1-4 転
―1―
現状、うろの中を進むのは無謀に近い。そこで俺が思いついたのは外周ならどうだろうか、ということなのだ。
俺の糸の能力なら葉っぱから葉っぱへ、枝から枝へと移動が可能です。これなら時間さえかければ最上部まで登れるはず。
逆転の発想だッ! 糸で移動が出来る自分だからこその発想ですね。
ということで何が起こるかわからない為、大量の食料を確保する。と言っても何時ものように葉っぱを囓り取って鞄の中に溜めていくだけなんですけどね。ホント、この魔法の葉っぱには助けられています。
さあ、出発だ。
最初は葉っぱも枝も多く移動は楽ちんです。お腹が空いても足下の葉っぱがそのまま食料になるしね。
たまに移動した先の葉っぱに自分と同じような芋虫がいることも……どーも、こんにちは。芋虫さんは食事に夢中みたいでノーリアクションです。まぁ、いきなり攻撃されるよりは全然良い……のか?
そこらに居る芋虫は自分と同種族だと思うんですが、外皮が緑なんですよね。自分だけ青……もしかして亜種とか希少種とか、そういう感じなのか? 特別なのか?
ある程度、上に進むと枝の数が少なくなってきます。枝から枝への距離が余りにもあるときは木の幹に張り付いて移動です。そしてお腹が空いたら木の幹に張り付いたまま、お弁当の葉っぱを取り出して食べるのです、もしゃもしゃもしゃ。
視界に霧が……霧ぽいモノでは無く本当の霧がかかってくる。先ほどまで晴れていたのが嘘のように強い風に吹かれ雨が降ってくる。雨によってくっつけた糸が取れることは無いけれど自分の身体が吹き飛ばされそうです。そんなことを思った瞬間、風に吹かれ木の幹に叩き付けられる。痛いでーす……しかし諦めない。糸を伸ばし上へと登っていく。
唐突に風と雨が止む。いや、雲の層を抜けたのか? どんだけでかい木なんだよ……。まだ頂上が見えないんですけど。
それから何度か食事をした後、ついに頂上らしき所へと到達した。
そこには、いやその中心には一つの建物があった。
枝の無い、幹の先端と言うところから生えている建物。石のようなモノで出来た、そのドーム型になった半円形の建物は出窓のようなものがあり、そこから飛び降り台のように少しだけ足場が伸びていた。
出窓? に糸をくっつけ足場に立つ。遙か下に雲の層が見える。あー、もっと視力が良かったならと思えるくらいに幻想的な景色です。そのままお弁当の葉っぱを囓る、もしゃもしゃもしゃ。
さあ、中に入ろうか。
―2―
建物の中は余り広くなく、目の悪いこの身体でも見渡せる程度しか無かった。
部屋の中央にとても精巧に装飾された台座が。描かれているのは竜……かな?
そして奥に真っ黒い石碑? と思われる黒い直方体が。後、この部屋につながる扉は見えない。ん、ということはさっきの出窓からしか入れない? にしても外から見た建物のサイズとこの部屋の広さが合ってない気がします。
ま、まぁとりあえず台座を調べてみようかな、台座の上に何か置いてあるみたいだし。
台座の上にあったのは……こ、これはスカ○ター? あの漫画に登場したス○ウターのようなモノが置いてあります。こ、これは付けて『戦闘力……たったの5か……ゴミめ』とか是非言わないと!
さっそく台座から取り顔に付けます。最初、芋虫の顔に取り付けられるのかな、とも思ったんですが、吸い付くように張り付いて……取れなくなりました。って、ホントひっついて取れないんですけど、まさかの呪いのアイテム? ごっこ遊びをしようとしている場合じゃ無い?
と、突然、視界(6個ある視界の右上)に謎の文字が表示される。うお、なんだコレ。次々と表示されていく謎の文字。
何行か読めない文章が表示された後、見覚えのある文字で文章が表示された。
【言語解析終了、異能言語理解スキルを作成します】
【異能言語理解スキル使用補助のため、念話スキルを作成します】
【ようこそ、最果ての地へ。初回設定により記録されていたメッセージを表示します】
『ああ、うん、初めましてだよ。ようこそ、最果ての地へ。よくもまぁ、こんなところまでたどり着きやがったモノだよね、糞虫ども。あー、私は迷宮王と呼ばれている存在だよ。ここまで辿り着けた君らなら聞いたこともあるよね。君らが手にしたそれは叡智のモノクルと私が名付けたモノだよ。まぁ、君らにその価値も意味も理解出来るとは思いにくいが、もしそれが理解出来るというのならば、残りの迷宮も攻略してみると良いよ。全ての迷宮を攻略した先にこの世界の本当の意味を置いてきたよ。まぁ、出来るモノならば頑張れば良いんじゃ無いかな』
【初回限定メッセージを終了しました】
……なんだコレ。ちょっと中二病入った支離滅裂な文章もびっくりだけれど、気になる言葉が色々と出てきたんですが。
最果ての地?
迷宮王?
残りの迷宮?
この世界の本当の意味?
中二病の妄想か、頭のおかしい人間の戯れ言かって言いたくなるような言葉です。にしても『叡智のモノクル』だと? なんでス○ウターって名前にしなかったんだって言いたい。
『叡智のモノクル』が装着されてから、右中の視界に色々と表示されるようになった。色々なモノから線が延びて単語表示されている。例えば、あの壁に寄りかかっている骨なんかからは延びた線の先に『迷宮王の骨』とか表示されている。って、おい。
迷宮王、死んじゃってるよ。
『迷宮王の骨』の下からも線が延びていて『ステータスプレート(黒)』なんて単語がくっついている。す、ス、ステータスプレートだとぅ? コレはアレですか、よくある自分のステータスがわかるようになる異世界に来て冒険者ギルドとかでもらっちゃうアレですか。こ、コレは是非ゲットせねば。と、ステータスプレートを注視していると右上の視界に文字が表示された。
【ステータスプレート(黒):迷宮王特製のステータスプレート。クラス制限とスキル制限を解除する】
も、もしかして『叡智のモノクル』って調べることが出来るのか? 試しに自分の身体を見て調べると念じてみる。
【名前:氷嵐の主】
【種族:ディアクロウラー(ジャイアントクロウラー劣化種)】
【筋力:それなり 体力:わりと 敏捷:酷い 精神:まあまあ】
【これ以上の情報を開示するには鑑定スキルのランクアップが必要になります】
……う、コレも突っ込みどころしかないんですが。なんでステータスが『わりと』とか適当な感じなんだよ。というか、劣化種って、劣化種って。どうりで青い外皮の芋虫を見ないはずだよ。弱い方にレアだったのかよッ!
と、とりあえずステータスプレートだ。ステータスプレートを取ってみる。今回はモノクルのように外れなくなると言うことも無く手に収まる。なんというかPCタブレットみたい。タブレットみたいに手を滑らせてみる。お、画面が光った。
【ステータスプレート(黒)認証完了】
ステータスプレートに文字が浮かぶ。
名前:氷嵐の主
種族:ジャイアントクロウラー 種族レベル:1
クラス:なし
HP: 90/ 100
SP: 82/ 810
MP:682/1620
筋力補正:4
体力補正:2
敏捷補正:0
精神補正:1
所持スキル:中級鑑定(叡智のモノクル) 糸を吐く:熟練度6443
クラススキル:なし
所持属性:水:熟練度312 風:熟練度312
所持魔法:アイスニードル:熟練度100 アイスボール:熟練度:524
うおおお、ゲーム的な情報に燃える。というか熟練度があるんだね、うおおお、熟練度埋め大好きなんですよー。カンストまで頑張りたくなるー。というか千の桁まであるということはMAX9999かな? はふぅ。
と、情報の量に埋もれちゃいそうですが、その前に色々調べないとね。目の前の黒い直方体とか!
さっそく調べてみる。
【スキルモノリス(飛翔):飛翔系のスキルツリーを獲得出来る】
【追記:モノクルで初めて調べてみた人のための補足だよ、スキルツリーは基本的に4つまで保持出来るよ】
こ、これは……予想していたけれどスキル、か。
スキルモノリスに触れてみる。
モノリスに文字が浮かび上がる。
【飛翔系のスキルツリーを取得しますか? Y/N】
これはイエスで。まだスキルツリーを一個も持ってないし、さっきの追記の感じだと入れ替えが出来そうだしね。
【飛翔系スキルツリーを取得しました。内容はステータスプレートをご確認ください】
ステータスプレートを見るとクラススキルの下にサブスキルというのが増えていた。
サブスキル:飛翔 浮遊LV0(0/10) 転移LV0(0/80) 飛翔LV0(0/300) 超知覚LV0(0/100)
15年4月24日修正
誤字修正
16年1月22日サブタイトル変更
迷宮王1 → 転