5-63 他の冒険者
―1―
長い説明が終わった。
えーっと、とりあえず受付でクエストが受けられるよ。ボードに貼り付けてあるクエストは先着だよ、でも難しそうなのは選ばないでね。換金素材は外から持ってきた大きな物は門の外でも受付できるよ、小さい物は窓口でお願いします。って感じか。うん、いつもの冒険者ギルドだ。
何かクエストを受けてもいいけど、うーん。まぁ、今日は疲れたし、ちょっと街中を見て我が家に帰りますかね。他の《転移》チェック場所を探さないと駄目だからね。今のままだと試練の迷宮が開かれた時は、目立ちすぎて《転移》で迷宮都市に戻ることが出来ないからなぁ。
と言うことで、迷宮都市でもクエストの受注が、冒険者ギルドが利用出来るようになったのだった。ま、それはそれとして、迷宮都市の探索だね。
俺が冒険者ギルドを出たところで冒険者のパーティとすれ違った。
「うが、ごはんがあるいている」
「おい、そんなことはいいから早く冒険者ギルドに入るぞ」
「リーダーの言うとおりネ」
装飾の施された目立つ長剣と紫色の豪華な鎧に腰までのマントを羽織った赤毛の青年、魔法使いの女性、青い皮鎧を着てダガーをクルクルと回している盗賊風のちびっ子、法衣を纏った寡黙そうなおっさん、棍棒を担いだ巨人、巨大な弓を担いでいる森人族の男性の6人パーティだ。うん、割と強そう。
棍棒を持った巨人が大きな鶏みたいな死体を引っ張ってる。何だろう、何かの魔獣かな?
うーん、騎士、魔法使い、探求士、治癒術士、戦士、狩人って感じかなぁ。バランスが良さそうだよね。騎士ぽい赤毛がリーダーかな。
ま、こういうちゃんとしたパーティって初めて見たかもしれない。さすがは迷宮都市って感じか。ま、でも俺とは関係無いな。
さ、今日も探索、探索。
魔法のリュックからお弁当を取り出す。今日は何かなー。今日は、お肉をタレに漬けて煮た物をトウモロコシパンで挟んだサンドイッチぽいモノです。うーん、これをサンドイッチって言ってもいいのか迷うなぁ。サンドイッチなら野菜が欲しいもんね。
もしゃもしゃ。
甘辛いタレの風味がぴりっとして美味しいね。
もしゃもしゃ。
お弁当があるから、今日はご飯を食べる所巡りはいいかな。とりあえず《転移》チェックが出来そうな場所を探すってことで、さ、行きますか!
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い我が家に戻る。はぁ、結局、《転移》のチェックが出来そうな場所、見つからなかったなぁ……。
って、あれ?
真紅妃が整地した墓地跡に建物が作られようとしているぞ。おいおい、このままだと、こっちでも《転移》のチェックの場所を変えないと駄目じゃないか。何を建てているんだ? 俺、何も聞いてないんだけど……。
とりあえず、《転移》チェックの場所をもう少し外れの位置に変えておくか……はぁ。
――《転移チェック1》――
これで、よしっと。もういっそ、開き直ってがんがん《転移》で飛び回ろうかなぁ。目立たないようにって頑張ってきたけど、今更、目立った所で俺の力を利用! みたいな感じにはならないでしょ、うん、多分、大丈夫……だよね。
《転移》のチェックを終え、自宅へと戻る。あー、もう日が落ちそうだよ。
「マスター、お帰りなさいませ」
はいはい、14型、ただいま。
「マスター、ユエがマスターを待っていたようです」
ふむ、多分、今作っている建物のコトだよね。
『分かった。食事をしながら聞くから、食堂へ頼む』
「了解しました、マスター」
その言葉とともに14型の姿が消える。いや、だから、それ、どうやっているんだよ!
食堂に入ると新人君がテーブルを拭いていた。
「あ、えーっと、オーナーさん、お、奥、空いてます」
何だろう、ちょっと声が震えている。もしかして恐れられているのかな。俺、そんな怖くないと思うんだけどなぁ。まぁ、でもさ、会社とかで、偶然、新人が会社の社長に会ったら、こんな感じになるか。うん、仕方ないよな。と、俺はご飯、ご飯っと。
俺は専用の椅子に座る。
「今日はスープ系だよ」
ポンさんが俺の前に料理を並べてくれる。あ、そうだ。
『ポン殿、パンに挟むのは肉だけではなく、野菜も欲しい』
野菜が足りないよね!
「なるほど、そうだな。帝都は野菜が高いからよ、ま、ちょっと工夫してみるよ」
あー、そうか。帝都だと野菜が高いのか。食材の問題、何とか出来るなら、やっぱり解決したいなぁ。だってさ、美味しい物食べたいもん。明日は、ちょっと迷宮都市の前に寄り道するかな。
「ラン様ー!」
ユエが、こちらへばたばたと駆けてくる。あのー、俺、食事中なんで、埃が舞うようなことは勘弁してくれますかね。
「お話していた換金所の作成に入りました。それとご紹介したい人が……」
うん? あれ? 俺、換金所の作成の話なんて聞いていたかな? 覚えがない。って、今、作っている建物は換金所なのか。ま、まぁ、かなり大きな建物だったもんな。
そしてユエの後を追うように、静かに、優雅に、1人の森人族の若者が歩いてくる。
「お初にお目にかかります。クニエ・モス・モクロウです」
『ああ、自分はランだ』
モクロウの里の森人族なのかな?
「今回、このラン様の換金所で働かせて貰えると言うことで……」
ん? あー、そうか、換金所の従業員か!
「昔、冒険者をやっていた時に得た狩人のクラスが解体作業で活躍すると思います」
解体も任せられるなんて優秀じゃん。ってことは、魔獣の素材は自宅に持ち込んだ方がいいのか! 自宅に持ち込む? 何だか変な言い回しだな。いや、まぁ、そんなことはどうでもいいけど、これって、かなり便利になるよな。
いやあ、我が家もどんどん進化していくなぁ。って、これ、もう俺の家じゃないよね……。