5-85 闇のその先
―1―
冒険者の皆さんにお礼を言って小迷宮『異界の呼び声』を後にする。俺にはまだ無理、か。いや、多分、力量的には充分な気がするんだよね。俺は自重しないもんね! ただ、今までと違うのは仲間が居ないってコトなんだよなぁ。それで攻略出来なかったんだと思うんだよね。
現状、ここを独りで攻略するには、状態回復というか、精神系を無効にするような何かが無いと無理だって話なだけでさ!
ま、無い物ねだりをしても仕方ない。次の目的地に行きますか!
――《転移》――
《転移》スキルを使い迷宮都市に着地する。あ、受付の猫人族のお姉さんが居る。って、あれ? 今日って試練の迷宮が開く日だったか? しまったなぁ。
「ら、ランさま……、何故、上から?」
何故なんでしょうね。
俺は周囲を見回す。他の冒険者の姿は見えないな。今、試練の迷宮に挑戦中なのかな。うーん、どうしよう、今日、開かれるとは思っていなかったからなぁ。挑戦するつもりじゃなかったんだけど、試したいことがあるんだよね。
よし、予定変更。挑戦しよう。
『試練の迷宮に挑戦は可能か?』
「え、ええ。可能です……が」
猫人族のお姉さんがちょっと引きつったような笑顔で答えてくれる。じゃ、行きますかー。
俺がそのまま進もうとすると猫人族のお姉さんが声をかけてきた。
「そ、そのまま向かうのですか?」
うん? 何か問題が? あー、そういえばここって武器を預けて、ギルドが用意した武器を使うんだったか。ま、俺には、関係ないね!
今回は真紅妃はお休み、真銀の槍の出番だね。
試練の迷宮に入り、石壁の通路を進む。
―2―
途中、目眩を感じ、気付くと周囲の景色が変わっていた。頭の上に居たはずの羽猫の姿も見えないな。これはアレだ。アストラルデーモンから闇魔法を受けた時と一緒だよね。と、そう言えば小迷宮『異界の呼び声』で闇属性を習得していたような……。
確かナイトメアの魔法だったか? ま、ここは幻覚だろうから、後で試してみよう。
で、また森か。ここの最初の風景ってさ、他の2人の話を聞く限りランダムかと思ったんだけど、もしかしたら人によって決まっているのかな。
ま、やることは決まってますけどね!
――[アイスウェポン]――
真銀の槍が氷に覆われる。一瞬で駆け抜けるぜ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルで森を駆ける。
最初に現れたのは……ホーンドラットか。氷に覆われた真銀の槍を水平に構え、そのまま飛ぶ。《飛翔》スキルの勢いによってホーンドラットが真っ二つになる。
そのまま《飛翔》スキルで飛ぶと目の前に黒いローブを着た牛が現れる。おいおい、さっき殺されかけたアストラルデーモンかよ! いや、幻影だから、本来の力は無いはずだ。
俺が《飛翔》スキルで駆け抜けると、アストラルデーモンはあっさりと真っ二つになった。
うん、予想通り楽勝だな。
次に現れたのは羽の生えた蟻だった。こちらも《飛翔》スキルで通り抜けざまに真銀の槍で真っ二つにする。うん、楽勝、楽勝。
そのまま《飛翔》スキルで駆け、森の熊さんが居た所で効果が切れ、その勢いのまま熊さんの目の前に着地する。そこから真銀の槍を振りかぶり、巨大な熊が爪を振り下ろした所を回避し、氷に覆われた真銀の槍で斬り払う。巨大な熊はその一撃だけで消滅した。楽勝、楽勝!
そして、また軽い目眩に襲われる。次は迷宮だったか?
―3―
気付くと石造りの広間に居た。前回と同じか――いや、今回は俺1人だな。試練の迷宮に入ったタイミングかな?
これさ、結局、何が正解だったか、わかんないんだよなぁ。
ま、前回と同じ順路で進んでみますか? いや、その前に全ての扉だけ開けておくか。
――《飛翔》――
全ての扉を開け、《飛翔》スキルを使い前回と同じ順路で進むと、最初の部屋に戻ってきた。そして中央の床が割れ、下り階段が現れた。うーん、ま、何が正解か分からないけど進めるからオッケーってコトだよね!
最下層に降りると前回と同じ闘技場に出る。吊り橋も一緒、落ちたら死にそうなのも一緒。これ、わざと飛翔スキルで下に降りるのもありかなぁ。ま、でも、これさ、全て幻影だろうから、そんなことをしても意味が無いんだろうけどね!
そして舞台の中央には斧を持った牛頭が居た。うんじゃまぁ、サクッと倒しますか!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、舞台の上まで飛ぶと斧を持ったミノタウロスがこちらへと駆けてきた。
――[アイスランス]――
俺の手から伸びた鋭く尖った氷の枝がミノタウロスを貫く。それだけでミノタウロスは動きを止め消滅した。弱い、弱すぎる!
ミノタウロスを倒し終えると舞台の中央が開き、下り階段が現れた。じゃ、進みますか! うん、サクサクだね。魔法使いのお姉さんがさ、私たちが居たからー、みたいなことを言ってたけどね、でもさ、俺1人でも楽勝だったじゃん!
―4―
長い長い、先の見えない階段を降りていくと軽い目眩に襲われた。
そして気付くと、俺は石壁の通廊に居た。正面には外の明かりが、光が見える。ああ、あそこへ進めばいいんだな。
「にゃあ!」
と、そこで俺の頭の上に乗っていた羽猫が俺の頭を引っ掻いた。痛ぇッ! な、何しやがる!
「にゃあ」
って、あ、そうか。危な、また無意識のうちにゴールしてしまう所だった。これ、多分さ、まだ光の方へ進むように幻覚作用が働いているんだろうな。
危ない、危ない。
俺が行きたいのはそっちじゃないんだ。
これさ、この光の逆方向に進んでみたら、この小迷宮の奥に進めるんじゃないか? 冒険者ギルドは腕試しに、この小迷宮のトラップを利用しているけどさ、本当は奥に進ませない為のトラップなんじゃないかなぁ。精神系とか幻覚系を無効化出来る人じゃないと進めない感じなのかもしれんね。
って、コトで奥に進もう!
俺が奥へ、光と逆の方向へ進むと大きな扉が見えてきた。ビンゴッ! 大当たりですよ!
俺の勘が大当たり!
さ、何があるかなー?