5-61 決戦の舞台
―1―
階段を降りていく。
「これで最後よね?」
「最後なら、わし頑張る」
えーっと、はい。頑張ってください。
階段を降りていくと広い場所に出た。天井は結構、高い。中央に大きな舞台があり、その周囲は大きな穴になっている。落ちたら死にそうだな。で、中央の舞台へと続く吊り橋があるね。
まぁ、普通にサクサク進みますか。で、舞台の中央には斧を持った牛頭が居る、と。アレ、ミノタウロスとかかなぁ
「あれがこの迷宮のボスって感じね」
魔法使いのお姉さんが杖を肩に乗せ口笛でも吹きそうな陽気な声で喋る。うん、だろうね。
じゃ、倒しに向かいますか。
3人で吊り橋を渡っていく。ちょっとぐらぐら揺れて怖い。落ちたら死にそうだもんなぁ。まぁ、俺は《浮遊》に《飛翔》があるから、大丈夫だけどね。
と、考えているそばから魔法使いのお姉さんが足を滑らせた。へ、おい。
底が見えないほど深い穴に落ちていく魔法使いのお姉さん。
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、魔法使いのお姉さんの足に結びつける。
「ちょ、ちょっと絶対落とさないでよね」
魔法使いのお姉さんがローブの裾を押さえ宙づりになる。お、重い。俺ってば、非力だから、これは辛い。
『重い……』
「重くない!」
すぐに下から返事が……あ、はい。すいません。
「わしが!」
侍さんが俺の《魔法糸》を掴み、糸に絡みつかれながらも魔法使いのお姉さんを引き上げていく。あー、今のままだと粘着力があるからね、ごめんね。
なんとか魔法使いのお姉さんを引き上げた。魔法使いのお姉さんは揺れる吊り橋の上に四つん這いになり、肩で息をしている。
「ぜはぁ、死ぬかと思ったわ」
ホント、気をつけてくださいね。ま、落ちたら何処に行くかは興味があるけどね。
魔法使いのお姉さんが落ち着くのを待ち、吊り橋を渡っていく。
「ちょっと、ゆっくり歩いてよね」
ゆっくり歩いてますよ。またお姉さんが落ちたら危険だからね。しかしまぁ、決戦の舞台に上がる前に死にかける人が出るとは思わなかったよ。
―2―
決戦の舞台ではミノタウロスが斧を振り回していた。おー、こちらを威嚇しているのかな。
俺たち3人が吊り橋を渡り終えた所を見計らったように、ミノタウロスが斧を振り上げこちらへと駆けてきた。
「え?」
その動きに魔法使いのお姉さんは対応出来ていない。
「わしが!」
侍さんが両手でシャムシールを持ち、ミノタウロスへと駆ける。それを見て、ミノタウロスが足を止める。そして、突進してきた侍さんに斧を振り下ろす。おー、結構早いね。と言っても斧のサイズはブラックプリズムが持っていた物と比べたら、かなり小さいし、動きも鈍い。レベルが全然違うよね。
侍さんが斧の振り下ろしをなんとか回避――しきれず、左腕を浅く斬り裂かれる。しかし、そのまま駆け抜け、ミノタウロスの足を斬り付ける。
「く、こやつ早い。それに硬い! わしの刀があれば!」
ミノタウロスが侍さんに向き直り、再度、斧を振りかぶる。
「私が命じる、全てを燃やす紫の火よ、鋭い針となって敵を穿て、ファイアニードル!」
魔法使いのお姉さんが呪文を詠唱し、火の矢を飛ばす。
ミノタウロスの振り下ろしを、侍さんが後方へと大きく飛び、何とか回避する。そして、そこに火の矢が突き刺さる。
「やった!」
が、そこまで効いてないようだった。
ミノタウロスが怒りの形相で魔法使いのお姉さんへと振り返る。
「おぬしの敵はこっちだ!」
侍さんが大きな声を上げ、ミノタウロスの注意を再度、自分へと向ける。おー、連携プレイだね。そういえば、最初に受付のお姉さんは共闘有りって言ってたけどさ。これ、どう考えても共闘を強制されているよね。今の段階でパーティプレイを学べって感じなのかなぁ。もとからパーティを組んでいる人たちはいいだろうけどさ、ソロでここまでやって来た人もいるだろうから、こういう機会があれば、今後もパーティを組みやすくなるだろうしね。
「とっておきの魔法を放つわ! 注意を引きつけて!」
「了解した!」
と、そこへミノタウロスが肩を上げ、侍さんへ突進する。侍さんは躱しきれず、そのまま突進を喰らい吹っ飛ぶ。うお、キツそう。
「私が命じる、全てを燃やす紫の炎よ……」
魔法使いのお姉さんは一生懸命、杖に呪文を唱えている。ま、呪文って余り長いのは無さそうだから、詠唱時間を稼ぐ、みたいな必要は無いのが救いか。でも、攻撃魔法を当てるタイミングってのはあるよね。沢山のMPを消費して回避されたらたまったもんじゃないからね。
侍さんが空中で態勢を立て直し、舞台の上を、足を滑らせて止まる。このまま吹き飛ばされて落とされたら洒落にならないもんな。
「まだまだよ!」
侍さんがシャムシールを上段に構える。うわ、一撃で立っているのもやっとって感じじゃないか。だ、大丈夫か?
ミノタウロスが再度、斧を構え、上から下へと振り下ろす。侍さんはふらつきながらも、なんとか回避しようとするが、速度が足りない!
――《魔法糸》――
魔法糸をミノタウロスの腕へと飛ばし、斧の軌道を変える。
「ナイスだ!」
侍さんがニヤリと笑い、シャムシールを振るう。シャムシールがミノタウロスの腕に深く斬り刺さる。
「今よ、離れて! ファイアーボール!」
魔法使いのお姉さんから生まれた火の玉がミノタウロスに炸裂する。おー、これ、見たことがあるぞ。火の中級魔法だよね。フウキョウの里を襲撃したレッドカノンが使っていたな。実際に喰らったことがあるから分かるけど、結構、痛い魔法だよね。
しかし、ミノタウロスはまだ生きていた。結構、丈夫だね。さあ、どうしよう。魔法使いのお姉さんはさっきのファイアーボールでMPを使い切ったのか座り込んでいる。侍さんも武器はミノタウロスに刺さったままの無手、しかも傷だらけ……これはやばいね。
ミノタウロスが大地を揺るがすような大きな咆哮を上げる。
これは、そろそろ俺の出番か?
「まだだ!」
侍さんを中心に光が走る。おー、陣だ。これは隼陣かな。素早くなった侍さんがミノタウロスに刺さったシャムシールを蹴り上げ、受け取る。
そしてミノタウロスの斧による横凪を飛んで回避し、そのまま脳天にシャムシールを突き刺した。隼陣で素早くなってなければやばかったか。
ファイアーボールの威力が大きかったのか、ミノタウロスは、その一撃で消滅した。
あ、勝っちゃったんだ。えーっと、俺の出番……。