2-31 変異
-1-
宿に帰る。
『女将、今戻った』
女将さんは酒場に来ているお客さんに料理を運んでいたが、こちらに気付き挨拶をしてくる。
「おやおや、お帰り。今日から食事は必要かい?」
『ああ、頼む』
ぽっちゃりな娘さんの姿も見える。ぽっちゃり体型ながらキビキビと料理を運んでいる。頑張っているなぁ。
「ちょいと待っておくれよ。ちょうど晩の食事が出来たところだからね」
そう言って女将さんは奥から本日の晩ご飯を持ってきてくれる。
『そうだ、女将。後、何日ほど宿泊が出来るだろうか?』
料理を持ってきてくれた女将さんに聞いてみる。
「そうだね、後10日分ってとこかね」
10日分かぁ。まだまだ余裕があるな。事前に宿泊費を追加しておいて良かったぜ。
出された料理は――今日もスープです。あんたら毎日スープで飽きないのか。今日は赤いスープともさパン(勝手に命名)である。スープに入っているグリーンヴァイパーの肉は結構美味しいから、まぁ、我慢してしんぜよう。
――<糸を吐く>――
俺は糸を使って出された料理を掴み手にしていく。
「あんたのソレ、ほんと、器用に使うねぇ。まるでもう一個手があるみたいだよ」
そうだろう、そうだろう。ここまで使えるようになるまで、何日経ったか分からないくらい使い込んだからなぁ。
『うむ。大切なもう一つの手だな』
と、そこでシステムメッセージが。
【<糸を吐く>スキルが成長限界に達しました】
【<糸を吐く>スキルが<サイドアーム・ナラカ>に変異しました】
【<サイドアーム・ナラカ>の開花に伴い<魔法糸>のスキルが作成されました】
は? って、もしかしてついに<糸を吐く>のスキルが限界まで成長したのか? やはり9999が最高だったのか? と俺の目の前に透明な腕が――引っ張っていた糸がいつの間にか一本の透き通った腕になっていた。うん? これ、俺の意志で動くぞ
もう一本の腕が出来た感じです。というか、長さ的にもやっと自由に動く腕が出来たって感じなんですが。
これなら今まで糸に頼っていた行動が普通に出来そうだ。
「お、おい食器が空中に浮いてるぞ!?」
と他のお客さんの驚いた声。アレ? この腕、他の人には見えないのか。他の人的にはスープ皿が空中に浮いているように見えるのか。浮遊と組み合わせてすーいとかやったらウケそうだな。
新しい腕でスープともさパンを持って部屋に戻る。懐かしの自室です――いやまぁ、借りている宿の一室だけどさ。
もさパンをスープに浸してもさもさと食べる。ああ、懐かしの不味さだ。不味い不味い、たまらない。でもお腹一杯。
ついでにステータスプレート(銅)を確認。<糸を吐く>のスキルが無くなり、<魔法糸>と<サイドアーム・ナラカ>が増えていた。スキルの項目の横は何も無く、熟練度は増えないようだ。うーむ、これが完成形って事か。
さあ、後は寝るだけなんですが――疲れるけど今日もMP検証実験をしないとね。
―2―
朝ご飯を食べて冒険者ギルドへ。
「虫、良く来た」
今日はちびっ娘か。蜘蛛退治の依頼ないかなー。
本当はもう少し矢が欲しい――当初は鉄の矢が10本になってから蜘蛛退治に行く予定だったけれど採取が余りにも不味過ぎた。あんなに稼げないとは思わなかった。仕方ないので予定を早めて蜘蛛退治です。
まずはお金稼ぎを出来る状態になるのが重要です。
今の鉄矢2本の状態でも、なんとか蜘蛛を一匹倒して、それを換金して、矢を買って、倒せる数を増やして……少しずつ効率を良くしていくって感じで進めてみよう。まぁ、一匹目で普通に倒せるようなら数匹は倒してみる予定だけどね。
運良く残っていたジャイアントスパイダー討伐のクエストを受領する。クエスト保証金になけなしの銅貨1枚を支払い出発です。
里の外に出ていつもの狩り場へ。今までだと蜘蛛の糸がどんどん増えてくるのだが、何故か余り蜘蛛の糸が見えない。
普段だとすでに蜘蛛が出没する辺りまで侵入しているのだが、まだ蜘蛛に遭遇出来ていない。も、もしかして俺がレッドアイを狩ったから蜘蛛が居なくなったのか?
と、視界に冒険者って線が複数見える。も、もしかして同業者が狩りに来ているのか……。
ジャイアントスパイダーが見えない理由はソレかッ!
あー、里から近くて独りで黙々狩れる美味しい狩り場だったんだけどなぁ。
仕方なく冒険者とは離れ逆方向を探索する。黙々と森の中を歩き、蜘蛛を探す。
ある程度歩いていると、少し離れたところにジャイアントスパイダーの線が見える。やっと発見です。
いつものように魔法糸を飛ばす。
――<魔法糸>――
スキル名も魔法糸に変わった糸を線の先に居るであろう蜘蛛目掛けて飛ばす。蜘蛛が糸に絡まり落ちてくる。サイドアーム・ナラカを使い弓を引く。
鉄の矢が蜘蛛に刺さる。鉄の矢によって地面に縫い付けられる巨大な蜘蛛。ギチギチ言ってます。うーん、やっぱり一発では倒しきれないか。
もう一発。鉄の矢が蜘蛛の脳天を貫く。その状態でもジタバタと動いていたが、そのうち動かなくなった。
蜘蛛から2本の鉄の矢を引き抜き状態を確認する。まだまだ使えそうだ。鉄のナイフで糸と魔石を剥ぎ取る。この辺は手慣れたものです。
鉄の矢2本でもなんとかなりそう。
もう少し頑張って蜘蛛を探して倒そうか。
それから2匹ほど蜘蛛を倒したが、鉄の矢2本だと殺しきれなかった。3本あれば確殺出来そうなんだけどなぁ。まぁ、殺しきれないと言っても体に矢が刺さった状態で観察していると、そのうち死んでくれるんですけどね。ゲーム的に言えば矢が刺さったままだと継続ダメージで倒せるって感じかな。
今日はこれで帰ろう。
他の冒険者もここに来るようになって美味しい狩り場じゃなくなったし、どうしようかなぁ。
今回の手に入る予定の資金を元手にして、試しに世界樹へ挑んでみるかなぁ。
3月10日修正
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