5-83 探索の開始
―1―
――[アクアポンド]――
もしゃもしゃ、ごくごく。
食事の後は水分補給も大事だからね。
ふぅ、これで一息ついたな。さ、そろそろ小迷宮『異界の呼び声』に入りますかね。
小さな城の城壁に付いている扉を少しだけ開け、中をのぞき込む。魔獣は居ないか。
扉の中はすぐに橋となっており、その先に扉が見えた。へ? 城壁の中に堀? でも、下に水は張られていないな。枯れてるね。これ、もしかして、この枯れた水路を歩いて行くと隠し通路があるとか――無いよな?
ま、まぁ、普通に進むか。
橋の先には扉と左右に道があった。左右の道はそれぞれ小さな塔へと続いている。見張り塔かな? ま、ここは普通に扉の中に入りますか。
扉を押し開ける。内開きの扉か。って、ここが閉まってるってコトは、さっきのおっさん連中はこっちに進んでいないのか?
中はエントランスになっており、正面の通路と二階へ上がる螺旋階段が見えている。そして正面に一匹の魔獣が居た。
2本足で立っている、角の生えた雄牛だ。人の体を持ったミノタウロスとは違い、本当に角の生えた牛が2本足で立っている。な、何だ?
「あれあれ、いえらー」
角牛が理解出来ない言葉で喋る。えーっと、異能言語理解スキルでも変換されないってことは、意味ある言葉ではないってコトか?
牛の角が光り、そこから雷が、こちらへと走る。俺は、とっさに横へと避けて回避する。危ないなぁ。
さらに今度は角牛の手に火の玉が生まれる。魔法か! 俺は魔法のウェストポーチXLから真銀の槍を取り出す。
――[アイスウェポン]――
真銀の槍が氷に覆われる。さあ、行くぜ。
こちらが真銀の槍に魔法をかけるのを待っていてくれたかのように、ゆっくりと角牛が火の玉を飛ばす。
――[ウォーターミラー]――
水の鏡によって火の玉が跳ね返り、そのまま角牛の元へと戻る。そして角牛が炎に包まれる。
――《飛翔》――
氷に覆われた真銀の槍を水平に構え、そのまま《飛翔》スキルで飛ぶ。水平になった氷の刃が角牛の胴体に刺さる。そのまま《飛翔》スキルの勢いに乗り駆け抜ける。
俺が着地した後には、炎に燃え、真っ二つになった角牛が居た。そしてさらに炎は燃え続け、角の生えた牛は炭化し、魔石を残して死んだ。こえぇぇ、あの火の玉を喰らっていたら、俺がこうなっていたのか? 恐ろしい魔法を使うな……。
にしても《飛翔》スキルとウォーターミラーの魔法が便利過ぎる。これ規格外な性能だよね。何だか、俺、強くなり過ぎちゃった気がするなぁ。もう、殆どの魔獣が楽勝で勝てるんじゃないか? ふふふ、俺、凄い!
―2―
エントランスにある螺旋階段を上り、上の階に上がる。おっさん連中は先に下の階を探索してそうな気がするからね。鉢合わせしないように上から探索だぜー。
そのままとなりの部屋へ進むと吹き抜けになっていた。ここからだと下の階が見下ろせるな。おー、おう、結構な高さだ。落ちたら骨折しそうだね。ま、骨があったらだけどさ!
左と右、後、奥に扉か。まずは左右の部屋を確認して、最後に奥の部屋かな。
俺が右の部屋に入ろうとしたトコロで、吹き抜けから見える下の階におっさん連中が現れた。お、さっきの冒険者たちだね。うん? 何かと戦っているのか?
下の階にある部屋の1つと思われるところから、肩に傷を負ったおっさんと短髪少女が転がり出てくる。それを追うように一つ目の巨人が現れた。おー、人の2倍くらいのサイズがあるね。ま、でもさ、この世界からすると小さい方だよね。それでも、ちょっと飛び跳ねたら、この階まで届きそうだ。怖い、怖い。
小さめの一つ目巨人が手に持った棍棒を振り回す。おっさんが、それを回避し、巨人の足下へ回り、すねを殴りつける。おっさんは拳士系なのか? 手に、トゲが付いた殴られたら痛そうな手甲を付けているな。肩を負傷しているのに軽快に動くなぁ。
短髪少女が飛び、巨人の腕を駆け上がり肩に2本の短剣を突き刺す。巨人が短髪少女を握りつぶそうと空いている方の手で掴みかかる。短髪少女が、それをくるりと一回転して、後方へと飛び回避する。
巨人が棍棒を構え、空中へ飛んだ短髪少女へと振り払う。
そこへ巨人の動きを――腕を止めるように木の枝が伸び、絡みついた。下から小さな杖を持ったモヒカンが現れる。うお、モヒカン、お前、魔法使いだったのか? に、似合わねぇ……。
さらにモヒカンが呪文を唱えると、おっさんの傷が癒えていく。って、魔法使いじゃなくて治癒術士か。ど、どちらにしても似合わねぇ。
無言の人も吹き抜けに姿を現す。って、この人、武器を持っていないけど、何のクラス持ちなんだ? って、戦闘に参加せずに観戦しているだけだな。な、謎なパーティだなぁ。まぁ、でもさ、この分ならおっさんたちの勝利に終わりそうだな。
じゃ、予想通り、おっさん連中が下の階を探索しているみたいだし、俺は上を探索しますか!
宝箱とかあるといいなー。
―3―
右の部屋に入ると、中には、朽ちてかつては木の机だったモノが無数に散らばっている。そして、その奥に大きな剣を持ったまま骨になった死体があった。えーっと、これ、突然、動き出すとか無いですよね? スケルトンだー、とか無いよね?
ちょっと、近寄る前に大剣を鑑定してみるか。
【風化したグレートソード】
【両手で持つことを前提とした風化した巨大な鋼鉄の板の剣】
相変わらず変な解説文だなぁ。無理矢理単語を繋げたというか、そんな感じだよね。にしても、余り価値はなさそうだ。
ま、でもインゴットにしたら使えるかもしれないし、貰っていきますか!
俺が大剣を手に入れようと近づくと、骨に光が灯った。あ、やっぱりスケルトンだったか!
――《Wスパイラルチャージ》――
サイドアーム・ナラカに持たせた真銀の槍と俺自身の手で持っていた真紅妃が螺旋を描く。2つの螺旋が大剣を持ち、動き出そうとしたスケルトンを打ち砕く。おー、あっさり。ま、所詮、骨だもんね。こんなもんだね。
楽勝、楽勝。
このスケルトンは魔石無しか。ま、そういうこともあるよね。じゃ、改めて大剣ゲットだぜー。
俺が大剣を取ろうとサイドアーム・アマラを動かした所で、大剣が空中に浮かび上がった。
へ?