5-52 自宅に帰還
―1―
さて、転移のチェックが出来そうな場所というと畑の方かな。よし、戻りますか。
夕焼けに照らされた石壁の中、来た道を戻っていく。おー、小さい子どもが遊んでいるな。この迷宮都市は子どもが道で遊ぶことが出来るくらいに治安がいいのかな。ま、帝都の俺の家の近所に治安が悪かろうが気にせずに遊んでいるクソ餓鬼どもが居たから、アテにはならないか。
畑まで戻り、畑の中を進んでいく。何だろう小さなつぶつぶの穂が着いた茶色い謎の植物だな。美味しいんだろうか?
畑の中には、もう日が落ちようとしているのに畑仕事をしている人たちの姿が見える。うーん、畑の端が一段高くなって、そこが道になっているから、そこを歩いている人も居るし……うん、これ無理だ。ちょっと、ここに転移のチェックを作るのは駄目か。
仕方ない冒険者ギルドに戻って、そちらの先に転移チェックが出来そうな場所があるか探しますか。
てくてくと冒険者ギルドまで戻る。
冒険者ギルドの先は二つに道が分かれていた。右側、城の方へと向かう道はお店が並んでいるようだ。こんな時間なのに、まだ賑わっているみたいで、こちらにまで喧噪が聞こえる。
そして左側は町外れに向かっているのか、奥へ行くほど建物が無くなっている。おっし、こっちに進んで見るかな。
冒険者ギルドを左に曲がった道を進んでいく。進めば進むほど建物が無くなっていくんだけどさ、道はしっかりと整備されているんだよな。何処に向かっているんだろう?
さらに進むと少し開けた場所に出た。中央には下に降りる階段があり、その先には重そうな扉があった。うーん、扉を開けることは出来そうにないな。何だろう、ここ? ま、気にしたら負けか。ここは寂れた感じだし、人も居ないし、うん、良さそうだ。よし、ここでチェックをしておくか。
――《転移チェック6》――
とりあえずオアシスのチェックを消して迷宮都市にしておくか。よし、これで何時でも迷宮都市に戻れる。じゃ、さっそく我が家に戻りますか!
――《転移》――
―2―
《転移》スキルを使い自宅へ。
落下する時に見えた我が家は少し離れたここからでも分かるくらいに拡張されていた。えーっと、どんどん我が家が大きくなっているんですけど。もうすでに家ってレベルを超えているんですけど。これ、どうなっているんですかね。
むむむ。
ま、考えても仕方ない。日も落ちたし、家に帰ってご飯を食べて寝ますかね。
我が家までとぼとぼと歩いていると後ろから急に声がかけられた。
「お帰りなさいませ、マスター」
あ、ああ、14型か。いきなり後ろから声をかけないで欲しいな。びっくりするじゃないか。
「マスター、本日、フー家の者がマスターを訪ねて来ました。明日、また来るとのことなのです」
ん? フー家? 誰のこと?
「だぜー、だぜー、言っているマスターを利用しようとした男なのです」
14型が両目を引っ張っている。えーっと、もしかしてキョウのおっちゃんのこと? いや、あのさ、14型さん、別にキョウのおっちゃんは糸目じゃないからね。それ、似てないからね。もしかして14型は俺らと見えているモノが違うのかなぁ。
「それとポンとユエがマスターのお帰りを待っていました。相談したいことがあるようなのです」
ふむふむ。あ、そうだ、フルールに頼むことがあったんだった。
『14型、ポン殿に食事の用意を頼んでくれ。それと食堂で話を聞くのでユエも呼んで欲しい。後はフルールも連れてきてくれ』
「了解しました、マスター」
14型が優雅なお辞儀をしたと思うと姿が消えた。な、何この子、忍術でも使えるの?
ま、まぁ、食堂に行きますか。さすがにこの時間だとお客さんも居ないだろうしな。
―3―
「もう閉店だよ」
俺が食堂に入ると、そんな言葉を掛けられた。いや、あの、ここ、俺の家なんですけど。て、見たことの無い人だけど、誰だ?
「おい、その方はいいんだよ。ここのオーナーだ」
奥からポンさんが現れる。
「え? でも、え?」
「いいからよ、奥で下拵えでもしてろ」
ポンさんが新人に指示を出す。
「お帰りランさん。今回は遅かったじゃないかよ」
そう? 姫さまと合流してからだから、まだ数日ってとこじゃん。
「待ってな、オーナーのランさんの為に美味しい物を作ってくるからよ」
あ、はい、頼みます。って、14型、ポンさんに食事の用意をって言ったのに伝わってないじゃん。もう、こういうとこはポンコツなんだからさ。有能そうに見えて、やっぱりポンコツだなぁ。
俺は自分の為に作られた指定席に座り、食事が出てくるのを待つ。
俺が待っているとフルールとユエがやって来た。
「ラン様! お帰りを待っていました!」
猫人族のユエが尻尾を振りながらこちらに飛びつくように駆け寄ってくる。え、えっとどうしたのかな?
「ラン様、何の用ですのぉ? フルールは真面目に働いてますわぁ」
フルールは疲れ切った顔だ。あー、仕事終わりなのかな。
『まずはフルール、これを使って盾を作って欲しい』
俺はフルールに究極のレアメタルインゴットを渡す。ジョアンの家に忍び込んだ時に剣聖のお爺ちゃんから許可を貰って作ったインゴットだ。おもちゃみたいな剣だから、好きにしろって言われたからね、好きにさせて貰ったぜ!
「どのような盾がお望みですの?」
『フルールはジョアンを知っているか? 剣聖の孫で聖騎士のジョアンだ。ジョアンが持っていて見劣りしないような物が欲しい。報酬は……』
俺はそこでユエの方を見る。
『ユエと相談して好きなようにしてくれ』
面倒ごとはプロに丸投げぽーいなのですよ。
「分かりましたわぁ。3日もあれば最高に素敵でお洒落な盾を作りますわ」
お洒落ねぇ……。まぁ、でもさ、神国の騎士になるならお洒落も必要か、うん。じゃ、頼みました。
『で、ユエ、話があると聞いたが』
俺の天啓にユエが頷く。
「と、俺の相談もあるんだがよ」
そこでポンさんが俺の食事をもってやって来た。
うんじゃ、まずは食事でもしながら聞きますか。さあ、食べるぞ!
「ラン様、ここは私が予想していたよりも大きくなりすぎました……」
ん? って、話し続いちゃうんですね。ご飯が冷めちゃう。
「商業ギルドに商会としての登録が必要になります……」
つまりどういうこと?
「ここに名前が必要になるんです!」
へ?