5-71 迷宮の案内
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受け付けカウンターへと歩いて行く。途中、壁に掛かっているクエストの札を見る。おー、ここは紙なんだね。紙を帝都から輸入しているのかな?
歩きながら、ちらちらと内容を見てみる。何々、デザートイーターの討伐、ウェイストズースの討伐、ブラックトレントの討伐、異形の石の納品、まだまだ沢山のクエストが……うん、色々あるなぁ。ウェイストズースって、あの食堂で焼いていたお肉だよな。是非、倒したいなぁ。お、よく見れば異形の石の納品ってクエスト、GPが1080も貰える。って、Cランク、しかも6人推奨か。結構、難しいクエストなんだろうな。
「こちらです」
羊角のお姉さんが並んでいる受け付けカウンターの一つに案内してくれた。そして、羊角のお姉さんがカウンターの裏に回り、こちらに手を振る。
「はい、ではランさまはクエストをご希望ですね」
えーっと、あのー、あなたが対応してくれるんですか。何だろう、このモヤッとした気持ち……。
羊角のお姉さんは受け付けカウンターの下から、何かの台帳を取り出し、ぱらぱらと捲る。
「ランさまには、このクエストなど如何でしょうか?」
えーっと、何々。
Eランク
特殊クエスト(清掃)
下水道の清掃
下水道に生息する魔獣の討伐と異物の除去。
クエスト保証金:無し
報酬:81,920円(小金貨2枚)
獲得GP:40
う、うーん。凄い、微妙です。というか、この迷宮都市って下水道があったんだね。
「一日拘束されますが、下水道はネズミ系の魔獣が多く、危険度もそれほど高くありません。特にランさまはお一人の様子なので、このクエストなら一人でも何とかなるかと思います」
な、なるほど。俺が1人だから、難易度の低いクエストを紹介してくれたのか。いや、でもねぇ。
『そこの壁に貼ってある異形の石の納品というクエストだが、内容を聞いてもいいだろうか?』
「え? あ、あれですか?」
羊角のお姉さんがまた台帳をぱらぱらと捲る。
「これですね」
Cランク
限定クエスト(納品)
異形の石の納品
小迷宮『異界の呼び声』に生息するアストラルデーモンが稀に落とす異形の石を納品してください。
Cランク冒険者6人以上が推奨
クエスト保証金:無し
報酬:1,966,080円(金貨6枚)
獲得GP:1,080
「これは……、お一人のランさまには厳しいと思われます」
まぁ、Cランクが6人ってことだもんな。196万円が手に入るのは美味しいけどさ、もし6人なら割る6だもんな。となると1人あたり金貨1枚か。うわ、そう考えると微妙じゃないか? 命懸けで戦って、しかも稀に落とす、だろ? 割に合ってない気がする。なんというか、ホント、冒険者ってキツい職業だなぁ。
『このクエストは異形の石を手に入れてから受注しても達成になるのだろうか?』
「ええ、それは大丈夫です。その為にクエスト保証金は無しになっています。でも、これを受けるのは難しいと思います」
ふむ。まぁ、手に入ってから受けてもいいってコトだからね、その時はすぐに完了させよう。
『ちなみに小迷宮『異界の呼び声』の場所を聞いても良いだろうか?』
俺の天啓に羊角のお姉さんは、ちょっと困ったような、そんな笑顔を作りながらも教えてくれた。
「この迷宮都市から北に半日ほど歩いた所にあります。砂漠との切れ目になっているので迷うことはないと思います。中は悪魔系の魔獣が中心の危険な小迷宮になっています」
悪魔系ねぇ。悪魔って名前なのに、扱いは魔獣なんだな。この世界の悪魔って呼ばれる存在はどんな感じなんだろうな。
と、後は……。
『ウェイストズースの討伐クエストを受けたいのだが』
お肉を、お肉をゲットしたいんだ!
「うーん。ウェイストズースですか?」
そそ、その壁にも貼ってあるから募集しているよね。
「ランさまはDランク冒険者ですので、正直、余りオススメしません」
むむ?
「EランクやFランクの冒険者が8人のパーティを組んで頑張って狩るようなクエストなんです。それを上位の冒険者が行うのは……」
な、なるほど。余り褒められた行為じゃないと。でもさ、そうなるとランクが上がった冒険者は難しいクエストばかりやらされることにならない? そんなのいつか死んじゃうよ。
「ランさまはお一人ですし、乱獲はされないと思いますが……」
羊角のお姉さんは言葉を濁す。そっかー。そうなるとやはりクエストは受けない方がいいか。
ま、仕方ない、たまたま、偶然出会ってしまったウェイストズースとたまたま戦闘になってしまって、仕方なく倒すしかないね。これは仕方ない、うん、仕方ない。クエストとして受けてないから報酬やGPは貰えないけど、構わないか。それによく考えたらさ、クエストを受けるってことは、手に入ったお肉がギルドに取られるってコトだもんな。俺は自分で食べたいんだから、それは困るか。
「どうします。受けられますか?」
『わかった、今回は遠慮しておこう。色々、見せて貰ったが今回はクエストを受けないことにする。時間を取らせた、すまぬ』
「いえ、こちらこそ、ランさまの気に入るようなクエストが用意できず、申し訳ありません」
羊角のお姉さんが申し訳なさそうに謝ってくる。う、うーん。結局、冒険者ギルドに来たのに何もクエストを受けずに終わりか。
まぁ、この周辺で適当に戦ってみて、戦えるようなら、その該当する魔獣のクエストを受けるって感じにするかな。受けたはいいが、勝てない、じゃあ、困るもんね。
『最後に、この近辺の小迷宮などの情報を聞いても良いかな?』
俺の天啓に羊角のお姉さんが頷く。
「まずは、この迷宮都市の中にある八大迷宮の一つ『名も無き王の墳墓』、そして小迷宮『試練の迷宮』と『下水道』です」
あ、下水道も小迷宮扱いなんだ。
「そして、砂漠に八大迷宮の一つ『二つの塔』、荒野に小迷宮『子鬼の宴』、神国との境にある小迷宮『刹那の断崖』――これらが有名な所ですね」
へ? 八大迷宮ってもう一個あるの? ここにあるのは『名も無き王の墳墓』だけだと思ったんだけど、そうか、もう一つあるのか。それなら、先にそちらを攻略してもいいかな。
『八大迷宮『二つの塔』は『名も無き王の墳墓』のようなランクの制限はあるのだろうか?』
俺の天啓に羊角のお姉さんが肩をすくめ首を横に振る。
「ありません。ですが、この迷宮は蜃気楼のように消え、なかなか辿り着けないと聞きます。それが未だに攻略されていない理由です」
むう。そんなオチがあったか。ま、それなら仕方ない。偶然見つかったら《転移》のチェックをしておくかな、って感じだね。
『わかった。かたじけない』
俺は羊角のお姉さんにお礼を言い、冒険者ギルドを出ることにする。
うーむ。GPを稼ぎたいのに、結局、何もクエストを受けないとか、もうね。ま、迷宮都市の外に出て、適当に歩いてウェイストズースを倒して、小迷宮『異界の呼び声』を覗いてみますかね。
で、倒せそうな魔獣が居たら、後日、クエストを受けて再度倒すって感じで行きますか!