5-95 美味しい話
―1―
『14型、大丈夫か?』
両腕をやられているからね、ちょっと心配だよね。
「ええ、ええ、時間をかければ修復する範囲なのです。マスターが両腕の使えない私に弓と矢を用意しろと要求しても対応出来るくらいには余裕です」
う、そうだった。いや、戦闘中で、うん、そこまで気が回っていませんでした。
『14型、迷宮都市の冒険者ギルドに寄る予定だが、大丈夫か?』
俺の天啓に14型が頷く。大丈夫そうだね。
はぁ、でもさ、これで、この小迷宮『異界の呼び声』も終わりか。ちゃんとボスぽいのも倒したし、迷宮の謎も解いたし、もう終了でいいよね。もうちょっと沢山、アストラルデーモンが居て、異形の石がぽんぽんと手に入るなら、ここに篭もっても良かったんだけどなぁ。他の冒険者が居て、さらになかなか手に入らないってなると、ちょっと微妙だよね。冒険者ギルドのお姉さんが美味しいクエストを教えてくれるって言ってたしさ、そっちの方が楽で早くGPを稼げるかもしれないから、もう、ここは終了でいいよね!
と言うことで、戦利品もゲットしたからね、迷宮都市に戻りましょう!
氷の嵐によってボロボロになった部屋を出て、そのままエントランスを抜け、城を出る。橋の上だけど、ここで、もう《転移》スキルは使えるよな。うんじゃ、帰りますかッ!
もうここに来ることも無いだろうから、ここの《転移チェック》は消しても大丈夫かな。ま、他にチェックする必要が出たら、考えよう。
――《転移》――
14型とともに《転移》スキルを使い試練の迷宮前に着地する。うん、今日は人が居ないね。さ、冒険者ギルドへと歩きますか!
「直りました」
冒険者ギルドへ向けて歩いていると、俺の後ろを歩いていた14型が、ぽつりとそんなことを言った。え? へ? 直った? もう直ったの?
思わず振り返り、14型の腕を見ると、確かに曲がっていた腕がまっすぐになっていた。
「周囲に違和感をもたれないように、形だけは整えました。内部はまだ再生中の為、無理はさせないで欲しい所です」
あ、そうなんだ。14型さんも人の目とかを気にするんですね。ま、まぁ、形を整えてくれたのは助かるか。両腕が折れ曲がった従者を連れ歩いていたら、俺への周囲の目が痛いもんね。俺が酷いことをしているみだいだもんね。俺は、この姿だから、余計にイメージが悪いもんなぁ。
―2―
「お帰りなさいませ、リ・カイン冒険者ギルドへ」
冒険者ギルドの中へ入ると羊角のお姉さんから挨拶が飛んできた。あ、どうも。
「ランさま、本日のご用件は?」
おー、もう夕方前だからか、ちらほらとクエストから戻ってきたであろう冒険者たちの姿が見えるね。
『クエストを受けたいのだが』
俺が天啓を飛ばすと羊角のお姉さんが首を傾げる。
「この時間からですか?」
いやまぁ、そう思うよね。俺は魔法のリュックから異形の石を取り出し、羊角のお姉さんに見せる。
「そ、それは……、そういうことですか。では、どうぞ、こちらへ」
羊角のお姉さんとともにカウンターへ。で、やっぱりお姉さんがカウンターの裏に回るんですね。受け付け担当と窓口が別にはなってないんだな……。
「では、異形の石を」
羊角のお姉さんに異形の石を渡す。
「ステータスプレートもお願いします」
あ、そうですね。俺は羊角のお姉さんにステータスプレート(金)も渡す。
「では、少々お待ちください」
2つを受け取り、羊角のお姉さんがギルドの奥へと消える。じゃ、待ちますか。
14型とともに羊角のお姉さんが戻ってくるのを待つ。暇だー。羽猫なんて、俺の頭の上でいびきをかいてるぞ。って、それはいつもか。
「おい、あれ、噂の芋虫じゃねえか」
「さっきのちらっと見えたの異形の石だよな」
「ああ、そうだよな。鷲鼻の話もあながち嘘じゃないのかもしれんな」
周囲の冒険者の視線が痛いね。ちらちらと、何かね。もしかして、俺と友達になりたいのかね、ふぁふぁふぁ。
俺が周囲の冒険者の会話を盗み見ていると羊角のお姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ、お受け取りください」
羊角のお姉さんが、俺のステータスプレート(金)と6枚の金貨をカウンターに置く。
クエスト報酬:1,966,080円(金貨6枚)
獲得GP:1,080(26209)
うおぉぉ。金貨ですよ、金貨。これだけで200万円近いお金が手に入ったのか。俺、お金持ちだよ! 凄いお金持ちだよ。
「マスター」
14型さん、どうしたの?
「何やら、小銭で喜んでいるようですが、今、マスターの商会は1日でそれくらい儲けていると思うのですが」
へ? う、嘘でしょ。いや、これは多分、アレだ。14型が俺を騙そうとしているんだな。そうに違いない。だってさ、小銭で食べられるような食堂と人数的に量産が不可能な鍛冶仕事だぞ? 今は、それに魔獣の解体を兼ねた換金所と冒険者ギルドの場所貸しも加わったけどさ、それでもおかしいだろ。何処にも、そんなに儲けが出る要素がないじゃん。つまり、これは俺を騙すためのブラフだな! 騙されないんだからね! スルー、スルーだ。
『ところで、前回、難易度の高いクエストの話を聞いたが、内容だけでも教えて貰えるだろうか?』
「そうですね、では、今日はお話だけになりますが、こちらを」
Cランク
常駐クエスト(討伐)
アシッドスライム1匹の退治
下水道に生息するアシッドスライムの退治
クエスト保証金:無し
報酬:5,120円(銀貨1枚)
獲得GP:240
コア、1個につき163,840円(小金貨4枚)で買い取ります。
え? これ? しょぼくない? さっき金貨が貰えるようなクエストを終えたトコロなんですけど、しょぼくない? とてもCランクのクエストとは思えないんだけど、どういうこと?
『これは、どうだろうか?』
「こちらは熟練の冒険者がお一人で受けられるクエストになります。今回、ランさまが達成された異形の石の納品などはパーティを組んでの攻略を推奨されますが、こちらは一人でも達成が可能な難易度になっています」
へ、へぇ。
「この迷宮都市リ・カインの地下にある下水道は小迷宮になっており、駆け出しを卒業した冒険者で賑わっています。ただ、何処からかスライムが侵入してくるため、危険度が上がってしまっているのです」
へ? それ、矛盾していないか? 危険度が上がったら賑わないよね。
「その為、ある程度――中位以上の冒険者は後進を助けるために、そのスライムの討伐に行くんです」
へぇ。
「後進の助けになり、他の冒険者からも慕われ、さらに報酬も貰えるんです。オススメです」
へ、へぇ。
『わかった。考えておく』
うん、考えるだけは考えておこう!