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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
347/999

5-44  激戦・後編

―1―


「何を遊んでいるんです? 待つとか、そういうのはいいんですよ。殺しなさい」

 エンヴィーの言葉にブラックプリズムが反抗しようとし、そして左腕を押さえる。

「逆らおうとしても、その腕輪がある限り無駄ですよ」

 ブラックプリズムが腕を押さえながらエンヴィーを睨む。

「ヒトモドキも、人も関係無い、そう強い者と戦うのが生きがいのあたいに……」

 ブラックプリズムの額に大粒の汗が流れる。

「くっ、悪いな」

 ブラックプリズムがジョアンの首に戦斧をあて、そのままゆっくりと大きく振りかぶる。まずいッ!


「ジョアン、よく時間を稼いだのじゃ」


 ジョアンの後ろに控えていた姫さまが両手を上へと、天を掴むかのようにかざす。かざされた片方の腕には白い腕輪が光っていた。

「わらわは望む、全てを浄化する白き光の力……」

 姫さまの手から白い光の玉が生まれ、夜空へと吸い込まれていく。

「喰らうのじゃっ! 光の上級魔法レイバーストなのじゃ」

 夜空に光の粒が生まれ空を白く、白く染め上げていく。そして魔法を発動し終えた姫さまが、力尽きたかのようにゆっくりと膝をつき、崩れ落ちる。しかし、姫さまは、その倒れた状態のまま、力なく、よろよろと手を動かし、腰に付けたポーチから瓶を取り出して一気に飲み込んだ。もしかして、MP回復ポーションか?


「は、はやく、私を守りなさい!」

 エンヴィーが叫ぶ。ブラックプリズムが1つ大きな舌打ちをし、エンヴィーをかばうように動く。


 そして光が降り注ぐ。


 ブラックプリズムが戦斧を地面に突き刺し、黒い篭手を構える。雨のように降り注ぐ無数の光線を黒い篭手にて殴りつけ、弾いていく。ちゃんとジョアンを避けて光の雨が降り注いでいるのは、そういう魔法だからなのか、それとも姫さまの力量なのか……。


 拳が幾つにも見えるかのような連打が光の雨を弾き飛ばしていく。そして光の雨が止んだ後には肩で息をしているブラックプリズムと無傷のエンヴィーが居た。

「なかなかに、あたいを楽しませてくれる魔法だったよっ!」


――《飛翔》――


 《飛翔》スキルを使い飛ぶ。今がチャンスだッ!


――[アイスウェポン]――


 飛びながら真銀の槍に氷を付与する。


 サイドアーム・アマラに持たせた真紅妃、サイドアーム・ナラカに持たせた真銀の槍――2つの槍による攻撃を食らえッ!


――《Wスパイラルチャージ》――


 混じり合った2つの螺旋がブラックプリズムへと――ブラックプリズムの左腕に付けられた隷属の腕輪へと流れていく。狙うは隷属の腕輪ッ! これで壊してやる。

「ちぃ、魔獣がっ!」

 こちらに気付いたブラックプリズムが俺の攻撃を防ごうと腕を交差して身を守る。はん、俺の狙いはその腕についている腕輪なんだよッ!

「何だと。狙いは腕輪だと? 何故だっ!」

 隷属の腕輪と2つの螺旋がぶつかり、ギギギと嫌な音を立てる。

「その程度の攻撃で、これが壊れるような物ならっ! あたいらが永久表土に封じられることもなかったんだよっ!」

 ブラックプリズムが腕を開き、2つの螺旋を弾き返す。


「ああー、なんとせっかくのチャンスが無駄でしたね」

 ブラックプリズムの影に隠れたエンヴィーがニヤニヤと笑っている。笑っているエンヴィーを見てブラックプリズムが心底嫌そうな顔をする。


『それでも、自分が壊すッ!』

 そうだよ、壊すんだよッ!


「ほう?」

 俺の天啓を聞き、ブラックプリズムが一瞬驚いた顔をし、すぐに片目を閉じニヤリと笑った。

「そうか、お前、星獣か。あたいらの天敵として作られたその力、見せてみろ」

 その言葉を言い終えるが早いか、ブラックプリズムが黒い篭手を振りかぶり、こちらへと殴りかかってくる。

「待てよ……、させない……」

 そして、その振り上げた右拳へと、ジョアンが、それを止めようと、よろよろと手を伸ばす。


「死に損ないながら、その意気は買うが、寝てなっ!」

 俺へと振り落とされるはずだった右拳がジョアンに振り落とされる。しかし、ジョアンは、抱きつくように、その身を盾にして拳を受け止める。

「ら、ラン……頼んだ……」

 おう、頼まれたぜッ!


 ジョアンが体を張り、ブラックプリズムの右拳を押さえ込む。


――《集中》――


 集中しろッ! ジョアンが見せてくれたんだ、ここに俺の全力を注ぐッ!


――《限界突破(リミットブレイク)》――


 俺の中の魔石がどくんと跳ねる。全身に力がみなぎっていく。生まれるのは陶酔するかのような全能感。


――[アシッドウェポン]――


 真銀の槍が黄色い酸に覆われていく。壊すなら酸だよなッ!


 喰らえッ!


――《W百花繚乱》――


 真紅妃から、真銀の槍から、高速の突きが放たれる。《集中》スキルと《超知覚》によって感覚が研ぎ澄まされた俺の目には隷属の腕輪しか写っていない。全ての突きが隷属の腕輪を破壊するために、何度も、何度も、繰り返し、ぶつかっていく。その勢いに耐えきれずブラックプリズムの左腕が弾かれる。それに合わせてジョアンが滑り崩れ落ちる。その途中、こちらを見て、一瞬笑い、そのまま前のめりに倒れ込んだ。ああ、ジョアンの力受け取ったぜ。


「その力はっ!」

 俺の限界を超えた力だッ!


 さあ、トドメの一撃だッ! 真紅妃、頼むぜッ!


 真銀の槍を自分の左手に持ち直し、自身の右手とサイドアーム・ナラカ、サイドアーム・アマラの3つの手で真紅妃を、強く、強く握る。


――《飛翔》――


 そして、俺は《飛翔》スキルの勢いも足し、全力の突きを放つ。これが俺が放てる全力全開の《神速の突き》だッ!


 真紅妃と俺が光の槍となってブラックプリズムの左腕に付けられた隷属の腕輪へ飛ぶ。真紅妃と隷属の腕輪、その2つがぶつかり合う。


 光の粒子が舞い散る。


 もっと、もっとだッ!


 そして――


 そして、隷属の腕輪にヒビが入った。


 そのまま真紅妃が隷属の腕輪を貫き砕く。その勢いのままブラックプリズムが滑り大きく後退する。

 砂地へと砕け外れた隷属の腕輪が落ちる。


 砕いたッ!




―2―


「馬鹿な、そんな馬鹿な」

 落ちた隷属の腕輪を見てエンヴィーがわなわなと震えている。ああ、終わったぜ。これでブラックプリズムは自由だな。


――[ヒールレイン]――


 とりあえず俺は倒れ、気絶したジョアンに癒やしの雨を降らせる。ジョアンが頑張ってくれたから、何とかなったぜ。


「ラン、やったのじゃな?」

 姫さまがよろよろと立ち上がる。ああ、MP枯渇による疲労かな? 光の上級魔法って、結構消費が多いのかな?

 俺は姫さまの方へ自身の手で持っている真銀の槍を掲げる。おう、やったぜ。


 後は断罪するだけだ。と、ブラックプリズムは?


 見るとブラックプリズムが左腕をくるくると回し感触を確かめていた。

「まさか、隷属の腕輪を壊すとは……。星獣、あんたの名は?」

 ブラックプリズムが指の関節をポキポキと鳴らしている。

『ランだ』

 俺は胸を張り――張ったつもりで天啓を飛ばす。

「星獣、借りが出来ちまったね」

『ランだ』

 俺の天啓にブラックプリズムがニヤリと笑う。

「星獣ではない、ただのランに1つ借りだ」


 ブラックプリズムがゆっくりとエンヴィーへと歩いて行く。エンヴィーが慌てて逃げだそうとし、足を絡ませてしまい尻餅をつく。そのまま震えながら、四つん這いで逃げようとする。

「おい、なりそこない。お前はあたいの力、よく知っているよな?」

「ひ、ひぃ」

 エンヴィーが何か喋ろうとするが、舌が上手く回らないのか言葉になっていない。


「ラン、とりあえず最初は譲ってやるよ」

 ブラックプリズムがこちらを見て肩をすくめる。俺も小さな腕を水平にして、肩をすくめている感じだけは演出する。そして2人で笑う。

「ひぃぃ」

 笑っている俺たちを見てエンヴィーがさらに震える。


『いや、俺はいい』

 そう、俺はいい。今の情けないエンヴィーの姿が見られただけで随分と心が軽くなった。こいつがやったことは許せない、がもう終わったことだ。

「そうかい。なら、ありがたく、あたいがいただくよ」

「おた、おた、おたすけ……ぎゃうっ!」

 エンヴィーの右足に戦斧が刺さり綺麗に切断される。


「あたいはね、白みたいにいたぶるのが好きなわけでもなく、青みたいに陰湿なやり方が好きなわけじゃないからね」

 そして、戦斧を引き抜き、そのまま振り下ろす。

「ぎゃうっ!」

 今度は左腕が切断される。


「お前のお仲間のなりそこないの雑魚どもを散らせたり、お前の懐を潤す為に戦う価値もないようなヒトモドキを襲わせたりっ!」

 そこでもう一度、戦斧が落ちる。エンヴィーの左足が粉々になって吹き飛ぶ。

「あ、あう、あ、あぐ」

 エンヴィーの顔は涙でぐちょぐちょになっていた。ああ、見るに堪えんな。


「だから、簡単に終わらせてやるよっ!」


 そして、エンヴィーへと戦斧が振り下ろされた。


 ……。


 これで、終わりか。


 終わったのか。


 ステータスプレート(黒)は戻ってこなかった。でも、俺の復讐は終わったワケだ。ああー、何だろう、スッキリしたはずなのに、気持ちが晴れない。ま、こんな奴だろうが、何だろうが、人が死ぬのは気持ちが良い物じゃないって事か。


「さあ、ラン。これで終わったな」

 ブラックプリズムがこちらへと向き直る。ああ、終わったな。


「ああ、これで足枷なく、お前と戦うことが出来るなっ!」

 え?

「本気の戦いだ。血湧き肉躍る最高の戦いにしような。隷属の腕輪を壊すほどのお前のちから、最高だ」

 ブラックプリズムが気持ち悪いほどの極上の笑顔を作り、笑っている。


「そして、そのお礼に見せてやるよっ! あたいが持つ始原の力」

 始原の力?

「青が受け継いだ古代語魔法、赤が受け継いだ竜言語魔法、そしてあたいが受け継いだ始原魔法の力。今のヒトモドキどもの魔法の元となった力の一部、特別に見せてやるよっ!」

 始原魔法? 今の魔法の元となった魔法?


 ああ、くそっ、結局、こうなるのかよッ!


 何で、戦うことになってるんだよッ! 助けたんだから、それでお礼を言って終わりでいいじゃんかよッ!


 《限界突破(リミットブレイク)》の残りの効果時間はどれくらいだ? ああ、くそッ!


 いいよ、もう、いいよ。


 見せてやるよ。


 見せてやるぜ、俺の奥の手をッ!

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