5-73 何があった
―1―
自宅前に到着っと。おー、換金所がかなり完成に近づいているな。何だろう、俺の家を建てた時よりも作業が早いんだけど、力の入りようが違うってコト? むぅ、むぅむうむぅ。
まぁ、気にしても仕方ないか……。
俺が自宅へと歩いていると冒険者や武具を装備したゴブリンやオークなどの魔獣とすれ違う。人が多いな。うーん、この辺も騒がしくなったなぁ。ちょっと前は墓地だったのにね。
そのまま食堂へ。食堂の中にはまだ多くの人がおり、新人くんが忙しそうに動き回っていた。む、まだ営業時間か。ウェイストズースの肉を渡して調理してもらいたかったんだけどなぁ。
「おい、あんた、そんな所に立ってるとじゃ……な、魔獣?」
俺の後ろから来た二人連れが驚いて足を止める。俺は悪い魔獣じゃないですよ。
「お前、知らないのかよ。チャンプだよな、チャンプ」
見知らぬおっさんが馴れ馴れしく俺の肩を叩く。いや、あの酔っ払ってますか?
「そ、そうなのか。チャンプ、よろしく」
あ、はい。よろしく。って、じゃなくて! だから、おっさん誰だよ!
「チャンプも飯、食いに来たのかよ」
いや、そうだけどね。でも、ここ俺の店だからね。だからさ、おっさん馴れ馴れしいよね。
「お、チャンプじゃん。ここの飯、安くて食いやすくていいよな!」
まだ、どんどんお客は来るようだった。だから、なんで、皆、俺に対して馴れ馴れしいんだ? あのクソ餓鬼連中といい、もうね、もうね!
はぁ、これは邪魔になるか。あー、換金所の方に行って――そっちにクニエさんが居るだろうし――先に解体してもらうかな。
「マスター、こちらだったのですね」
と、そこで14型が現れた。もう、ホント、急に現れるなぁ。
「お、この食堂のオーナーさんじゃん」
ん?
「この店の経営者じゃん」
んん?
「姿を現すなんて珍しい!」
んんん?
「マスター、どうしたのです?」
『14型……、あー、いや、何でも無い』
いや、まぁ、何だ。この家の持ち主って俺だよな? 14型に乗っ取られた? そ、そういえば俺、ずっと家を空けていたもんなぁ。もしかして俺の存在が秘匿されているのか? 俺が目立たないように気を遣ってもらっているのか?
「どうしたのです。言いたいことを我慢して溜めても良い事なんてないと思うのですが、マスターは、そのような考えが出来るほど思慮深くなかったと思うのです」
いや、一言多いよ。
『14型、自分がマスターで、ここのオーナーだな?』
俺の天啓に14型が何を言っているんだ、この人って感じの呆れ顔でこちらを見る。
「何を言っているのです。マスターはマスターだと思うのです」
あ、ああ。そうだよな。はぁ、考えたら負けか。
とりあえず換金所に向かいますか。
食堂を出て換金所へと向かう。14型も普通に俺の後をついてくる。
そして換金所へ。近くで見るとよく分かるけど、完全に家になってるな。あの木枠のみだったのが――うん、やっぱり早いなぁ。後は内装って感じか。
「あ、ラン様、まだ換金所は使えませんよ」
換金所の中ではクニエさんが片付けをしていた。あー、こっちも忙しい感じだね。そうか、オープンの為の準備をしないと駄目だもんな。
『いや、魔獣の肉を手に入れたのだがな、それをポン殿に渡そうかと思って』
「そうですか。では、自分が解体してポンさんに渡しておきます」
クニエさんが片付けを行っていた手を止め、腕まくりをしながら、こちらへと歩いてくる。あ、何だか、忙しいのに無理を言ったみたいでごめんね。
外に出て魔法のウェストポーチXLから大きなウェイストズースを取り出す。
「これは大きいですね。解体のし甲斐があります」
クニエさんが解体を始める。あー、夢中になって作業をしているな。えーっと、解体が大好きなのかな。解体が大好きってよく考えたら怖いよね。ホント、こういう世界で良かったよね。
にしても、これから解体で調理ってなると……晩ご飯には無理か。
「マスター、これを調理するのですね。たまには私が調理を……」
『いや、大丈夫だ』
謎の器具を取り出し調理を始めようとした14型にすぐさま天啓を飛ばし、ストップをかける。
「ラン様、ポンさんも調理に準備があるでしょうし、今日の晩ご飯には難しいと思いますよ」
良い笑顔で解体を続けているクニエさんが、そんなことを言う。うーん、晩ご飯のつもりだったんだけどなぁ。ま、仕方ない。
じゃ、食堂から人が居なくなるまで、自分の部屋で休んでますかね。
―2―
――[アクアポンド]――
いつものように自宅の裏に池を作る。はぁ、結局、昨日はウェイストズースの肉が食べられなかったなぁ。ま、今から食べる予定だけどね!
いつの間にか俺の後ろに居た14型とともに食堂へ。
「お! オーナー、今から焼く所よ」
ポンさんがカウンター越しに話しかけてくれる。前は調理場と食堂が別になっていたけど、いつの間にかその境が取っ払われてるな。代わりにカウンターが作られてるね。作っている所を見ながら食事が出来る感じになってるな。
ポンさんが壺から肉を取り出し、鉄板で焼いていく。おー、良い匂いだ。
「肉が硬いからよ、タレに漬け込んどいたのよ。本当はもうちょっと漬けたい所だけどよ、オーナーに早く食べてもらいたいからよ」
新人君が俺の席にスープを持ってくる。
「焼き上がるまで、それを食べててくれよ」
ほう? じゃ、遠慮無くいただきますか!
サイドアーム・ナラカで器を掴み、スープを一口飲む。お、これは蟹の出汁が……! 蟹スープか。他に入っているのは干したキノコとタケノコか! 帝都にはタケノコが無いはずだから、ナハン大森林からの輸入物かな。口の中に深く広がる濃密な風味が美味しい。
「オーナーの為だけの特別品よ」
お、そうなのか。まぁ、高そうな感じだもんな。
「さ、肉も焼けたぜ」
おー、待ちに待ったお肉ですよ。
と、そこで食堂の入り口が大きく開かれた。
「良い匂いじゃん!」
そこに居たのは西の冒険者ギルドに居た犬頭のスカイだった。うん?
「あれ? チャンプじゃん。何でここに居るの?」
いや、ここ、俺の店なんですけど……。
「ここってさ、安くて、そこそこ食えるって評判なんだよね。しかもしかも、さらに社員割引効くんでしょ? 最高だよねー」
へ? 社員割引? 初耳なんですけど。
犬頭のスカイが俺の方に歩いてくる。
「チャンプ、美味しそうなの食べてるなぁ」
あ、あげないからね! これは俺のお肉だからね!
「と、チャンプがここに居て良かった。実は探してたんだよー。最近、冒険者ギルドに顔を見せにこないしさー」
何だ、何だ?
『どうしたんだ?』
「いや、あのー、そのー」
俺が天啓を飛ばすと、犬頭のスカイは何故か急に口籠もった。何々、言いにくいこと?
「実は、ちょっとポカを、で、チャンプには本部の方には黙ってて欲しいかなぁっと」
うん?
何が?
何があったの?