5-72 晩ご飯登場
―1―
あ、最後に一つ。本当にコレで最後だから、教えて下さいな。
『試練の迷宮は何時開かれるだろうか? それとまた参加することは可能か?』
これも聞いておかないと、ね。
「三日後ですね。参加は自由ですが、何も得られる物はないと思いますよ」
ま、そうだよね。3日後は朝の早い段階から、この迷宮都市に来るか、それともこちらで一泊するかになりそうだね。にしても意外と早い間隔で開かれるんだな。もっと一月かかりますとか、そういう感じかと思っていたよ。
さあて、もうお昼も過ぎて、そろそろ夕方になろうとしているけどさ、どうしようかな。ホント、城から冒険者ギルドまでが遠すぎるんだよな。
今日はもう自宅に帰ってもいいけどさ、さすがに、何も成果無しで戻るのは、ねぇ。
ちょっと外の荒野を探索して、日が落ちたらそのまま《転移》で帰るって感じかな。
じゃあ、サクサクッと迷宮都市の外に出ますかね。
――[ハイスピード]――
風の衣を纏い、都市の入り口まで走る。橋を渡って――すれ違った人々が驚いたようにこちらを見ているな。まぁ、風を纏った謎の存在が高速で目の前を過ぎったらびっくりするか――門に到着する。
『通りたいのだが』
門を守っている衛兵さんに天啓を飛ばして挨拶をする。
「う、ああ、姫さまと居た魔獣か。通れ、通れ」
衛兵さんは億劫そうに手を振って許可をしてくれる。
じゃ、遠慮無く通りますかね。
壁を抜けて迷宮都市の外へ。いやあ、これ、冒険者ギルドから都市の外に出るのも距離があるし、クエストを受けてからすぐに取りかかることが出来ないじゃん。まずは都市の外に出て一泊とか、そういう感じなの? 何だろう、もしかして、クエストって、何日かかけて攻略するものなのか?
―2―
荒野を北へと走る。
西側に砂漠を見ながら北上していく。羊角のお姉さんが言っていた通りに北上しないとね、とりあえず小迷宮『異界の呼び声』が見たいからね。
しばらく荒野を駆けていると、遠くに巨大な牙を持った、余り毛深くない猪が歩いていた。うお、もしかして、あれがウェイストズース?
せっかくだから、ちょっと、倒しちゃおうかな?
と、俺が考えながら見ているとウェイストズースに火の玉が飛んだ。あら? あー、他に冒険者が居たのか。
荒野に転がっている少し大きめの岩の影から、侍が駆け出る。そして、そのままウェイストズースに斬りかかる。刀がウェイストズースの皮膚に弾かれ、侍の体が、空に舞う――が、そのままくるりと態勢を整え、綺麗に着地する。
あれ? もしかして試練の迷宮で一緒に戦った侍と魔法使いのお姉さんか? そっかー、一緒にパーティを組んだのか。うん、頑張ってるんだなぁ。
侍へと突進しようとしたウェイストズースに矢が刺さる。おー、他にも仲間が居るのか。ちゃんと冒険者をやってるんだなぁ。
ま、俺は俺で頑張りますか。
頑張っている冒険者の皆々を横目に俺は北上を続ける。
しばらく歩き続けると日が落ちてきた。あー、そろそろ家に帰らないと駄目か。うーん、結局、戦えずかぁ。
と、俺がそんな風に考えていた矢先に、視界の端の遠くに魔獣と書かれた線が見えた。お、なんだろう、なんだろう。
――[ハイスピード]――
風の衣を纏い、魔獣と書かれた線の元へと走る。
そこに居たのは先程見かけたよりも一回り大きなウェイストズースだった。おー、親分かな、ここら辺の親分かな? 生えている大きな牙も途中から折れ曲がって歴戦の強者感を出しているね。
俺は周囲を見回す。うん、周囲には、他の魔獣も冒険者の姿も見えないな。よし、狩ろう。
残念ながらお前は今日の晩ご飯だぜ!
―3―
さあ、どう戦おう。なるべく素材は痛めたくないんだよなぁ。さっき侍さんの刀が弾かれていたように皮膚は硬そうだな。真紅妃なら貫けるだろうけど、うーん。その場合は正面から脳天を貫く感じか? でも、それだとさ、せっかく、向こうが気付いていないっていうアドバンテージを捨てることになるしなぁ。と言ってもアイスストームなどの魔法は論外だよな。ずたずたにしちゃうもん。
さあ、どうしよう。
よし、決めた!
ウェイストズースに気付かれないように背後からゆっくりと近づく。
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
アイスウォールを使いウェイストズースを三角形の形に囲む。突然、氷の壁に囲まれたウェイストズースが暴れる。
俺は真紅妃を強く握る。行くぜ!
――《飛翔撃》――
真紅妃とともに空高く舞い上がり、その勢いのまま、ウェイストズースへ――真紅妃がウェイストズースの眉間を貫く。そのまま真紅妃を捻りねじ込む。暴れるウェイストズースの頭から、刺した反動とともに真紅妃を引き抜き、後ろへ跳ぶ。そこで氷の壁に当たる。あ、しまった氷で囲んでいたんだった。《飛翔撃》のスキルって攻防一体というか、攻撃後、必ず離脱動作が入るのがネックだよなぁ。
俺は氷の壁にぶち当たり、ウェイストズースの頭の上に飛ばされる。いや、これは逆にチャンスか!
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃が赤と紫の螺旋を描きウェイストズースの脳天を削り抜く。ウェイストズースは大きく口を開け、そのまま動きを止めた。
うん、あっさり勝てた。まぁ、EランクやFランクの冒険者が頑張って戦う魔獣ってコトだからなぁ。こんなものかな。
ウェイストズースが倒れると同時に周囲の氷の壁が光の粉となって砕け散った。
さ、晩ご飯ゲットです。
大きなウェイストズースの死体を魔法のウェストポーチXLに入れる。
普段ならもう少し頑張るんだけど、晩ご飯も手に入ったし、今日はもう帰るかな。と、ここまで歩いてきたし、とりあえず転移のチェックを入れておくか。えーっと、何番がいいかなぁ。とりあえずチェック5に入れておくか。
――《転移チェック5》――
じゃ、戦利品も手に入ったし、今日は帰りますか!
――《転移》――