5-47 ランは凄い
―1―
夜の砂漠で1人、俺は風景を楽しむ。
周囲は全て氷、氷、氷だ。
近寄って氷を叩いてみる。うん、氷だ。
突然、水が噴出して凍るって感じではなく、花が咲くように氷が地面から生まれて開いていくんだな。
この遺跡地帯だと砂の下、深い部分に遺跡の建物が眠っているから氷が噴出してこないのかな?
旅人はそういう場所を見つけて、砂漠を渡るのかな。ま、俺の場合は《転移》スキルで簡単に戻ることが出来るからね、そういった苦労をしなくていいんだよなぁ。ま、それはそれで旅の楽しみが少し薄れているのかもしれないけどね。
夜になると水の魔素が地上に出てきて凍り、朝になると地中に戻っていく……か。なんともまぁ、不思議な光景だ。
あー、そうか、砂漠の魔獣が地中から現れるのは、地中の水の魔素を吸っているからなのかな? 出てくる魔獣って植物系や昆虫系ばかりだからね。地中の水を吸って植物が生長し、それを食べるために昆虫の魔獣が砂の中に――もしかすると、そんな感じなのかなぁ。ラミアぽいのとかは最初から地上に居たもんな。
2つの月の輝きを受けて氷がキラキラと輝いている。ホント、幻想的だな。
あ、そうだ。これ、壊せるかな。
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃を手に持ち、近くの氷に赤と紫の螺旋を叩き込む。氷は簡単に砕け、粉となって霧散していく。そして、壊れたトコロから水の魔素がのび、また凍っていく。へぇ、再生するんだ。これは、夜の間に移動するのは無理ぽいなぁ。
俺は夜の間、ぼーっと周囲の氷を見て過ごす。これなら魔獣が現れることも無さそうだ。
そして夜が明け、日が昇り始める。
それに伴い、周囲の氷が粉となって霧散する。霧散した氷は、青い魔素となり砂漠に吸収されていく。なんで砂の中に消えていくのかな。
青い魔素の代わりに紫や赤の魔素が増えていく。風と火か。
さあ、砂漠の朝が始まるな!
―2―
朝になり、皆が目を覚ます。
「う、うーん」
「はっ!」
「……頭痛ぇ」
いや、姫さまだけはまだ寝ているようだ。お寝坊さんだねぇ。
「ら、ラン! 魔族は!」
ジョアンが跳ね起きこちらに詰め寄る。
『倒した』
俺の天啓を受け、ジョアンが口の端を上げてぷるぷると震えている。
「ランなら当然だな!」
ジョアンが拳を上げている。あー、これはッ!
俺が小さな拳を上げると、その俺の拳にジョアンが拳を当てる。おうさ、やったぜ。
「姫、姫、起きてください」
青騎士が姫さまを起こそうと、声をかけている。
そして赤騎士がこちらへやってくる。
「おいおい、さっき魔族を倒したって聞こえたんだけどよ、本当か?」
本当です。褒めても良いぜ!
「ああ、ランは凄いんだ!」
ジョアンが俺を褒めてくれる。いや、まぁ、アレですよ、本当に褒められると照れるな。
「信じられん! あの魔族の力、上位の魔族に見えたが、それを倒した? ありえんぜ」
えー、そこは信じてくださいよ。
「スー、姫さまが居たんだ。そして、姫さまは少々、魔法を使いすぎたようだが、無傷。それで分かるだろう?」
青騎士の言葉に赤騎士はぽんと手を叩き頷く。
「なるほどな。それならあり得るか」
何故か、赤騎士が俺の肩部分と思われる場所をばんばんと叩いている。いや、痛い、痛いってば。体液出ちゃうよ。
「それは違うのじゃー!」
突然、姫さまが寝袋ごとむくりと起き上がった。うお、びっくりした。
「姫、起きられましたか」
「姫さん、びっくりしたぜ」
青と赤、両方の騎士が姫の方を向く。
「まだ眠いのじゃ。ところで、先程、魔族の戦いのことを話していたように思うのじゃが……」
姫さまが眠そうに目をしばしばさせながら喋る。
「ああ、それよ。姫さん、どうやって魔族を倒したんだ?」
赤騎士の言葉を受け、姫さまが寝袋ごと――立ったまま、もそもそとそこから這い出て、腰に手を当て上体を反らす。
「ランがやったのじゃ!」
えーっと、そこは威張るトコロですかね?
「いやいや、本当ですか?」
赤騎士が俺と姫さまを見比べる。
「自分やスーが手も足も出なかった魔族を、となると俄には信じられません」
「ランは凄いんだ!」
「にゃ!」
何故かジョアンがもう一度、そんなことを言う。そして頭の上の羽猫も便乗するかのように頭の上で鳴いている。
「にひひひ、だから言ったのじゃ、ランは凄い、と。わらわが友達になった意味、まだ分かっておらなんだのか?」
「いや、あれよ、姫さんのことだから、物珍しさで、と」
「自分もスーと同じです」
2人の騎士の言葉を受けて、姫さまがさらに上体を反らす。いや、それ以上、頑張ると倒れちゃうと思うんだぜ。
「お主たちもまだまだ、なのじゃー!」
うん、俺も絶対に物珍しさで友達になろうって言ったんだと思うんだぜ。
「わーかりました、さすがは姫さん。姫さんの目は確かだったってことで」
赤騎士の言葉に姫さまとジョアンがうんうんと頷いている。
「姫、お話は変わりますが、王都まではどう致しましょう? 足がなくなった以上、一旦戻りますか?」
青騎士の言葉に姫さまが腕を組み考え込む。うーん、そうだよね。エンヴィーが使っていた砂竜船をそのまま使ったら駄目なのかな? 窃盗扱いになるんだろうか?
『エンヴィーの乗っていた砂竜船を使うのは駄目だろうか?』
俺の天啓を受け、皆がこちらを見る。そんな一斉に見られると照れるな。
「なるほど、良い考えなのじゃ」
「所有者が魔人族なら問題ないでしょう」
「元の持ち主が居る可能性もあるな。ま、それは迷宮都市についてから、だな」
3人が頷き合う。
「残された砂竜船を借りましょう」
「だな、迷宮都市までは、誰かさまが変なコトを言い出さなければ、2日もかからないはずだ」
「誰なのじゃー、誰なのじゃー、そんな変なコトを言う者は居ないのじゃー」
姫さまが頬を膨らませている。あー、この護衛2人は姫さまに振り回される係なんだな。
にしても後2日ほどで迷宮都市か。
やっとだね。
もうあとちょっとだ。
1月10日修正
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