5-56 都市の探索
―1―
袋から焼き肉を取り出し、もしゃもしゃと食べながら歩く。タレと風味が最高だね。
にしても思わず匂いに釣られて、さっきの食堂に立ち寄ったけどさ、そこ以外にも沢山の食べ物屋さんがあるな。食べ物の屋台はあるし、迷宮都市って繁盛してるなぁ。帝都は広いばっかりで、何だか古くさいし、店は無いし、貧民窟はあるし、俺の家は墓場の中にあるし、ろくなもんじゃ無い!
武器や防具を売っているお店も種類があるから冒険者によってはお気に入りのお店とかあるのかもしれないな。
ちょっと目に付いた武器屋を覗いてみる。武器屋の入り口の所には沢山の剣が箱に入って置かれていた。看板が付いているね。何々、『どれでも、一個、5120円(銀貨1枚)』か。これはアレか、ワンコインセールみたいな武器か。ちょっと鑑定してみるかな。
【低品質なノーマルソード】
【刃渡り80センチほどの普通の両刃剣。低品質の為、壊れやすい】
あ、やっぱり。低品質シリーズなのね。駆け出しの冒険者が、とりあえずの武器として買うのかなぁ。うーん、こういう出来合い物は微妙な感じがするよね。やっぱりさ、専用のオーダーメイドが一番だよね。
「おい、そこの豪華な槍を2本背負った小っこいの、邪魔だからどいてくれよ」
俺が店の入り口にある武器を物色していると後ろから声がかかった。あ、ごめんね、邪魔だよね。
『すまぬ』
俺が横に避ける――と、声をかけてきた白い皮鎧に身を包んだ冒険者が驚いた顔でこちらを見た。
「な、何だ、見たことのない魔獣が」
『魔獣では無い。星獣様だ』
いやまあ、アレですよ、通じないから仕方ないとはいえ、自分で自分のことを様付けで呼ぶのは照れるなぁ。
「そ、そうか。魔獣じゃないなら、いいか」
白い皮鎧の冒険者が店の中へ入っていく。持っている武器が壊れたのかな? それともお金が貯まったので良い武器を買いに来たのかな?
武器や防具はちゃんと装備するんだぞ、と心の中で白い皮鎧の冒険者に忠告しておく。にひひ。
俺も中を覗いてみたい気はするんだけどさ、うーむ、今日はいいか。武器や防具なら自分のとこで作って貰えばいいしね。今日は迷宮都市の探索がメインだから、また今度ってことで。
―2―
商店街をある程度進むと行き止まりに突き当たった。へ? 商店街の先が行き止まりとか、おかしいよね。街の中に行き止まりがあるとか、この都市の造りはどうなっているんだよ!
来た道を戻り分かれ道を城とは反対方向へ進む。そちらは先程までの冒険者向けの商店街とは打って変わり、普通のお店が並んでいた。普通って――ねぇ、そう、普通だよ。食料品や生活雑貨だよな? 金属のたらいぽいのや、何に使うのか分からない形をした物や、ろうそくの台かな? うーん、よく分からないな。
歩いている人たちも先程の武装した冒険者風の人たちから、布や皮で作られた簡単な服装の人々に変わっている。冒険者の方が色とりどりの防具を装備しているから、ちょっとお洒落している感じに見えるなぁ。
周囲の建物やお店を観察しながら歩いて行く。
こっちをこのまま進むと普通の住宅街って感じかな。ここに住んでいる冒険者も居るんだろうか。だって、迷宮都市だもんね。
道が入り組んでいるし、裏道はあるし、段差はあるし、結構広いし、うーん、迷子になりそう。石壁で区切られているから巨大な迷路を歩いているみたいだ。ま、大きなお城が見えるから、方向だけは間違えようが無いか。それにいざとなったら《飛翔》スキルで空を飛ぶって手段もあるしね。
適当に道を歩いていると、どんどん人通りが少なくなっていく。ここは何処だろう? にしてもホント、広いなぁ。まぁ、都市って言うくらいだもんな。
歩き過ぎてもう日が傾きかけているよ。
えーっと、ここは、同じ形の四角い大きな建物が沢山並んでいる広場だね。その建物に筋肉もりもりなおっさん連中がずた袋を詰め込んでいる。もしかして倉庫か?
さらに奥の方へと歩いて行くと沢山の砂竜船が繋がれた場所に出た。あー、港か。確かにこっちの方は砂漠が広がっているな。それに、ここには外壁が見えない。海の代わりに砂漠なのか。何だか、不思議な感じだなぁ。
にしても広い。ホント、広い。道の途中で行き止まりがあったり、建物や石壁、階段などの段差で先が見えなくなっていたり、ホント、ごちゃごちゃした造りだなぁ。まぁ、俺に関係がありそうなのは冒険者ギルドとその先の商店街くらいだろうから、そこから動かなければ迷うことも無いか。
って、結局、王城に着けなかったじゃん。
も、もしかして、迷宮都市って都市自体が迷宮になっているってことか! そうなのか! そうだったのか!
はぁ、もう日が落ちそうだ。都市の全てを見て回ったわけじゃないのに、もう、そんな時間か。仕方ない、今日はもう帰るか。
――《転移》――
―3―
《転移》スキルを使い自宅へと戻る。
さ、ご飯を食べて寝よう。
「マスター、お帰りなさいませ」
うお、びっくりした。14型さんは何処からでも沸いてくるなぁ。
『今戻った。ポン殿に頼んでご飯の用意を頼む。それとコレをポン殿に渡してくれ』
俺は14型に買った焼き肉を渡す。
「確かに」
14型が俺から焼き肉を受け取ると、そのまま姿が消えた。えーっと、いつから戦闘メイドさんは忍者にクラスチェンジしたんですかね。目の前で姿が消えるとか、怖いよ!
さあて、明日は試練の迷宮とやらに挑戦か。とりあえず《転移》で迷宮都市に着いたら、冒険者ギルドに顔を出しますかね。となると早めの方がいいかな。
うん、明日は早く起きることになりそうだ。