5-89 要らない物
―1―
永劫のカンテラを14型に渡し、下水の探索を再開する。下水だけあって一本道だね。まぁ、下水の道が分かれても仕方ないもんな。なーんて思っていたら分かれ道に出た。
ここが中心部なのか、道が八方向に分かれている。うーん、とりあえず右回りに1本ずつ進んでいくか。
荒野の中の城だからか地下の下水道跡だというのに、水気は無いし、苔が生えているなんてことも無い。からっからっだね。まぁ、薄暗いから羽猫の明かりが無いと大変なことには、なりそうだけどね。薄暗い地下の下水道跡を明かり無しで進むとか考えたくないね。
しばらく歩き続けると行き止まりに突き当たった。あら? 行き止まりか。あ、でも上に道が見えるな。ちょっと高くて《飛翔》スキルを使わないと上がることは出来なさそうだ。ま、こっちは後回し、っと。
その瞬間、上から何かが降ってきた。なんだ、なんだ? 降ってきたのは角の生えた牛の死骸だった。誰かが上で、この魔獣を倒して落としたのか? 魔石は……抜かれているな。もしかして、この牛の魔獣って素材になる部分が無いのか? 無いから魔石だけをとってここに投げ捨てた、と。でもさ、そうなると上に誰か居るってコトだよな。うーん、今日も他の冒険者が居るのか。意外と人気の小迷宮なのかな。
まぁ、ここに居ても仕方ないし、戻りますか。上に上がって他の冒険者と鉢合わせするのも面倒だしね。
また中央に戻り次の道へ進む。
次の道も少し進むと行き止まりとなった。上に道が見えるのも同じだね。
次の道も同じ。魔獣も出ない。
次の道も同じ……かと思いきや、下り坂になっていた。おー、ここが正解だったか。ま、せっかくだから進むか。
しばらく下り坂を進んでいるとジャイアントラットという線が見えた。さっきのネズミか。
――《スパイラルチャージ》――
そのままネズミの元まで駆け、その勢いのまま螺旋を描く真紅妃を突き刺す。その一撃によってネズミは悲鳴を上げる間もなく、絶命する。楽勝、楽勝。
真紅妃を引き抜き、振り払い、血飛沫を飛ばす。サクサクと14型が魔石を回収してくれている。うん、魔石以外の素材は要らないよね。売っても安そうだもんね。
下り坂が終わり、そのまま進むと今度は左手に木で作られた扉が見えてきた。
「ここですね」
俺は何も言ってないし、何も指示を出していないのに、14型が扉を蹴り破る。いや、あの、ちょっと脳筋過ぎやしませんかね。扉、鍵が掛かってなかったもしれないじゃん。
中は……またジャイアントラットかよ! もう飽きたよ。全然、強くないじゃん。楽勝で嬉しいと言えば嬉しいけどさ! しかも6匹とか! 部屋中に詰まってる感じだよ!
――《百花繚乱》――
部屋に詰まっている巨大なネズミに真紅妃が穂先も見えないほどの高速の突きを繰り出す。
ネズミの肉が削れ、無数の紅い華が咲く。生き残ったネズミは14型が木の扉の残骸を使って叩き潰していた。いや、ホント、14型さん、どうしちゃったの。何だか、行動が脳筋だよね。
――[クリーン]――
ネズミの死骸を部屋の外へと運び、クリーンの魔法を使って部屋の中を綺麗にする。魔石の回収は14型さん任せです。部屋の外で黙々と頑張ってください。
と、こっちの部屋にも宝箱か。ネズミに壊されてなくて良かったよ。一応、罠がかかっていないか鑑定して確認しよう。
【毒ガス】
毒ガスかぁ、毒ガスか!
『14型』
俺は部屋の外に出て、魔石を回収している14型に呼びかける。
「マスター、なんでしょう?」
『14型は毒とかは大丈夫だろうか?』
14型が首を傾げる。
「毒の種類にもよりますが、まさか、私のマスターが毒という一括りで全て同じ物だとは思っていないと思うのですが、どういった意味ですか?」
て、14型さん、それ絶対分かってて聞き直しているよね。あー、もうね、確かに毒って一口に言っても色々あるよね。そんな毒って一括りに出来るモノじゃないよね。あー、もう、俺もこの世界に毒されていたのかなぁ。毒だけにって? HAHAHA
はぁ。
『14型、中に毒の罠が仕掛けられた宝箱があった。開け次第、急ぎ離れようと思う。14型も巻き込まれないように注意してくれ』
「なるほど、そういうことですか。了解しました。ちょうど、この魔素結晶も集め終わったので大丈夫です」
あ、はい。
部屋に戻り、サイドアーム・ナラカを使って木製の宝箱を開ける。その瞬間、緑色のガスが宝箱からあふれ出す。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、急ぎ、来た道を戻る。
中央の分岐路まで戻った所で足を止める。さあ、後は毒が消えるのを待ちますか。
―2―
「マスター、ご飯の用意が出来たのです」
14型が魔法のリュックからポンちゃんが作ってくれたお昼ご飯を取り出し、並べていく。
――[アクアポンド]――
俺が水溜まりを作り、それを14型が何処からか取り出した深皿に掬う。
さ、今日のお昼はなんだろか?
ばばーん。
色の付いた肉を揚げたモノとコーンとパンか。お味噌汁のようなモノも欲しいとこだけど、ま、さすがにそれは贅沢か。
もしゃもしゃ。
「マスター、お水をどうぞ」
ごくごく。
色の付いた肉は、醤油風味のタレに漬け込んだ鶏肉? を揚げたモノぽいね。醤油風味だけど、何を使ったんだろうか。この世界、醤油ってなかったよな? 似たような味の『魚醤』って名前が付いている謎の調味料はあったけどさ。でも、アレ、帝都にはなかったと思うんだよなぁ。
もしゃもしゃ。
「マスター、お水です」
ごくごく。
「マスター、お……」
『14型、水はもういい』
いやね、あのね。14型さん、お前は俺にどんだけ水を飲ませたいんだよ。俺を水でたぷたぷにさせたいのか! 前回といい、今回といい、もうね!
と、そろそろ毒が薄れているかな。
『14型、食事は終わりだ。行くぞ』
俺の天啓に14型が優雅にお辞儀をする。そして、一瞬の間に食器類を片付けてしまう。ホント、こういう所は有能だよなぁ。と、考えている場合か、戻りましょう、《飛翔》スキルでサクッと戻りましょう。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、先程の部屋まで戻る。毒の霧は消えているようだ。さあて、宝箱の中には何があるかな?
中にはカンテラが入っていた。いや、あの、えーっと。カンテラとか要らないんですけど……。一応、鑑定しておくか。な、何か特別なカンテラかもしれないからね。
【久遠のカンテラ】
【通常よりも長持ちするカンテラ】
……。
は? ど、どういうこと? さっきと名前は違うけどさ、効果一緒じゃん。一緒じゃん!
う、うーん。ま、まぁ、貰っておくけどさ。これは要らないよなぁ。後で換金しよう。
さてと、下水の探索を続けますか。
16年2月21日修正
――《肥料》―― → ――《飛翔》――