい。ちなみに下の階の小工房の炉の火は、俺とフルールが東の鍛冶ギルドから貰ってきた炉を成長させたモノから枝分けしたんだってさ。枝分けの意味がわかんないけど、そうらしいね。
規模が大きくなって、俺の知らない顔がどんどん増えていく。何だろうね、完全に俺の手から離れているよなぁ。ま、俺は土地貸しってコトで、どーんと構えていればいいか。
「マスター、お帰りなさいませ」
ああ、14型、ただいま。
「マスター、冒険者ギルドの方の犬がマスターが戻られたら来るように言っていたのです」
へぇ、そうなんだ。というかだね、14型さんはスカイのことを犬呼びなんですね。ちょっと酷いと思います。
―2―
我が家に新しく作られた冒険者ギルドの中に入る。さっき来た時には居た他の冒険者の姿は見えないな。もう、みんなそれぞれのクエストに出て行ったのかな。
「おー、チャンプー!」
奥のカウンターに居たスカイがこちらを呼ぶ。その瞬間、俺の背後から恐ろしいまでの殺気が立ち上がる。あれ?
「あ、す、す、すいません。オーナー、こちらの来て、いた、いた、いただけれるっすか」
おいおい、言葉がおかしくなって居るぞ。
「マスター、馴れ馴れしい犬に、少し礼儀を教えた方が良いと思うのです」
そ、そう? 14型さんは怖いなあ。
「まったく、マスターを馴れ馴れしく呼んで、からかって、おちょくっても良いのは私だけなのです」
ちょ、ちょっと待ていッ! 14型、お前、今、何て言った! たく、聞こえてないと思って好きなことをいいやがって、もうね。
で、スカイよ。何の話なんだよ。
「マスター?」
あ、もう14型がいるとスカイがまともに話せそうにないな。はぁ、仕方ない。
『14型、ここはいい。お前はお前の仕事をこなすように』
「はい。マスターの為に、ここに居るのが私の仕事です」
はぁ、さいですか。
『14型、ユエの仕事の手伝いを頼む』
「なるほど、そうだったのですね。了解したのです」
何がなるほどか分からないけど、ちょっと離れていてね。
14型が冒険者ギルドから出て行くと、スカイが大きなため息を吐いた。
「ホント、怖い。さすがは影のオーナーだぜ。チャンプが居なかったら捻り殺されていたよー」
そ、そうなんだ。14型ってば、恐れられているなぁ。
『で、スカイよ。用件はなんだ?』
俺の天啓にスカイが頷く。
「チャンプのことだから、東側で昇格祝い品を貰ったり、説明を聞いたりしていないだろうな、と思ってさ」
へ? どういうこと?
「Cランクは、もう上級と言っても構わないランクなんだよ。Cランクに上がれる冒険者は一握りでさ、その上はもっと高いんだよ。つまり、あれだよ、他の冒険者の見本となるようになれってことだよ」
な、なるほど。そう言えば、俺が初めて人里に降りた時に出会ったウーラさんもCランクだったなぁ。つまり、俺もあーいう、先輩的な立場になれってことか。
「で、1番の大きなコトはさ、Cランクの冒険者はクランを作れるんだぜ!」
クラン? そう言えば、上位冒険者の多くがクランを作っていたよな。何というか冒険者の寄り合いでしょ。パーティは8人までだけど、もっと大きな枠で仲間を募れるって感じなんだよね。
「でさー、今、作っちゃう?」
作りません。と言うかだね、クランを作っても加入してくれそうな人がいないもん。う、そう考えると、俺、今、ぼっちじゃん。
「ま、作りたくなったらさ、何処でもさ、冒険者ギルドで申請すれば出来るからさー」
そうなのか。まぁ、でもクランのメリットが見えてこないし、当分はいいかなぁ。もし、仲間が増えたら考えるってことで、うん。
「後はコレさ!」
スカイがカウンターの下から小さな水晶の塊を取り出す。
「いやぁ、チャンプが出た後に東のギルドに連絡してさ、こっちで渡す、説明もするって、急いで連絡した甲斐があったよー」
って、お前がそんな連絡をしていたから、向こうであっさり終わったのか。おかしいと思ったんだよ! というかだね、スカイから聞くよりも、向こうのしっかりとした冒険者ギルドで説明を聞いた方が……まぁ、それは言わないでおくか。にしても、俺が東側の冒険者ギルドに着くよりも早く連絡出来るって――うーん、冒険者ギルド間には、何か電話のような瞬時にやり取りができる不思議な装置でもありそうだな。
「これは封印の魔石さー。何か一つだけ、魔法を封じられるからさ、奥の手になるよ」
へー。何だか凄いモノぽいのを貰ったな。でも、これを上位の冒険者が使っているのを見たことがないんだけど。
『ちなみに使い捨てか?』
そこ、重要だよね!
「これが空っぽになったら、また魔法を入れるコトが出来る優れものなんすよー」
犬頭のスカイがシシシと笑っている。確かにそれは凄いな。で、コレの落とし穴は何かね? 上位冒険者が使っていないってコトは落とし穴があるんだよな?
『デメリットはなんだ?』
俺の天啓にスカイが首を振る。
「いやいや、無いよ、無いさー。ただ、下級魔法しか詰められないとか、詰めるのに3倍のMP消費だとか、それくらいだよー」
ふーん。それなら思ったほど悪く無いか。でも、下級魔法なら微妙かなぁ。アイスストームを詰めてアイスストーム2倍掛けみたいなのは出来ない、と。そりゃ、上級冒険者が使わないワケだ。ま、貰えるモノは貰っておこう。
さあて、明日は迷宮都市に行って、ついに八大迷宮『名も無き王の墳墓』に挑戦だな! 結構、長かったよなぁ。迷宮都市に着いたらすぐに挑戦出来ると思っていたからさ、そこで足踏みさせられるとは思わなかったもん。
さあ、新しい八大迷宮はどんな感じかな?