5-102 Cランクへ
―1―
猫人族のお姉さんからステータスプレート(金)を返して貰う。
「では、下水のランさま、少々お待ちください」
猫人族のお姉さんが奥に消える。はーい、待ってます。って、俺の体型だと座って待つのが辛いから立って待ってないと駄目なんだよなぁ。で、ですよ。立って待っていると他の冒険者からの視線が痛いんだよね。痛い、痛いんですよー。
しばらく待っていると猫人族のお姉さんが手に手紙を持って戻ってきた。
「では、下水のランさま、こちらになります。どうぞ、無くされないように」
『ちなみに無くした場合は?』
「お話ししていたように失敗になります」
猫人族のお姉さんが呆れたような顔でこちらを見る。いや、一応、確認ね、確認。つまり、失敗したらせっかく溜めたGPが! 消費した51,200ものGPが! 消滅! コレが消えたら立ち直れないからね、確認は重要ですよ。
『トコロで帝都には冒険者ギルドが二つあると思うのだが、西側でも良いのか?』
俺の天啓に猫人族のお姉さんが大きく口を開けて驚く。おー、凄いリアクション、これ、どういうこと?
「下水のランさまは、帝都をご存じで? 確か、出身はナハン大森林とお伺いしてますが、帝都をご存じで?」
何故、2回聞いた? 大事なコトなのか? ナハンに居たことは伝わっているのに、帝都に居ることは伝わっていないのか? いや、知っていたような気がするんだが……うーん、俺の勘違いか? うーむ、よく分からない。というか、だね、俺の個人情報がダダ漏れの方が気になるんですけど。どうなっているんだッ!
『ああ』
俺の天啓に猫人族のお姉さんがため息を吐く。
「それでは、このクエストは余り意味が無いかもしれません」
え? いや、でも達成になるんだよね?
「とりあえず西側に持っていってください。ただ、必要になるのは東側です。一応、内密な話になりますが、これ、西側に持っていって、東側に入れるようになるまで帝都で冒険者活動をするというのもクエストの一環なんです……はぁ」
何で、最後にため息を吐いた。つまり、アレか。この手紙の内容は西側で扱き使えとか、そういう感じなのか? で、東側に行けるようになったら達成と。でもさ、東側って一級市民になるか、貴族の口利きが必要だよな? コネや名声を稼がないと達成出来ないとか詐欺なクエストじゃん! これ、俺が迷宮都市生まれで知らずに受けていたら、砂漠越えの長い道のりの果てに帝都で扱き使われていたってコトか? 酷くね? 酷いクエストだよな?
「そう言えば、その胸元の指輪……。下水のランさまは帝国貴族ですか。その姿で貴族ですか。そういえば貴族様でしたね。はぁ、帝都は凄い所なんですね」
いや、俺の姿は関係無いだろ。ま、まぁ、コレで昇格試験は始まったんだ。後はパッパッと《転移》スキルで帝都に戻ってスカイと会話して東側の冒険者ギルドに行けば完了か。
俺は猫人族のお姉さんから手紙を受け取り、魔法のリュックに入れようとして、少し考え、手を止めた。
『コレは魔法の袋に入れても大丈夫なのか?』
猫人族のお姉さんが頷く。
「ええ、もちろん大丈夫です」
へ?
『魔法の袋に入れても大丈夫なら無くなることも傷が付くこともないと思うのだが』
「ええ、その通りですね」
へ? 何じゃ、そりゃ。つまり、単純に帝都まで辿り着けるかどうか、だけだったのか。
「そうですね、魔法の袋を持てない方や持っていない方も居られますから。ただ、その時点でCランクへの昇格は難しいという、そういった形だけのやり取りですね」
な、なるほど。魔法の袋を使えない、持てない人は、その時点で論外ですよ、ってだけのやり取りだったのか。何だか、すっごい騙された気がするなぁ。
ま、いいか。じゃ、サクッと終わらせてきますか。
―2―
――《転移》――
試練の迷宮前に戻り、《転移》スキルを使って自宅前に帰還する。うん、あっさり帝都に到着だよ。いやぁ、1月、2月、酷い時は半年もかかる大変な道のりだったよ、うんうん。ま、それは置いといて、スカイの所に行きますか。
自宅の敷地内に新しく作られた冒険者ギルドに入る。すると、スカイは他の冒険者の相手をしている途中だった。何やら色々と冊子を捲ったり、紙に書かれたクエストの内容を読み上げたり、とても忙しそうだ。おー、繁盛してるじゃん。以前の西大通りにあった小さな事務所の時は暇そうだったのにね。忙しいのは良いことだよね。
ま、今日は忙しくなる予定だったのが、すっかり空いちゃったからね。スカイが空くまでゆっくり待ちますか。
「うわ、ジャイアントクロウラー!」
「ばーか、アレはチャンプだよ。お前、知らないのかよ」
新米冒険者とちょっと熟れた感じの冒険者が通り過ぎていく。
「ふごふご」
武装した豚頭も俺の前を通り過ぎていく。言葉として読み取れないから、単に鼻息が荒いだけなんだろうな。
「あーらー、チャンプちゃん。どうしたの?」
皮鎧に身を包んだ見知らぬ女性が話しかけてくる。ととと、ぼーっとしていたな、で、誰だ?
『スカイを待っている』
「そーなんだー。私、魔族との戦争の時にチャンプちゃんに回復魔法で助けて貰ったんだけど覚えてないよねー? ずっとお礼が言いたかったのよー。ありがーとーねー」
お、おう。あの時か。随分と昔のように思うなぁ。あの後からも、結構濃い冒険をしているからなぁ。
しばらく待ち、スカイに声をかける。
「あれ? チャンプ? いや、オーナーさまじゃん。さっき出かけたと思ったら、どったの?」
『忙しそうだな。人が必要か?』
「ちょ、え、チャンプ、いや、ランさま、俺、しっかり働いてますよ。頑張ってます、真面目に頑張ってます。人の入れ替えだけは!」
いやいや、首を切るとかそういう話じゃなくてさ、それに俺、そんな権限とか無いと思うしさ。
『いや、人を増やしたらどうかと思ってな』
「え? いいの? すっごい助かる。それなら後で本部に連絡して人を増やして貰うよー。いやー、チャンプから直に許可が貰えるとか、俺、ついているなー」
いや、俺に権限は無いと思うんですけど……。えーっと、勝手に決めちゃったけど、だ、大丈夫なのか? と、そうじゃなくて、手紙、手紙。
『スカイ、これだ』
「これかー!」
スカイが俺から手紙を受け取り、すぐに開封する。ちょ、それ、お前が開封して大丈夫なのか? 問題が起きたら弁償させるからな!
「お爺ちゃんの頃は良くあったらしいけどさー。迷宮都市からの昇級試験だよね、懐かしいなぁ……って、アレ? 何で、チャンプがこれを? アレ? アレ?」
スカイくん、考えたら負けだぞ。
「えーっと、チャンプは貴族様だから、東側行けるよね」
あ、ああ。
「もう達成じゃん。ちょっと待ってよ」
スカイが奥に消え、何かをがさごそと探し、戻ってくる。
「はい、これこれ。俺の代では初だよ、初! はい、西から東への許可証」
スカイから四角い金属のプレートを受け取る。お、何処かで見た竜の紋章が描かれているな。この竜の絵が帝都の紋章なのかなぁ。
「これを東の冒険者ギルドに持っていったら終わりさー」
ふーん。じゃ、ちゃっちゃっと終わらせますか。
『では、終わらせてくる』
――[ハイスピード]――
風を纏い帝都を駆ける。後ろでスカイが室内では止めてと叫んでいるような気もしたが、気のせいだろう。うん、気のせいだ。
そして、俺の昇級試験はあっさり終わった。
いや、ホント、東側で渡したら一発で終わったんですけど、こんなにあっさりCランクになって良かったのか? 迷宮都市で受けて、すぐに達成したら怪しまれるんじゃないかとか考えたのが馬鹿みたいにあっさり終わったんですけど。いや、何というか、思い入れというか、感慨というか、そういった内に宿る何かが、何も生まれてこないんですけど。えーっと、はい、コレで俺も上級冒険者の仲間入り……ですよね?
で、次のBランクまでは99,999になっていた。って、カンストかよ! こっちでも最高数値は9が並ぶんですね。ホント、よーわからん世界だ。ん? でも魔法のリュックL(20)の交換は10万GPだったよな? って、ことは10万は超えるのか。となるとAランクとか恐ろしい数値になりそうだなぁ。
2016年3月6日修正
999,999 → 99,999




