2-33 世界樹下層
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やって来ました、世界樹。
日にちが変わり、すぐに世界樹へと直行しました。冒険者ギルドによってみても受けられる世界樹関係のクエストが無いから無駄足になるだけだしね。
目の前にある大樹。端も見えないサイズだ。
俺の他に冒険者は居ない。
大樹の足下、多く這った木の根の隙間に隠れるように入り口があった。入り口には門番などは居らず、勝手に入ることが出来る。特に管理されているって訳じゃ無いのね。
さあ、帰ってきた。
俺は帰ってきたぞー。というわけで探索開始ですね。
俺はついに世界樹の迷宮に正面から足を踏み入れたのだ。うーん、感慨深いね。
迷宮内は日が差し込んでそこそこに明るい。木の中、木に包まれているのに謎の技術だ。
世界樹の中を進むと右の木壁から草が生えているのが見えた。線はヴァインになっている。なるほどコレがそうか。どうしようかなぁ、火の魔法でも使えれば焼いて終わりなんだろうけどな。
とりあえず矢で射る。矢が草の中心、キャベツの塊のような部分に刺さる。キャベツが草を伸ばし暴れ、そのまま萎びたように崩れる。お、倒したか。
一応ステータスプレート(銅)を確認してみる。経験値が12増えていた。ちゃんと倒せているようです。が、この弱さで12か……多いな。MSPもしっかり1増えているし、これ美味しい敵じゃね。うっし、頑張って狩ろう。
とりあえず魔石と素材を回収しないとな。近寄り鉄のナイフでキャベツを切り裂く。中には種子と小さな魔石があった。回収、回収。
と油断したのが悪かったのか、視界の上方にヴァインの線が見える。
ヤヴァイ。
上からしゅるしゅると葉が伸び体に絡みついてくる。急ぎ鉄のナイフを構え、絡みついてきた葉を切る。切った先から葉が伸びてくる。くそ、これ意外に厄介だぞ。
気付いたときにはキャベツの塊が目の前に来ていた。キャベツの塊が1枚1枚と葉の殻を開いて中の姿を見せていく。開いた葉が俺を包み込もうと広がっていく。もしかして俺を捕食するつもりなのか? キャベツなのに肉食なのかよ、さすがは魔獣。このまま芯を貫けば倒せそうだが、絡みついてくる葉を切ることで手一杯になり、そこまで手が回らない。
――[アイスボール]――
効き目は薄いと思うが氷の塊を浮かべる。食らえ。
1発、2発、3発……芯に次々と氷の塊をぶつける。氷の塊がぶつかる度に緑の衝撃波が走る。その間にも延びてくる葉を切っていく。5発目ッ! 氷の塊の衝撃に耐えられなかったのかヴァインが吹っ飛ぶ。
すぐに弓を構え、芯を狙い撃つ。
矢がヴァインの芯に刺さりヴァインは萎びていった。……ふぅ。視界外から襲われるとは――線が見えることで完全に油断していた。線はモノクルを付けた右の視界の中にしか存在しないことを完全に失念していた。
辺りを見回し敵が居ないことを確認。刺さった鉄の矢を抜き、先程と同じように種子と魔石を取り出す。油断しなければ楽勝そうだな。
―2―
いくつかのヴァインを倒しながらゆっくりとした坂を登っていくと開けた場所に出た。天井が見えない。視界の端には壁伝いに大きな螺旋状の坂がある。これを登れと。
道幅は広く100メートルくらいはある。幾ら中央が吹き抜けとはいえ、足を滑らせて落ちるようなことは無さそうだ。
1時間くらい歩いたが、まだヴァイン以外の魔獣には遭遇していない。意外とエンカウント率って、低いのか?
うん? 道の端に木で出来た瘡蓋みたいな物が見える。何だ、コレ。瘡蓋はきれいに剥がせそうなので、思い切って剥がしてみた。瘡蓋の中には……魔法のポーチが入っていた。
うおおおおお、魔法のポーチだよ、返ってきたよ。嬉しいよ。もしかして、コレ、宝箱だったのか? うおぉぉ、最初が魔法のポーチとか幸先良いなぁ。
魔法のポーチゲットだぜ。中から魔法のポーチを取りだし、さっそく使用者登録をする。
【魔法のポーチS(1)】
【亜空間に小物を収納できる魔法のポーチ。収納できる種類は1】
……は? え? 1? 1かぁ。まぁ、矢が収納出来るだけでも全然違うよね。って、矢が入らない。矢のサイズでも駄目なのか。試しに銅貨を入れてみる。銅貨は入るようだ――コレ、使い道あるのか? 普通のポーチの方が、まだアイテムが入るぞ。嬉しかった気分が一気に萎えました。とりあえずヴァインの魔石を突っ込んどくことにした。せめて、収納数が2とか3なら財布として使えないこともなかったのに……。
そうして落ち込んだ気分で歩いていると上からぼとりとキノコが落ちてきた。大きなキノコの中心には苦悶の表情に見える穴が開いており、そこから胞子の粉が吹き出ていた。
線の表示はマイコニドになっている。良し、ついに新顔だな。
キノコには足のようなヒダが付いており、それを動かし、のそりのそりとこちらに向けて歩いてくる。
近づかれると危険な気がする。特にあの胞子の粉はやばそうだ。
ま、俺には弓と矢があるからね。遠くから射るだけです。
鉄の矢がマイコニドに刺さる。マイコニドから「ぼあぁ」と悲鳴? が上がる。気にせずに鉄の矢を射る。2発目の命中。体が大きいので当てるのは楽勝です。マイコニドは悲鳴を上げながら、足を止めること無く近寄ってくる。
3発目。まだ死なない。
4発目。まだまだ、ぼあぁぼあぁ言いながら歩いてくる。鉄の矢を買い足しておいて良かったぜ。
5発目。マイコニドの足が止まる。お、もう少しか?
6発目。最後の鉄の矢を射る。これで倒せないとキツいなぁ。マイコニドに最後の鉄の矢が刺さる。
まだ、動いている! 仕方なく残っていた木の矢を使う。更に木の矢を4本射ったところでマイコニドを倒すことが出来た。動きが緩慢な分、固いってことか。こいつは胞子の粉に気をつけながら槍で戦った方が良いかもしれんなぁ。もしかして射撃とかに耐性があるんだろうか、と刺さった矢を抜きながら考えてみる。
確か、マイコニドの素材は魔石の近くの金色の粘液だったな。って、粘液ってどうやって運ぶんだよ。困ったぞ。情報を聞いていたのに準備していないとか馬鹿ですねー。
と、そこで閃くことがあった。
俺はマイコニドの体を切り開く。死んだ後は胞子の粉が飛び出すことも無く、安全に切り開けた。魔石の近くから金色のネバネバしていそうな液体がにじみ出てくる。樹液みたい。俺はそれを(手が汚れないように)サイドアーム・ナラカで掬ってヴァインの魔石を取り出し空っぽになった魔法のポーチSの中に入れる。うん、上手く入った。
亜空間保管なら汚れることもないし、今度から、この魔法のポーチSは金色の粘液専用だな。そう考えると手に入ったタイミングは丁度良かったのかも知れない――まぁ、元々の魔法のポーチがあれば何も考える必要なんて無かったんですけどね。
しかしまぁ、どうしようかな。今回、たまたまマイコニドが1匹だったから良かったけど、2匹出てきたら倒しきれないぞ。これだけ固いと鉄の矢が10本しか入らない初心者の矢筒では物足りないし、もう少し強い弓も欲しいし、槍も欲しい。
うーん。
今日は一旦帰るか。
今日手に入った素材を換金して、また考えてみよう。
3月10日修正
瘡蓋の前に空いていた無駄な空白を削除