5-88 探索を再開
―1―
「あら、ランさまもご飯? フルールも今からですわぁ」
14型が料理を頼みに行こうとした所でフルールがやって来た。
「あら? その金属の棒は?」
フルールが14型が持っている謎のパーツに気付いたようだ。そう言えば、世界の壁では力のパーツだったよな。なんで、闘技場の地下と試練の迷宮のパーツは謎のパーツなんだろう? てっきり、魔力のパーツや速さのパーツとか色々あると思ったんだけどなぁ。
「ええ、マスターが用意された私のパーツです。そうですね、今、強化してしまいましょう」
14型が謎のパーツを飲み込む。あ、やっぱり飲み込む系なんですね。
そして14型はそのまま部屋を退出した。あ、ご飯……。ご、ご飯を取りに行ってくれたんですよね?
と、フルールか。
『フルール、こちらを』
魔法のリュックから16個の銀のインゴットを取り出す。
「これは……銀のインゴットですわぁ」
そうですわぁ。
「で、これわぁ?」
あ、何だか、どうでも良い感じですね。銀って余りたいしたことが無いのかなぁ。まぁ、究極系じゃないしな。
『迷宮都市で手に入ったので、フルールに渡そうと思ってな』
「はぁ」
うわ、ホント、どうでも良いって感じのリアクションだ。
『ちなみに銀のインゴットからは何が作れるのだろうか?』
フルールが銀のインゴットを傾けたり、裏返したり、状態を確認している。
「銀のインゴットですと、短剣や装飾品に食器ですわぁ」
へぇ。装飾品か、それに短剣か。長い剣とかは作れないのかな。
「銀のインゴットは脆いので武器や防具に向かないのですわぁ」
あ、そうなんだ。銀って脆いんだったか? まぁ、俺、金属の専門知識があるわけじゃないし、この世界の銀はそうなんだろうな、ってコトしかわかんないぜ。
『どう使うかはフルールに任せる』
「任されましたわぁ。そうですわぁ、この余り状態の良くない銀の方は、ここに置く食器にでもしますわぁ」
へぇ、フルールってば、食器を作ったりも出来るんだ。
「そうですわぁ。うちの方のユエの練習になりそうですわ」
へ? ユエってば、鍛冶仕事も手伝っているのか?
『ユエも鍛冶仕事をしているのか?』
俺の天啓にフルールが手を振る。
「いやいや、ちゃいますわぁ。犬人族の女の子の方のユエですわ」
ん?
んん?
あー、あのクソ餓鬼連中か! あの中の1人がユエって名前なのか。紛らわしいなぁ。
「ユエって帝都では多い名前らしいですわ」
あ、そうなんだ。何か由来があるのかな。伝説の勇者がユエだったとか、そんな感じで。ま、だから、うちの方のユエってわざわざ断ったのか。
「お、ランさん、帰ってたんだな。すぐに食べる物を作って持ってくるよ」
ポンさんもやってくる。
「ちょっと、待ってなよ」
あ、はい。
「あー、ポンちゃん、フルールのご飯もお願いしますわぁ」
「はいはいよ」
「私もお願いします……」
猫耳をぴょこぴょこと動かしながらユエもやってくる。
「はいはいよ」
ユエの言葉にポンちゃんが片手を上げて食堂の方に戻っていく。で、14型さんは、ちょっと有能になったように見えた14型さんは! ポンちゃんがこっちに来ているってことは入れ違い? それとも何処かに消えた? あー、もう、ちょっとは有能になったように見えたのになぁ。
「ランさま、さっそく動いて戴いたようでありがとうございます……」
ユエがお辞儀をする。そして、そのまま席に着く。あー、ああ、ここの権利を奪いに来ていた貴族の件が片付いたのか。そうか、さすがはフロウというか……。う、うん、もう、この件は終わったこととして考えないことにしよう。
―2―
――[アクアポンド]――
自宅の裏に池を作る。新しく部屋を作ったから、ちょっと、家の裏が狭くなったよね。ま、これも快適に暮らすためだ、仕方ない、仕方ない。
「マスター、準備が出来たのです」
お、14型か。では、行きますか。
――《転移》――
《転移》スキルを使い小迷宮『異界の呼び声』に着地する。ふぅ、さすがに今日は他の冒険者はいないか。
『14型、この小迷宮では精神攻撃をしてくる魔獣がいる……』
と、そこで14型が腕をクロスさせた変なポーズを取り、こちらの話を中断させる。え、何、そのポーズ。
「理解したのです! つまり、私は、その魔獣をすり潰せば良いのですね」
いや、まぁ、それでもいいけどさ、どちらかというと俺を起こして欲しいなぁって思っていたんだけど……って、あれ? 14型が元の性格に戻っていないか?
「仕方ないですね。少し足りていないマスターには、この! 私の力が必要なのですから」
いや、あの、前より壊れている気がする。も、も、も、もしかして、アレか! 謎のパーツを与えたから壊れたのか! せっかく有能そうになっていたのに……。あー、失敗した。
まぁ、考えても仕方ない。今度こそ、この小迷宮『異界の呼び声』を踏破しちゃいますか!
扉を開けて進むとすぐに橋になっていた。うーん、今日はこの下を探索するってのも有りかなぁ。
よし、行ってみよう!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、水の涸れた堀の中へと降りてみる。うん、地面は完全に乾いているな。カチカチだ。
橋の下、城側には鉄格子のかかった通路があった。これ、下水かなぁ。
「マスター、これは私の出番ですね」
そう言うが早いか、14型が鉄格子を無理矢理こじ開ける。って、ちょっと、ちょっと、俺、何もそこを進むなんて一言も言ってないぞ。あー、もう。
まぁ、せっかく作った道だ、進んでみるか。
――《ライト》――
頭の上の羽猫をサイドアーム・ナラカでなでて明かりを灯し、薄暗い下水道を進んでいく。これは石? レンガ? よく分からないけど、間違いなく、かつて水の通路だった感じだな。
しばらく進むと右手側にボロボロの木製の扉が見えてきた。ほー、ただ水が通るだけの道かと思いきや部屋がある、か。これはワクワクしてきたぞ。
扉を開けようと、サイドアーム・ナラカで取っ手を掴む。しかし開かない。押しても引いてもびくともしない。これ、鍵が居るのかな? 仕方ない、後回しにするか。
などと俺が考えていると、14型が扉を叩き壊した。へ? え?
「マスター、これで進めるのです。如何ですか? 慎重派のマスターには思いつかないであろう完璧な行動なのです」
いや、あの……。14型さんが脳筋になってる、なってるよ!
ま、まぁ、これで進めるか。
部屋の中には小さな机と宝箱、それに巨大なネズミが3匹ほど居た。って、魔獣か!
――《百花繚乱》――
3匹で固まっている巨大なネズミの元へと駆け、穂先も見えないほどの高速の突きを繰り出す。真紅妃が巨大なネズミの肉を削り、血の華を咲かせていく。
1匹が百花繚乱の範囲から逃げ、こちらへと飛びかかってくる。それをいつの間にか俺の横に居た14型が飛び、蹴り飛ばした。巨大なネズミが壁に当たり、べちゃりと弾け飛んだ。え、えーっと、14型さん、どんな勢いで蹴り飛ばしているんですか……。に、肉の欠片がこっちまで……。
――[クリーン]――
覚えてて良かった、クリーンの魔法!
『14型、魔石を頼む』
14型が頷き、何処かから切断のナイフを取り出し、巨大なネズミの死骸から魔石を取り出す。って、壁にぶちまけたヤツは魔石も砕けているじゃん。これ、魔石を砕いたのと同じようになってませんかねぇ。駄目ですかねぇ。
と、宝箱、宝箱。木製の箱だな。よし、一応、念のために鑑定しておこう。罠があったら怖いからね。
【罠はかかっていない】
ほっ。安全か。じゃ、開けますかね。何かな、何かな?
中に入っていたのは、カンテラだった。え? これだけ? 一応、鑑定しておくか。
【永劫のカンテラ】
【通常よりも長持ちするカンテラ】
は? 完全に名前負けしてる、してるよ、これ! 永劫って名乗るなら何度でも永遠に使えるようなカンテラにしてください! はぁ、俺には羽猫が居るから、これは要らないよなぁ。後で換金しよう。
さてと、下水の探索を続けますか。