5-50 分かれた道
―1―
「で、姫さんよ、どうするんだい?」
獅子頭のヤズ卿がこちらへと問いかけてくる。
「橋が架かるまでどれくらいなのじゃ?」
姫さまの問いかけに獅子頭のヤズ卿が顎の毛を梳いている。癖なのかな? それにしても姫さまよ、質問に質問で返したら駄目なんだぜ。
「後、4ってところか……」
「まだ結構あるのじゃ」
ヤズ卿の言葉に姫さまががっかりしたように肩を落としている。えーっと、俺、話しに全然ついて行けてないんですが、説明を求めまーす!
見るとジョアンも話しについていけないようで、首を動かして姫さまとヤズ卿を交互に見ていた。
「何だ、ジョアンにラン、知らないのか?」
赤騎士がこちらに話しかけてくる。ふむ、姫さまとヤズ卿は何やら2人で話し込んでいるな。
「ああ、教えて欲しい!」
ジョアンの返答に赤騎士が頷く。
「この大陸と俺たちの国の間には大きな断崖があって、そのままだと渡れないんだよ。そこに橋が架かるまでの日数を、今、話しているって訳なのさ」
ほうほう。
「その断崖は『刹那の断崖』って呼ばれる小迷宮にもなってるんですよ」
「小迷宮って言うには大きすぎるけどな」
青騎士と赤騎士の2人が教えてくれる。そう言えばこの大陸に渡った時もシロネさんがそんなことを言っていたような気がするな。
ふむ。となると今は神国に渡れないってコトなのか。
「ラン、ラン、どうするのじゃ」
ん? あれ? 姫さまどったの?
「わらわたちは橋が架かるまでヤズ卿の言葉に甘えて城にやっかいになるのじゃ!」
「お、おい、セシリア姫、俺は一言も城に来いなんて言ってないぞ」
獅子頭が慌てたように、そんなことを言っている。
「なんじゃ、駄目なのか?」
「いや、全然構わん! 姫さまたちなら大歓迎だ!」
先程慌てたのが演技だったかのように獅子頭のヤズ卿がご機嫌に笑っている。
「というわけで、ラン、どうするのじゃ?」
えーっと、つまりアレか。俺も城にご厄介になるべきかどうかって事だよな。うーむ。姫さまたちと行動を共にするのは悪くないと思うんだよな。でもさ、さっきから獅子頭のヤズ卿が俺の事をチラチラと見ているのが凄く気になるんだよなぁ。何だか、裏がありそう。ここの情報を得たいし、まずは冒険者ギルドに顔を出しておきたい。それにさ、それとは別に、一度、家に帰りたいんだよな。
『自分は一度冒険者ギルドに顔を出したい。自由に行動させて貰う』
俺の言葉に姫さまは驚き、そしてとても悲しそうな顔になる。
「な、なんでなのじゃー!」
姫さまの言葉に青騎士が首を横に振る。
「ランさんには、ランさんの事情があります。我が儘を言っては駄目ですよ」
青騎士の言葉に姫さまが「むぅ」と唸り頷く。いや、あの、別に、そんな、特別な、事情は、ない、です。
「わかったのじゃー。わらわたちは城に居るのじゃ。何時でも気軽に来るのじゃー」
城でやっかいになるとか、堅苦しくていけないんだぜ。
「ら、ラン!」
どったの、ジョアン。
「僕は姫さまと一緒に行動する!」
あ、そっか。ジョアンはそう言っていたもんな。となるとジョアンともここで、一旦、お別れか。
『ジョアン、盾は大丈夫か?』
宝櫃の盾、壊れちゃったもんな。
「大丈夫だ! 僕は聖騎士だからな!」
ジョアンがこちらへと拳を突き出し、にこりと笑う。おうさ、お前なら大丈夫だぜ。
「ふむふむ。ランと言ったか」
獅子頭のヤズ卿がこちらへこくこくと頷きながら語りかけてくる。おうさ、星獣で氷嵐の主のランだぜ!
「ランなのじゃ!」
何故か姫さまが俺の代わりに応えてくれる。あ、はい。
「お前が伝承にある『星獣様』とは――俄には信じがたい。うーむ、ただのマントをしたジャイアントクロウラーにしか見えんな。まぁ、それはいい……ふむ。そうか、セシリア姫の友人か」
ああ、友人だぜ。にしても伝承か。ヤズ卿は星獣のことを知らないのかと思ったが、俺が星獣だって事を信じていないって感じなのか? まぁ、俺自身、周りから星獣だって言われてるから、そういうもんかって名乗っているだけだしな。
「お前が動き易いように少しだけは力を貸してやろう。少しだぞ、ほーんとうに少しだからな」
そう言って獅子頭のヤズ卿は笑っている。なんなの、このおっさん。
「イルック、鷲鼻に」
「ああ、そういうことですかい」
ヤズ卿がビア樽のようなイルックさんに指示を出す。イルックさんはうんうんと頷いているけどさ、鷲鼻で通じるのか? 何のことだろう?
イルックさんがこちらへ、俺の方へと向き直る。
「ランさんよ、冒険者ギルドはこの左大通りをまっすぐ行けば見えてくる大きな白い建物だ」
あ、そうなんだ。
「城へは右大通りを進めば……まぁ、迷わなければ着くだろう」
えーっと、右側の道、ここからでも、凄いグニャグニャと石壁と建物で折れ曲がっているように見えるんですけど。何だろう、迷路になっている感じだ。
「ラン、またなのじゃ! 必ず、必ず、城に遊びに来るのじゃぞ!」
姫さまが必死に手を振っている。お、おう。でもさ、その城、姫さまの城じゃないよね、じゃないよね?
「ラン、今でも魔族を倒したってのは信じられないけどよ、お前なら大丈夫だと思うぜ!」
「やれやれ、スー、私はランを信じてますよ。ランさん、頑張ってください」
赤騎士と青騎士がこちらへと胸に手を当て敬礼のようなポーズを取る。お、おう。
「ラン、また!」
ジョアンも赤騎士と青騎士のポーズを見て、それを真似している。胸に手を当てる敬礼ってのが神国式なのかな?
『またな!』
俺は皆へと天啓を飛ばす。
「にゃ!」
頭の上の羽猫も大きく鳴いている。ああ、起きていたのか。
姫さまたちは右の道を。
俺は左の道を。
さあ、冒険者ギルドへ出発だ。っと、そうだ、《転移》のチェックもしたいんだよな。うーん、どこでチェックをすべきかなぁ。橋があって、こうも城壁に守られているような大きな都市だと、城壁の外でチェックするのも手間だしなぁ。それに門番に見咎められても面倒だしね。
大きな都市だから、城壁の中でも人通りが無いような場所があるでしょ。うん、チェック場所は何時でも変えられるからね、その時に考えよう。
さあて、ここにも八大迷宮があるんだよな。その情報も欲しいし、まずは何あれ、冒険者ギルドだ。
1月13日修正
ただの服を着た → ただのマントをした