5-77 過去からの邂逅
―1―
しかし、何も起こらない。
えーっと、何処かで何かが起こったのかな? と、とりあえず探してみよう。
まずはここから近い下の方かな。俺は駆けるように階段を飛び降りる。
すると、先程行き止まりだった場所に小さな通路が現れていた。うーん、隠し扉とかだとさ、隠し扉って線が見えてもおかしく無いと思うんだけどなぁ。急に現れたな。
何だろう、脱出路というか、そんなイメージの通路だなぁ。
ま、如何にもな通路だからね、進みますか!
薄暗い、金属で作られた隠し通路を羽猫の明かりだけを頼りに歩いて行く。ここは結構狭いなぁ。さっきまで充分な広さがあったのに、急に狭くなったよね。俺のサイズでも伸ばせば両方の壁に手がつきそうだ。これ、背が高い人なら屈まないと進めない――と言うことは気をつけないと上の壁に羽猫をこすらせてしまうということだな!
「にゃ!」
と、俺が考えたからか、どうも羽猫が天井に頭をぶつけたようだ。おおう、すまん、すまん。これは昔ながらの芋虫スタイルの方が素早く動けそうだ。
四つん這いの芋虫スタイルになり、しゅたたっと隠し通路を進んでいく。
しばらく進むと道が開け、下り階段が現れた。ここを降りるのか?
まーた、階段ですか。階段って余り良いイメージが無いんだよね。コレも全て世界の壁が悪いんだ。あそこはホント、心が折れそうなくらいに上り降りばかりだったもんな……。
まぁ、ここを進むしか無いからな、愚痴っても仕方ない。降りるか。
―2―
階段を降り続けると周囲の壁が透明になった。そして、一気に明るくなる。
眼下に広がる世界。沢山の建築物。おー、ここからも地下世界に通じているのか? もしかして、もしかして! ここからなら、この透明な壁の先に見えている、謎の遺跡群を探索できるのか?
これはちょっとわくわくしてきたぞ!
透明な壁に覆われた階段を降りていくと、巨大な扉が見えてきた。門の前に台座があるのも一緒か。はぁ、結局、同じじゃん。ここも進めない、と。
階段を降り、巨大な扉に近づくと、その巨大な扉が傷だらけになっているのが分かった。何だ? 何かの攻撃を受けたのか? 一部、壊れ、向こうが覗いている部分も有り、そこから色の濃い魔素が漏れていた。
地下世界って、魔素が充満しているのかな? 余り、魔素が濃すぎると深淵鼠の時みたいに普通の生物が異常な魔獣に変わってしまうのか? 動物が魔獣化するって怖いよなぁ、ホラー映画な感じだよね。
巨大な扉に近づくと、その扉の下、扉を守るように何かが転がっているのが見えた。人……か? 何だ、何だ?
俺は、その人らしき姿の元へと駆ける。
急ぎ階段を駆け下りる。
何だ、何だ? 人が倒れているのか? いや、でもここ隠し通路だよな? 閉じ込められたのか? いやでも、閉じ込められた人が……生きているのか?
俺が人らしき残骸に近づくと声が聞こえた。
「そこに誰かいるのですかい? ああー、600年、いや、800年ぶりですか、記憶が壊れて」
生きている?
そこに居たのは傷付き、倒れた人型の何かだった。左の腕はもげ、そこから中の配線がこぼれ落ち、足は削れ、繊維が千切れ飛び、緑髪のサイドポニーは今にも崩れそうだ。そしてその前髪に隠れるように剥き出しの眼球があった。異様なのは彼女自身はボロボロだというのに着ているメイド服が新品同様ということだ。何だ、何だ? 14型の仲間か?
『大丈夫か?』
俺は恐る恐る天啓を飛ばしてみる。
「って、星の神殿の獣ですかい。はぁ、あたいの最後がコレとは……」
倒れている少女は起き上がろうとして、起き上がれず、そのまま倒れ込む。
「結局、戦いはあの女の勝利ってことですかい。妹たちが無事ならいいんですがねぇ」
独り言か? 妹たちって14型のことか?
『その妹というのは14型のコトか?』
俺の天啓に少女が倒れたまま、剥き出しの眼球がこぼれ落ちそうなほどの形相でこちらを睨む。
「お前、妹を!」
いやいや、これ、何だか誤解されているよね。えーっと、何か、うまく誤解されないように説明しないと……。
『すまない。言っている意味が分からない。自分はランという。14型は自分の旅の仲間だ』
少女の表情が和らぐ。
「そうですかい。どうやら、こちらの勘違いのようで。で、外はどうなったか教えてもらっても?」
外? 外って? いや、俺もさ、気付いたらこの世界に居た側なんで知らないことばかりなんですが……。なんで芋虫の姿になっているのかも分からないし、謎ばかりなんですけど。
「ちなみに、あの女との戦いがどうなったかは?」
あの女が分かりません。
『あの女とは?』
「そうですかい。わからないんですか。それくらいの年月が経っていたってことですかねぇ」
わからない。この少女は凄い昔からここに居るってことか? で、あの女って言われている存在と戦っていたってことか?
『すまない』
「はっはっはっは。神殿の獣に謝られることがくるなんてねー。戦いの結果はどうあれ、平和になった、ってことですかい」
平和なのかなぁ。一応、魔族とはまだ戦っているぽいけど、平和と言えば平和なのか? まぁ、俺がクエストを受けたり、冒険をしたり、そんなことが出来るくらいには平和か。
「あたいは6型ですぜ」
少女がニヤリと笑い名乗る。あー、やっぱりそういう名前なんですね。
―3―
『6型はここで何をしているんだ?』
俺の天啓に6型がクククっと笑う。
「地下世界を、いやこの世界の過去の遺産を封じているんですぜ」
この国……ではなく、世界か。
にしても6型さんは、この世界の過去とかを色々知ってそうだな。何か聞けることは聞いておいた方がいいのかな? でも、何を聞く? と言うかだね、聞いて答えてくれるんだろうか?
『14型に会いたいか? 何なら連れてくるが……』
「いや、いいです。こんな姿、妹に見せらんないですねぇ」
服は新品同様なのにね。何処かに6型さんを修理出来るような人は居ないのか? あー、クノエ魔法具店のクノエさんとかはどうだ? あそこのおばあちゃん、14型みたいなロボだったじゃん。何とかなるか?
「それよりも妹に渡したいものがあるんで、頼んでもいいですかい?」
『ああ』
俺の天啓を受け、6型が笑う。
「ありがとう」
6型がメイド服の胸元を大きく開ける。そこには剥き出しの金属が見えていた。
「あんまりレディの体をじろじろ見ないで欲しいんですがねぇ」
お、おおう。
そして、その剥き出しの金属の中へと無事な方の手を突き入れる。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
ぶちぶちと何かが引きちぎられる音が辺りに響く。ちょ、ちょっと何しているの?
6型が、手にした緑色に明滅する丸い球のようなモノをこちらへと突き出す。
「あたいのコアです。妹の命を繋ぐのに使ってくだ……」
そのまま6型は動かなくなった。え? え? ちょっと、待て。ちょっと待ってくれ、俺、色々、聞きたいことがあったんだぞ。
もう少し、この世界のことが分かるかと思ったのに、それは無い。ホント、無い。
もう少し、もう少しだけ会話してくれても良かったじゃないか!
何だよ、コレ。
何だよ、コレ。
ホント、何だ、これは!
―4―
6型から受け取ったコアを魔法のリュックに入れる。
6型は、扉を守るように、扉に寄りかかったまま動かない。
6型を持って帰るか? いや、よく分からないが、この扉を守っていたんだよな? そのままにしてあげるべきか……。
改めて巨大な扉を見る。傷付いた門は閉じられたままだ。
そして、その扉には4つの玉が取り付けられていた。赤、黄色、緑に青か。この辺も俺の家の地下と一緒だな。
斬り傷に、凹み、一部、崩れ穴が開いている巨大な扉。これ? もしかして、俺が思いっ切り攻撃したら壊れるか?
……。
俺は門の下で眠っている6型を見る。ま、ここでは止めておくか。
門の側にある台座に描かれているのも三日月型のイラストに五芒星、○の周囲に線と、月、星、太陽の紋章で同じだ。
俺は、もしやと思い台座に触れてみる。しかし、何も起こらなかった。ま、そりゃそうか。もしかしたら何か起こるかなって思ったけど、そんなうまく行くわけが無いよね。
はぁ、思いがけない出会いがあったけど、結局、俺が戦いたかったアストラルデーモンとは出会えていないんだよな。えーっと、どうしようか。
このまま、この先に進むことは出来ないし、多分、ここは小迷宮『異界の呼び声』部分とは別扱いだろうし――仕方ない、戻るか。
一旦、自宅に戻って、14型にコアを渡す。そして明日、もう一度、他の道を探索。
ま、そんな感じで頑張りますか!