5-93 徘徊する鎧
―1―
2つの塔にカンテラを置くとか、うん、個数的にもあってるし、分かってましたよ。ええ、もちろん俺も分かってましたとも! でも、言わなかったんだよ。だってさ、もし違っていたら恥ずかしいじゃん。
と言うことで、もし間違っていたら、全部、14型が、14型が悪いんです。
……。
って、人の所為にしている場合か。とりあえず試してみよう。
『自分たちは一度戻る、また縁があれば』
「ばいばい、芋虫ちゃん」
はいはい、ばいばい。
このスキンヘッドさんたちと一緒に攻略するって選択肢もあるワケだけどさ、それってどうなんだろうな。いきなりパーティを組んで連携が取れるとは思えないしね。それにさ、これが1番の問題だけどさ、パーティを組んでくれない可能性もあるからね、仕方ないね。
「おう、芋虫。俺らは、まだここで狩ってるからよ、困ったら呼びな」
お、おう。何だろう、この人たちって凄いいい人たちだよな。何というか、同じ冒険者っていう仲間意識が高いというか、こういうのって嬉しいよね。いやぁ、俺も冒険者やってて良かったぜ。
じゃ、14型さん、戻りますか。しゅたたっとな。
裏庭を抜け、吹き抜けになっている大広間に戻ると、そこには胸元に剣を構えた頭の無い鎧が立っていた。
へ? え? も、もしかして、こいつが徘徊騎士? こっちには気付いていないみたいだけど、横を抜けて進めないかなぁ。そろーり、そろーり、と。
俺は鎧の横を抜けようと、静かにぺたぺたと歩いて行く。気付かれませんように、気付かれませんように、っと。
鎧が構えた剣を持ち上げる。これ、気付かれているよね、絶対に気付かれているよね。よし、とりあえず鑑定だ! 魔獣相手なら遠慮無く鑑定出来るからね。
【ダークネスアーマー】
【暗夜石を使い作成された鎧。闇属性の魔法を無効化する】
あれ? 魔獣じゃないのか? 鎧? アイテム判定? どういうことだ?
目の前の鎧が少しだけ浮遊し、その状態でこちらへと滑ってくる。浮いた? そして、その瞬間、赤い線が斜めに走る。危険感知スキル?
鎧の剣が動き、赤い線をなぞるように煌めく。思ったよりも早いッ!
「マスター!」
14型、俺をかばうように前に出る。そして、そのまま鎧の斬撃を左手で受け、弾く。
「くっ」
14型の腕が斬撃の衝撃に耐えきれなかったのか変な方向に曲がっている。お、おい14型、大丈夫か?
鎧がまた剣を上段に構える。させるかよッ!
――《W百花繚乱》――
真紅妃と真銀の槍が穂先も見えぬほどの高速の突きを繰り出す。2つの線が鎧を砕き、剣を弾き飛ばす。砕かれた鎧の破片が華となり舞い散る。これで、どうだッ!
しかし、砕け散った鎧が、そこだけ逆再生でもしているかのように元の姿へと戻っていく。へ? 再生するって、こんなに早いのかよ!
『14型、逃げるぞ』
――《飛翔》――
14型に天啓を飛ばし、《飛翔》スキルを発動させ飛ぶ。吹き抜けになっている大広間を飛び上がり、2階へと抜け、そこからエントランスへ戻る。14型も、その身体能力を使い、少し遅れてだが、俺の後をついてくる。
エントランスからは14型が先行し――何故か閉まっていた出口の扉を開けて貰い、外に脱出する。もしかして、この扉を閉めているのって、さっきの徘徊する鎧が?
『14型、腕は?』
14型が折れ曲がった左腕を振り、動作に支障が無いかを確認している。何故か、メイド服の方は傷付いていないようだ。これも不思議素材で作られているよなぁ。汚れない、壊れないって謎過ぎる。
「しばらくまともに使えそうにないです。まぁ、再生可能範囲ですが」
そ、そうか。14型が自己修復能力付きで良かったよ。
―2―
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、右の塔から駆け上がる。
『14型』
14型から永劫のカンテラを出して貰い、台座に乗せ――れない。あれ? 形が合わない。何でだ? 動かしたり、向きを変えたりするけどはまらないぞ。
「マスター……」
何故か14型が大げさなリアクションでため息を吐いている。いや、でも、これはまらないんだって。
14型が久遠のカンテラを、自身の魔法のリュックから取り出し、台座に乗せる。久遠のカンテラは台座にぴったりとはまり、そこから城へと白い光が線のように放出される。えー、あー、うー。知ってた。う、うーむ、今日の俺、ちょっと間抜けすぎないか。い、いや、偶々、偶々だよ。永劫のカンテラを先に出した14型さんも悪いんだからね!
――《飛翔》――
左の塔に戻り、同じように《飛翔》スキルで駆け上がる。
14型に、台座の上へと永劫のカンテラを置いて貰うと、右の塔と同じように白い光の線が城へと伸びた。にしても、14型さん、片手なのに器用に道具を取り出すなぁ。っと、2つの線が伸びた白い光の先は――城の尖塔? もしかして、あの開かなかった扉か?
よし、行ってみよう!
エントランスに戻る。鎧の姿は無いようだ。そのまま2階へと上がり、奥の扉を押し開ける。そして緩やかな上り階段を上がっていく。上の方が眩しいね。見張り塔からの2つの光は間違いなく、こちらに集まっているようだ。
俺と14型が階段を上がり、白く輝く扉の前に立つと、扉は内側へと自動的に開いていった。おー、開いた、開いたぞ!
中は謁見の間を思わせるような少し広めの部屋になっており、1段高い、1番奥には玉座が置かれていた。玉座の上には生首のように置かれた騎士兜、そして、それを守護するように2匹のアストラルデーモンが居た。
ローブを着た牛の姿をした2匹のアストラルデーモンのうち、右側に立っているモノだけは長い杖を持ち、額に宝石を輝かせていた。こいつらが、ここの親玉かな?
右側の牛が杖を掲げる。すると世界が歪んだ。突然、周囲が木々の生い茂る森に代わり、そして、その地面から剣が生える。な?
「マスター!」
14型が叫び、俺の体に衝撃が走る。その瞬間、視界が元に戻る。ま、また精神攻撃か。ほんと、厄介な魔獣だな。あー、もうね、精神攻撃を無効化するような装備が欲しい。または、そういったモノを無効化するようなスキル、か。
『14型は右を』
「承りました」
14型が優雅なお辞儀をし、右の牛へと駆ける。こんな戦闘中でも優雅さは失わないんですね。
精神攻撃を無効化出来る14型に右を、精神攻撃を使ってこなかった左を俺が担当っと。じゃ、ぱぱっと倒しちゃいますか!
―3―
俺は左の牛へと駆ける。左の牛が闇色の球体を作り出し、こちらへと投げつけてくる。当たるかよッ!
闇色の球体を左へと避け、そのまま牛の懐に入り込む。
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃が赤と紫の螺旋を描き牛へと走る。しかし、牛は、まるで浮いているかのようにふわりと、それを回避する。
――[アイスウォール]――
避けた牛の足下に氷の壁を生み出す。牛は、突然、足下に生まれた氷の柱を回避することは出来ず、その身に氷の柱を受け、空へと持ち上がる。
――[アイスランス]――
空へと持ち上がった牛に尖った木の枝のような氷が突き刺さる。
――《飛翔撃》――
氷の槍に貫かれ身動きの取れなくなっている牛へと飛翔し、真紅妃で貫く。突き刺した真紅妃を捻り、抉り、引き抜く。そのまま後方へと飛び、距離を取る。
――[アイスウェポン]――
サイドアーム・ナラカに持たせていた真銀の槍が氷に覆われる。氷の槍が消え、落ちてくる牛の元へと駆ける。
――《百花繚乱》――
氷の槍に覆われた真銀の槍から無数の突きが放たれる。牛は突きによって体を浮かせながら、真っ赤な華を咲かせていく。そして、そのまま動きを止めた。よっし、楽勝! 精神攻撃が無ければ楽勝なんだよなぁ。
14型の方を見ると、そちらも勝負が付いていた。14型が、ひざまずいた牛の頭部に強力な右ストレートを叩き込んでいるトコロだった。
弾け飛ぶ牛の頭。14型がこちらへと振り返り、スカートの裾を掴み、優雅にお辞儀をする。おま、おま、お前ッ! 何で頭部を破壊した、言えッ! えーっと、異形の石って、アストラルデーモンの頭部に付いている黒い宝石だよね? だよね? それを破壊したら、破壊したら……、ここに戦いに来た意味がないじゃないか! これは酷い。
はぁ、まぁ、終わったことは仕方ない。14型さんも、よく戦ったってコトで、うん。
はぁ……。
2月24日修正
3体 → 2匹