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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
362/999

5-58  試練の開始

―1―


 俺が見ていると、多くの冒険者が入り口で武器を預けているようだった。意外だ。みんな素直に預けるんだね。ま、俺は預けないけどね!


 俺のちょっと前で何やら受付の人と冒険者が揉め始めていた。何だ、何だ?

「あのー、刀、無いんですか。わし、刀じゃないと駄目なんです」

 さっきの侍さんが困ったようにしょぼくれた顔をしている。

「申し訳ありません。片刃の剣ならあるんですが、似たように使えませんか?」

 猫人族のお姉さんが申し訳なさそうに喋る。そして侍さんは、ギルドの職員が用意した湾曲した片刃の剣を受け取っている。シャムシールってヤツかな。

「わし、もう無理」

 侍の人は肩を落として、しょぼんとしているな。


「あの次の方の邪魔になりますので……」

「無理……」

「えーっと、その刀は預かりますね」

 侍の人はギルドの職員さんに言われるがままに刀を預けている。それでも動こうとしない。


「魔法使いの杖はそのままでもいいわよね?」

 そんな侍さんを押しのけるように魔法使いのお姉さんがギルドの職員の前に出る。

「出来れば、こちらで用意した杖に変えて欲しいです」

「あら、理由が分からないわ」

 魔法使いのお姉さんが三角帽子のツバを直し、持っている杖を肩にかける。

「こちらで用意した物の方が、この迷宮では効果があるからです」

「あら? 有利になる物を用意しているってこと?」

 猫人族のお姉さんが頷く。

「私たちも皆さんが失敗して欲しくて武器の入れ替えをお願いしているわけではないのです」

「なるほどね。その言葉を信じさせてもらうわ」

 魔法使いのお姉さんは持っていた杖をギルドの職員が用意した物に入れ替え、三角帽子を深くかぶり、迷宮の中へと消えていく。


 侍さんも無理無理と言いながらも、それでも迷宮の中に入っていく。


 じゃ、俺の番かな。

「ランさま、武器をお願いします」

 にしても、だ。

『すまない。自分の名前を知っているようだが、自分はそんなに有名なのだろうか?』

 ちょっと、聞いておきたいよね。

「え、ええ。ナハンとウドゥンの冒険者ギルドから情報が降ってきてますから――ギルド内では有名です」

 うへ。って、それ、教えてくれてもいい情報なのか?

「それで、武器の方は、何になさいますか?」

 そうだよね、今はそっちだよね。


 おー、色々あるね。


 普通の剣に、長く巨大な剣。それにランスやスピア、杖も見える。お、弓と矢もあるね。でも盾や刀、それに斧は見えないな。意外と武器が偏ってる気がする。初歩的な武器だけ揃えましたって感じなのか、それとも何か思惑があって、コレなのかな。


『自分の武器はいい』

「いや、でも、その背中の武器は……」

『これは武器に見えるが、自分の相棒だ』

 猫人族のお姉さんが頬を引きつらせている。ぴくぴくと猫髭がけいれんしているね。

「そ、そうですか」

 にしても武器を預けるとか、何か裏があるんじゃないか? 試練の迷宮を餌にして、外の冒険者から武器を巻き上げているとか……うーん、さ、さすがにギルドがそんなことはしないか。他の人たちも普通に預けているしね。

 この世界の人たちって盗むって概念が無さそうな感じなんだよな。それで油断して魔人族にやられちゃった訳だけどさ。


 ま、話はこれくらいにして試練の迷宮に入りますか。


「ご武運を」

 猫人族のお姉さんがお辞儀する。はーい、行ってきます。




―2―


 試練の迷宮に足を踏み入れる。周囲は石壁だね。まずは迷宮を歩いて進む。アレ? 先に入った人たちの姿が見えない。どうなってるんだ?


 ま、気にせず歩くか。


 そのまま石壁の迷宮を歩き続けると、突然、立ちくらみを覚えた。うん? あれ? 頭がクラクラする。


 一瞬、目眩がし、気付くと見知らぬ場所に立っていた。先程までの石壁が消え、木々に囲まれた森の中にいる。薄暗い。何だ、これ?

 ここが試練の迷宮か。ホント、謎の技術だな。


 ま、まぁ、この森を進んでいくか。


 森の開けた方向へと導かれるように進んでいくと目の前に赤い塊が現れた。何だろう、ゼリーみたいなぷよぷよとした塊だね。これ? スライムか? いやいや、スライムとか初級の冒険者が戦う相手じゃないでしょ。


 赤い塊が跳ね、こちらへと突っ込んでくる。は、早いなぁ。これ、駆け出しの冒険者だと躱すのも大変じゃないか? 赤ってコトは風の属性か。となると俺が持っている水や風の属性は相性が悪いんだよな。うーん、どうしよう。ま、何も考えずに真銀の槍で突いてみますか。ここで真紅妃を使うのは怖いからね。もし、こいつが本当にスライムみたいな体で、それに真紅妃が溶かされたらって思うと、俺の心が再起不能になっちゃうからね。


 こちらへと跳んできた赤い塊を回避し、真銀の槍で突いてみる。しかし、真銀の槍は赤い塊をすり抜ける。まるで、そこに何も存在していないかのようなすり抜け方だ。そういえば、ここの魔獣は幻影って言ってたもんな。な、なるほど。


 なら、これはどうかな?


――[アシッドウェポン]――


 真銀の槍が黄色の液体に覆われる。さあ、喰らいやがれ!


 着地した赤い塊が再度、こちらへと飛び跳ねる。俺はそれを難なく躱し、その躱し様に真銀の槍を水平に振るう。

 今度は攻撃が通り、赤い塊が真っ二つになり、そのまま消滅した。へ? 消えたぞ? ま、まぁ、エンチャントは魔法だから効くんじゃないかと考えた、その通りの効果があって良かったと思うべきか。うん、これなら武器を借りて無いが大丈夫そうだ。




―3―


 森を進んでいく。何というか、一本道だな。こっちに進んで下さいと言わんばかりに森が開けているからな。ホント、何か誘導されてる感じだ。


 森を駆けていると、またも目の前に魔獣が飛び出してくる。えーっと、次は、何が……って、ジャイアントクロウラーじゃねえかよ。うへぇ、自分と同じ姿の魔獣と戦うのは気が引けるなぁ。ま、まぁ、でも幻影だから、うん幻影だから、仕方ない。


 目の前のジャイアントクロウラーが、こちらへと糸を吐きかけてくる。俺はそれを真紅妃を回転させて弾き飛ばす。うん、攻撃を防ぐのは大丈夫だね。


 俺は飛び、一気に間合いを詰める。そして、そのまま真紅妃を目の前のジャイアントクロウラーへと捻り込む。しかし、真紅妃は目の前のジャイアントクロウラーをすり抜け、地面に刺さる。うおっとっとっと、目の前のジャイアントクロウラーに突っ込むかと思ったぜ。うーん、属性武器は通らないのか。魔法は通るが、属性武器は駄目っと。となると、ここは真紅妃よりも真銀の槍がメインになるのか。

 そこで地面に刺さった真紅妃が不満そうに震える。いや、役立たずって言ったワケじゃないからね。真紅妃の出番はここじゃないってだけだよ。

 俺は真紅妃を地面から引き抜き、サイドアーム・アマラに持たせたまま背中に回す。まぁ、でも、こいつなら魔法が通用するか。


――[ウォーターカッター]――


 俺の手から高圧縮された水が放たれ目の前のジャイアントクロウラーを真っ二つにする。真っ二つになったジャイアントクロウラーは、そのまま消滅する。また消えたか。


 魔法は普通に通じるんだな。となると、さっきの赤い塊も属性とか考えずに魔法を撃ってみても良かったかなぁ。


 森を歩き続ける。しばらく歩くとまたも魔獣が現れる。今度は木の魔獣か。トレントかな、うん、そんな感じだよな。じゃ、次は氷の魔法でやってみますか!


 トレントが口に見える洞から、トゲのように尖った無数の枝を飛ばしてくる。俺はそれを真銀の槍を回転させ、防ぐ。大車輪防御だぜ。


――[アイスランス]――


 俺の手から尖った氷の枝が生まれトレントを貫く。氷の枝に貫通されたトレントが、そのまま消滅する。これで終わり? ちょっと雑魚過ぎないか? ま、まぁ、最初だからね。3階層まであるってコトだから、最初は雑魚ばかりでも後は大変かもしれないから、うん。


 さらに進むと開けた場所に出た。


 そして、その中央には人の2倍はあろうかという巨大な熊が居た。おー、デカいな。

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