5-57 試練の迷宮
―1―
――[アクアポンド]――
今日も家の裏に池を造り、食堂へ。さあ、朝ご飯です。
今日は何だろう、うん、小麦粉を溶いて焼いた物と野菜のスープだね。
もしゃもしゃ。
俺が食事をしていると、クソ餓鬼連中がやって来た。おお、ちゃんと働いていたのか。
「チャンプー、見てくれよー」
「ラン様だよー」
「様」
「……」
クソ餓鬼連中は手に金属のスプーンを持っている。何々、どったの?
「ここにあるの俺が作ったんだぜ」
「私も」
「そうだ」
あ、そうなんだ。お前らもしっかり仕事をしているんだな。というか、フルールがちゃんと仕事を与えていることに驚きだよ。
俺はサイドアーム・ナラカに持たせたスプーンをクルクルと回し造りを確認する。
『良く出来ているじゃないか』
俺の天啓を受け、クソ餓鬼どもが胸を張っている。
「ふふん、じゃ、俺らまだ仕事があるから!」
「あるのー」
「うむ」
「ラン様、またー」
クソ餓鬼どもが食堂を出て行く。えーっと、何しに来たの? もしかして、俺に自慢をしに来たのか。暇な奴らだなぁ。
もしゃもしゃ。
でもさ、こんな普通に金属のスプーンとか置いといて盗まれないのかな。ちょっと不安だよね。
「水、助かってるよ」
と、そこで丁度いい具合にポンさんがやって来た。よし、確認してみようか。
『ポン殿、このスプーンだが……』
「おー、それよ。あの餓鬼どもが作ったんだがよ、良く出来ているだろう」
確かにね。って、そうじゃなくて。
『置いたままで盗まれないか?』
俺の天啓にポンさんが手を叩く。
「最初はよ、あったんだよ。こういう道具は所持登録がされないからよ。だけどよ、芋虫の魔獣に襲われるぞって脅したら、それ以降、盗むヤツは居なくなったよ」
へ、へぇ。一つ良いかな、その芋虫の魔獣って俺の事じゃないよね? じゃないよね? 俺、人を襲ったりしない、平和的な芋虫ですよ。
「あ、ランさん、弁当だよ」
ポンさんが俺に小さな袋を渡してくれる。おー、いつもすまないねぇ。よしよし、これでお昼の心配はなくなった――まぁ、本当は向こうのお店で食べようかなぁ、何て思っていたんだけどね。
さあ、迷宮都市に行きますか。今日は試練の迷宮に参加しないと駄目だしね!
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い迷宮都市へ。って、アレ?
落下地点に沢山の人が……ちょ、ちょ、ちょっと待て、このままだと下の人を吹き飛ばすぞ。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使いブレーキをかける。やべ、やべぇ。
俺の体が空中で止まり、足下に集まった沢山の人間が注目する中、ふよふよと漂う。うわ、これ凄い目立ってるよね、目立っちゃってるよね。
「何だ、アレは!」
皆が注目する中、ゆっくりと広場に降り立つ。えーっと、コレ、何の集まりでしょうか?
うん? 見覚えのある人が……。階段前に居るのって冒険者ギルドに居た受付の猫人族の子だよね。何だ、何だ、もしかして冒険者の集まりなのか?
確かによく見てみると武装した人々ばかりだな。剣や槍に、お、1人だけど弓の人も居るな。
「ら、ラン様、試練の迷宮に挑戦されるのは聞いてましたが、そ、そのような派手な登場の仕方は……」
猫人族のお姉さんが頬を引きつらせながらも、無理矢理笑顔を作って話しかけてくる。猫髭切れちゃいそうですね。
えーっと、もしかして、これ『試練の迷宮』の参加者? と、とりあえず謝っておこう。
『すまぬ』
俺が謝罪の天啓を飛ばすと受付のお姉さんは胸をなで下ろし、そして、周囲の冒険者を一度見回してから、話し始めた。
「初めて挑戦される方も居るようですので、これから『試練の迷宮』の説明をします」
受付のお姉さんが話を続けようとした所で、1人の若い冒険者が騒ぎ始めた。
「いいから、早く始めろよ! 俺は外で経験を積んだ冒険者だから、こんな迷宮なんて余裕なんだよ!」
あー、いるよね、こういう人。それで後で説明を聞いてないとか騒ぎ始めるんだよね。と、俺がそんなことを考えていると1人の刀を持った侍風の男が騒いだ冒険者に刀の柄を突きつけた。
「だまれ。余り、わめくと弱く見えるぞ」
ひゅー。カッコイイ。
「う、うるせぇ!」
刀の柄を突きつけられた若い冒険者は、悪態をつき、そのまま横を向いて黙り込んだ。
「そ、それでは説明を続けます。試練の迷宮は3層からなる小さな迷宮です」
3層って言われると結構大きい気がするんだけど、小さい扱いなのか。
「最後に現れる魔獣を倒せば攻略になります」
ふむふむ、分かりやすいね。
「そして、これが重要なのですが……」
受付のお姉さんが溜める。
「ここに出現する魔獣は全て幻影です。そして武器の持ち込みは基本的に止めてもらうことになります。私たちの用意した武器を使って貰います」
そこで冒険者の集団が騒がしくなる。うん? 騒いでいる連中と静かな連中が居るな。騒いでいるのは鎧に着られているような若い連中が中心かな。静かなのは、自信があるからか、それとも知っていたから、かな。
「静かにして下さい!」
「おいおい、素材は手に入るのかよ! 報酬は! 金は!」
「素材は手に入りません。報酬は迷宮都市の冒険者ギルドへの加入資格です。攻略後は、まだステータスプレートをお持ちで無い方にはステータスプレートを、冒険者のランクもFからになります」
お、Fからなんだ。俺なんてGからコツコツと頑張ったのに、ここなら一気にFからなんだ。恵まれているんだな。
「質問があればお答えします!」
猫人族のお姉さんがそう叫ぶと、それに合わせて次々と質問が飛んできた。
「共闘はありなのか?」
「はい、どうぞ、ご自由に」
冒険者たちが次々と質問をしていく。
「幻影の魔獣に攻撃が通るのか?」
「はい、その為に、こちらで武器を用意します」
「魔法は使っていいのかい?」
「はい、どうぞ。幻影も魔法なら攻撃が通ります」
「魔獣は幻影ということだが、怪我を負う可能性は?」
「ありません。が、MPに傷を負います。気絶された段階で、今回の挑戦は終了になります」
そこで、また冒険者の1人が騒ぎ出した。
「おい! そんなの不公平じゃないか! 俺なんてMPが5しかないんだぞ! そんなの魔法使い連中が有利じゃないか!」
「MPの量も冒険者をやっていく上での才能になります。ここで躓くようなら、これから冒険者をやっていくことは難しいでしょう。それと魔法使いの方々は自身のMPを使って魔法を使うのです。つまり、この迷宮では命を削るのと同じ事です。不平等ではありません」
なるほどな。にしてもMPが5って。5ってあり得るのか。みんな、そんなもんなのかなぁ?
「他に質問はありますか? 無いようなら皆さんの武器を預かり、こちらから武器を貸し出します」
その言葉に冒険者連中がまたも騒ぎ出した。いや、君ら、騒ぎすぎだろ。覚悟が決まっていないというか、面倒な連中だよね。
「何で、武器を預けないといけねぇ!」
「はい、基本は預かりですが、強制ではないので、嫌なら、そのまま持ち込まれてもいいですよ。ただ、中の魔獣には攻撃が通じないだけですから。それで、もしMPに傷を負って気絶され、その間に、装備品が迷宮に飲み込まれたとしても、私たちは保証しません」
迷宮に飲み込まれる? 気絶すると装備品が没収されることがあるのか? うーむ。とは言っても真紅妃を預けて中に潜るとか、そういう選択肢はないな。俺以外の誰かに真紅妃を持たすとか、ちょっと考えたくないからね。
「それでは『試練の迷宮』の門を開けます。入り口で手持ちの武器を預ける方は預けて、迷宮用の武器を受け取って下さい」
あ、ここが『試練の迷宮』だったんだね。なるほどー、人が居なかったのも当然か。しかしまぁ、これだと、このまま、この場所に《転移》のチェックを置いたままには出来ないか。はぁ、何処にしよう。それが一番困ったなぁ。