5-68 煽られた?
―1―
「こっちなのじゃ」
姫さまの案内で城の中を歩いて行く。天井も高いし、白い石造りで結構神秘的なお城だよね。と、そう言えば、なんでこの城に冒険者が居たんだろう。Aランクともなると城に呼ばれる的な、そんな感じなんだろうか。
『ところで先程の冒険者たちは何故城に?』
姫さまが足を止め、こちらに振り返る。
「なんじゃ、ランは知らぬのじゃな」
そして、そのまま後ろ歩きを始める。いやいや、後ろ歩きは危ないからね、転けないように気をつけてね。
「この城の地下に八大迷宮『名も無き王の墳墓』があるのじゃ。だから、優れた冒険者がこの城に集まるのじゃ」
へ? ここ? ここかよ!
「そうじゃ、ここなのじゃ! この城の地下に全10層からなる巨大な迷宮があるのじゃ」
姫さまが腰に手を当て、上体を反らしながら教えてくれる。いや、そのまま後ろ歩きしていると本当に転けちゃうよ。
「未だ攻略者の居ない迷宮なのじゃ」
そうか、攻略者が居ないのか。いや、ならさ、何で攻略者が居ないのに全10層って分かってるんだ? どういうこと?
「最後に待ち受けている魔獣が強すぎるそうなのじゃ」
なるほど、だから、最後って分かってるのか。いや、それで分かるのか?
「その魔獣には1人で立ち向かう必要があるようなのじゃ。それが攻略者の居ない理由じゃな!」
なるほど。ソロ必須と。ぼっち優遇ダンジョンってコトだな! まさに俺向きだな! ……ははは。
『姫さまは物知りだな』
「そうなのじゃ!」
姫さまはさらに大きく仰け反り、そのまま後ろに倒れた。ちょ!
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、後ろに倒れ込もうとしている姫さまを支える。ホント、この子、何しているの。
「お、おおう、ラン、助かったのじゃ!」
にしても城の地下に巨大な迷宮か。いや、巨大な迷宮の上に城が建ったというべきか。迷宮に集まる人たちが城を造ったのかなぁ。
―2―
「ラン、この部屋じゃ」
姫さまに案内された部屋に入る。結構、広いなぁ。
その広い室内の中央でジョアンが赤騎士と戦っていた。
赤騎士の大きな剣による縦切りを盾で受け流し、そのまま盾で押さえ込もうとする。それを赤騎士が肩から当たり、跳ね返す。
「体格差を考えろ!」
そのまま赤騎士が大剣を横になぎ払う。ジョアンがそれを大きく仰け反り、なんとか回避する。しかし、そこを赤騎士に蹴られ、そのまま尻餅をつく。
「俺の勝ちだな」
ジョアンの首に赤騎士の大剣が触れる。あちゃー、ジョアン、負けてるじゃん。
「ジョアンは頑張ってるのじゃ。これで勝率は赤に1勝ち越し、青に2負けなのじゃ」
あ、今回はたまたま負けたのか。
「も、もう一度!」
ジョアンが再度、戦いを挑む。って、ここは城の訓練所か何かなのかな? よく見てみれば、遠くの方に冒険者の姿も見えるな。『名も無き王の墳墓』に挑戦する冒険者が訓練しているのかな。
「ラン、他の冒険者が気になるのじゃな!」
まあね。名も無き王の墳墓に挑戦出来て羨ましいなって意味だけど、ね!
「わらわはランの方が凄いと思うのじゃがな……」
いやあ、姫さま、おだてても何も出ませんよ。出ませんったら、出ませんよ。
「この城の中には冒険者向けの宿も上級冒険者限定の冒険者ギルドも、全て完備されてるのじゃ」
へ、へぇ。って、それならさ、俺、姫さまたちと分かれずに城に向かった方が良かったんじゃ……。
……。
か、考えたら負けですよねー。
と、そうだ、俺は俺の用件を……うん、それを忘れたら駄目だよね。
ジョアンに盾を渡そうと赤騎士とジョアンの戦いを見守る。
見守る。
……見守る。
えーっと、まだ時間かかりそう?
うーん、戦いを見ているとジョアンは今使っている盾が合ってない感じがするなぁ。やはり、あの宝櫃の盾がしっくり来ていた気がするな。今の盾、使い慣れてない感じだもん。あ、そうだ!
『ジョアン、新しい盾だ。使え!』
俺は魔法のウェストポーチXLから王者の盾を取り出し、ジョアンへと投げ渡す。
「な、ら、ラン! 何時から?」
ジョアンが驚きながらも王者の盾を受け取る。そして、わたわたとしながらも盾を装備する。
「これは……?」
『ジョアン、お前の為に造った王者の盾だ。お前の祖父の剣聖から許可をもらって、剣聖の剣を加工したモノだ』
「お、おじいちゃんの?」
赤騎士さんが剣を地面に立てて話が終わるのを待ってくれている。あ、戦い中にすいません。
『その盾はアイスストームの魔法を使えるが、消費MPは40だ。いざという時以外は使うな』
俺の天啓にジョアンが嬉しそうに頷く。さ、これで王者の盾も渡せたし、説明も出来た。俺の用件は終わったな。
「話は終わったな、いくぜ!」
そう言うが早いか赤騎士がジョアンへと斬りかかる。ジョアンが王者の盾で赤騎士の大剣を防ぐ。お、しっかり攻撃を受け止めているな。
―3―
今回の勝負はジョアンの勝ちか。
「ら、ラン、ありがとう! 使い込んで慣らす!」
ジョアンが王者の盾を振り回している。ま、ジョアンの祖父の剣が、盾となって孫の元に戻っただけだからね。
『アイスストームの魔法は、広く誰も居ない場所で試してみるといい。ちなみにMPの方は大丈夫か?』
俺の天啓にジョアンが頷く。そうか、最大MPは40以上あるか。ま、聖騎士って上級職だからね、なんとなくイメージ的にもMPが多そうだもんな。良かった、良かった。これで使えないってなったら、せっかくの魔法が勿体ないもんな。
「おう、ラン、少しぶりだな! で、俺の土産は?」
赤騎士のスーさんが馴れ馴れしく俺の肩部分を叩く。痛い、痛いって体液が出ちゃうだろ。土産なんてないってば。俺の方が土産が欲しいくらいだよ! もうね、ホント、俺の白竜輪が攻撃として感知して、反撃しても知らないからな!
「お久しぶりです」
青騎士さんもこちらへと挨拶してくる。あ、居たんですね。全然、気付きませんでした。
「で、今日はどうしたんだ?」
スーさんが馴れ馴れしいです。
「ランはジョアンの為に盾を持ってきたのじゃ!」
姫さまが腰に手を当て大きく上体を反らし喋る。いや、だから、またさっきみたいに倒れちゃいますよ。
「そうなのか。小僧、大事にされてるんだな」
ま、俺のメイン盾だったからな。これくらいは、な。さ、これで用件も終わったし、帰りますかね。俺は黙々と冒険者ギルドでクエストを達成してランクを上げないと――はやくCランクに上がって、ここにある『名も無き王の墳墓』に挑戦出来るようにならないと駄目だからね!
「お、帰るのか? ランは戦っていかないのか?」
うーん、俺は戦闘狂じゃないしね。別に戦うことでしかわかり合えない系を否定するつもりはないけどさ、戦う必要がない時は好んでまで戦う気にはならないのさー。
「スーとカーではランの相手にならないと思うのじゃー」
姫さまニヤニヤと笑いながら、そんなことを言う。いや、姫さま、俺を買ってくれるのは嬉しいけど、さすがにそれは……。
「姫さん、それは聞き捨てならないぜ」
「そうですね。それでは姫さまの護衛騎士の立場が……」
ほらほら、姫さまが煽るから、俺が戦う方向になりそうじゃん。
「姫さんが場と理由を作ろうとしているんだ、これで逃げないよな?」
赤騎士がニヤリと笑う。
あー、もう!
やってやろうじゃないか!