5-67 偉そうな奴
―1―
――[アクアポンド]――
自宅の裏に池を造る。さあて、これで水は大丈夫。今日は、今日こそは、迷宮都市に向かいましょうかね。
――《転移》――
蟹パーティーの惨状を横目に《転移》スキルを発動させる。
そして試練の迷宮の前に着地っと。さすがに今日は人が居ないね。にしても、この世界って時差とか無いのかな? 帝都と迷宮都市だとかなりの距離があるんだけどな。殆ど時差を感じないよね。でも水平線や地平線があるから、この世界は球体世界だろうし、うーん。太陽ぽく見えるモノや月にしか見えないモノが、実は謎物質とかなんだろうか。謎だ。ま、考えても分かることじゃないからね、考えても仕方ない、仕方ない。
じゃ、まずは王城に向かいますか。ということで!
――《飛翔》――
もうね、飛んで行っちゃいます。だってさ、道が迷路みたいになっていてまともに進んでいたら、いつまで経っても到着出来ないからね、仕方ないね。
《飛翔》スキルで空を飛んでよく分かったけど、ここ、本当に迷路みたいだ。これは飛んで良かったな。普通に歩いていたら何日もかかっただろうね。
城に到着っと。さすがは《飛翔》スキル、一瞬だぜ。城の外壁の中には大きな中庭があるな。木々や背の低い茂みもあるし、こちらでもガーデニングが流行っているのか。にしても荒野の中にある城でガーデニングか、贅沢だなぁ。
城の中庭辺りに降りようと進んだ所で自分のお腹の辺りに赤い点が灯った。危険感知スキル? ヤバイ!
俺が空中で体を捻るのと同時に足部分の近くに矢が刺さる。な、狙撃された? そこで《飛翔》スキルの効果が切れる。
落ちていく。俺の体が城の中庭へと落ちていく。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使って地面への激突を避ける。そのままサイドアーム・ナラカで足と足部分の節に貫通している矢を引き抜く。ぐちゃりと体液が飛び散るが気にしない。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らし矢傷を治し、周囲を見回す。城の中庭に落下したけど、どこから狙撃してきた? いや、このままここに居ては不味いな。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし近くの茂みへと飛ぶ。落下地点には俺の体液が残っているけどさ、これで相手からは見つからないはずだ。
俺が茂みに隠れてしばらく待っていると、城の方から2人の男がやって来た。うん? 冒険者か? 衛兵って感じじゃないな。衛兵だったら不法侵入をどう謝ろうかと思ったけど、そういう感じじゃないな。
「素早く空飛ぶ魔獣が見えたんだって、俺の矢が命中したはずだって!」
「そんなことで俺を呼び出すな」
あいつが俺を射たのか。た、確かに不法侵入したけどさ、いきなり撃ってくるって酷くないか?
「見ろよ、ここに体液が落ちてるぜ。ほら見ろ、ほら見ろよ」
弓を持った男の言葉に2本の長剣を腰に下げた長髪の男が頭を掻きながら欠伸をしている。
「うるせぇ、雑魚魔獣程度、お前が1人でやれ。お前は俺を誰だと思っている」
長髪の男の言葉に弓を持った男が肩をすくめる。
「Aランク冒険者の紫炎のバーン様です」
「そうだ。紫炎の魔女が持っていた紫炎の二つ名も、今では俺の物だ! お前は、魔獣程度の騒動で、そんな俺を呼び出すのか?」
「はいはい、そうですね」
「お前は俺に対しての敬意が足りない」
何だ、何だ? 冒険者か? Aランク? トップクラスの冒険者ってコトか? 斧大好きなアクスフィーバーのクランマスターのアーラさんもAランクだったよな。にしてもAランクかぁ。だから、偉そうなのか。まぁ、でも冒険者って分かったのはラッキーだね。冒険者なら事情を説明すれば分かってくれそうだ。
『すまない、撃たないで貰えないだろうか。自分は冒険者だ』
俺は天啓を飛ばし、ステータスプレート(金)を見えるように掲げながら茂みから姿を出す。
「な、そんな所に」
「いや、俺は気付いていた」
いや、紫炎のバーンさんよ、絶対に気付いてなかったよな。見当違いの方向見ていたよな。
『空から侵入したのは謝ろう。道が分からなかったのだ』
俺の姿を見て長髪の冒険者がニヤリと笑う。
「魔獣が冒険者? 魔獣モドキが面白いことを言う」
長髪が2本の長剣を構える。真銀製のロングソードか? もう1本は何だろう、紫の炎を纏った長剣だな。
「おいおい、バーン、ここでは不味い。そいつ、一応、冒険者なんだろ?」
「紫炎のバーンだ。こいつが、こんななりで冒険者? なら先輩が後輩に礼儀を教えてやるだけだ」
ちょ、こいつ何なの? こいつも戦闘狂か?
長髪が2本の長剣を地面に滑らせるように持ち、こちらへと駆けてくる。
サイドアーム・ナラカに真銀の槍をサイドアーム・アマラに真紅妃を持たせる。
――[アイスウェポン]――
真銀の槍が氷を纏う。こちらへとクロスするように赤い線が走る。俺は赤い線を防ぐように氷に覆われた真銀の槍と真紅妃を振るう。
――《Wウェポンブレイク》――
真銀の槍で紫に燃える長剣を真紅妃で真銀の剣を受け止める。
「おい、こいつ俺の攻撃を受け止めたぞ。大人しく死んでろ!」
長髪の男から、こちらへと蹴りが飛んでくる。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、蹴りを放とうとした足を縛る。
「こいつ! おい、レーン手伝え!」
もう1人の男がやれやれって感じで大きな弓を構える。あー、もう、なんでこうなった。
「おい、魔獣モドキ。お前は俺を本気にさせたようだな!」
目の前の長髪の男が持っている2本の長剣に力を入れ、こちらを押し潰そうとしてくる。あー、もう、そんなに力を入れられるとサイドアームが消えちゃうだろ。ああ、面倒だ。魔法で一気にやっちゃう? やっちゃう?
「何じゃ、何なのじゃ!」
俺がそんなことを考えていると、城の方から見たことのある姿が現れた。姫さまじゃん!
そして現れた姫さまはこちらを見て、驚き、すぐに戦いを止めに入った。
「やめるのじゃ!」
「おいおい、姫、俺は、俺たちはこの魔獣モドキの低級冒険者に礼儀を教えているだけだぜ」
いきなり襲いかかってきたくせによく言う。
「ランはわらわの友人なのじゃ! 止めるのじゃ!」
姫さまの言葉に長髪の男が口笛を吹く。
「こいつが、姫の友人! 笑えない冗談だ。それとな、姫、ここはお前の国じゃねえんだ、余り俺に、偉そうにするな」
長髪の男がこちらを見る。
「魔獣モドキ、命拾いしたな!」
何かの魔法を使ったのか、長髪の男が俺の魔法糸を燃やしきる。そして長髪の男は捨て台詞を残して去って行った。もう、何なんだ。
姫さまは長髪の男が完全に立ち去るまで、その方向を睨み付け、そして大きなため息を吐いた。
「ラン、どうしたのじゃ?」
『この城に空から飛んで入ってきたら襲撃されたのだ』
「むぅ。酷いのじゃ。わらわは、あの者は嫌いなのじゃ」
ああ、俺もちょっと嫌いだ。Aランク冒険者らしいけど、あんなのがAランクでいいのか?
「ランは城に何の用件で来たのじゃ?」
姫さまがこちらへ心配そうな顔のまま話しかけてくる。
『ジョアンに渡すモノがあってな』
「なるほどなのじゃ。ならばわらわが城を案内するのじゃ!」
はぁ、いきなり戦闘になるからびっくりしたけど、これでなんとかなりそうだ。