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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
346/999

5-43  激戦・前編

―1―


 砂竜船が砂の海を掻き分け進んでいく。俺はそれを見失わないように追いかけていく。うーん、砂漠って隠れる場所がないから、油断するとバレちゃいそうだね。あー、何か隠れる系のスキルが欲しい。

 まぁ、砂竜船は、その巨体が邪魔して御者台からは後ろ方向が見えないみたいだからさ、御者台に居るエンヴィーがこちらに気付くことはないだろうね。

 後方の見張りを買って出たスーさんがこちらへ手を振っている。あ、後ろからだとバレバレか。スーさんが居てくれて良かったよ。


 やがて日が落ちる。


 そして砂竜船が周囲に多くの石柱が埋まった場所で止まる。ここも遺跡か。夜の砂漠は凍るんだよな。このまま砂漠に居ると氷の塊で串刺しにされそうだ。俺が、そんな心配をしているとエンヴィーと姫さまの会話が字幕に流れてきた。


「ここら辺で休憩にしましょう。砂漠の夜は凍りますからね」

「そうじゃのー」

 さて、どうしようかな。やつがここで動くのなら、こっちも動くかなぁ。


 にしても遺跡か。遺跡なら凍らないのかな? ここで泊まるってことはそういうことなんだろうな。

「食事にしましょうか。実はいいモノがあるんですよ」

 エンヴィーがお酒が入ったであろう瓶と干し肉のようなモノを取り出しているのがこちらからでも見えた。はは、変わらないなぁ。何度も同じ手が通じるのか? あー、そうか。生存者が居なければ、どんな方法だったかは伝わらないワケだしさ、もし疑われてしまった場合は、そのまま元々の行き先まで送ってしまえば、そんな危険があったなんて送られた人には分からないワケで、意外と上手い手なのか?


「ほうほう、そういう手なのじゃな」

 姫さまのその言葉が合図代わりだった。そうだな。もういいかな。


――《飛翔》――


 《飛翔》スキルを使いエンヴィーへと飛ぶ。


「あ?」

 突然、飛んで来たこちらを見て、呆然と突っ立っているエンヴィーの前へ、俺は夜のクロークを払い降り立つ。


『久しいな』

 俺の姿を見て、エンヴィーはわなわなと震え出す。そうだ、気付いたか。俺が誰だか分かったか? 分かったかッ!


 分かったかよッ!


「ほう、もしかしてっ! そうですか、そうですか。生きていたのですか。これは面白い」

 こっちはちっとも面白くないんだよッ!

『悪いが、お前の周りに居る皆は自分の仲間だ。お前に逃げ道はない』

 俺の天啓を受け、皆がエンヴィーを取り囲む。逃がさないぞ。

『自分がやる』

 俺はサイドアーム・アマラに真紅妃を持たせ構える。皆にはエンヴィーが逃げないように囲んで貰うだけだからね。トドメは――手を汚すのは、俺の仕事だ。


 さあ、俺が受けた痛み、お前にも受けてもらうぞ。


「ああー、これは危険だ。危ないなぁ、はははは」

 エンヴィーが腹を抱えて震えている。何がおかしい。俺が受けた痛みがお前に分かるか? 笑い事じゃないんだぞ。

「いやぁ、懐かしい顔、いや芋虫魔獣さんですねぇ。まさか魔石を抜かれたのに生き抜いて仕返しにくるなんて、これは危険だ、本当に危険ですねぇ」

 何だ、こいつ。何なんだ、なんで、この状況で、こんなにも余裕があるんだ? いや、怪しがっている場合か。

『まずは自分の黒いステータスプレートを返して貰おう』

 俺の天啓を受けエンヴィーが不思議そうな顔をし、あっと手を叩く。

「ああー、アレですね、アレですね。もう売っちゃいましたよ。ところで魔石の方はよろしいので?」

 売ったのかよ……。ああ、予想していたけど、魔石がコラスの手に渡っていた時点で予想していたけどさッ!

『魔石なら取り戻したッ!』

「それはそれはおめでとうございます」

 こいつは、コイツだけはッ! ささっと終わらせよう。終わることで俺は前に進むんだ。


 エンヴィーの後ろをジョアンが、左右を赤と青の護衛騎士が、正面をお姫さまと俺と羽猫が――もう、逃げ道はないぞッ!

「いやあ、罠にはめたつもりが罠にはめられていたと、これは1本取られました」

 さあ、断罪の時間だッ!

「いやあ、でもですね、皆さん、オアシスで行動しなくて良かったですね。その時はオアシスが壊滅していたかもしれませんからね」

 何を言っている?


「ああー、それでは私も奥の手を出しますかね」

 奥の手だとッ!

「何かやるつもりなのじゃ。ラン、はやく!」


――《スパイラルチャージ》――


 俺は急ぎ真紅妃を構え赤と紫の螺旋を描く。喰らえぇッ!


「主の危機ですよ」

 エンヴィーの言葉と共に空間が斬り裂かれ、現れた黒い闇から手が伸びる。伸びた手が俺の螺旋を止める。そのまま空間から手が、体が、全身が、斬り裂かれた空間から人が現れる。

 体の部分、部分を黒い甲冑に包まれた大柄で筋肉質な女。黒く短めの荒い髪、つり目がちな瞳。見るからに姐御って感じだ。


「お前如きなり損ないがあたいの主を名乗るなどっ!」

 黒髪の女の瞳が憎々しげに光る。

「私に逆らっていいんですか?」

 エンヴィーの言葉に黒髪の女が心底嫌そうに顔をしかめる。

「くっ」

 黒髪の女が掴んだ真紅妃を押し戻す。そのまま、俺は真紅妃ごと投げ飛ばされた。うお、視界がまわる。そして、まわる俺の視界には俺を投げ飛ばした黒髪の女の腕に1つの腕輪が付けられていることを捉えていた。あれは、俺はアレを知っているぞ。


 俺は知っている。


――《魔法糸》――


 魔法糸を飛ばし吹き飛ばされるのを防ぎ、砂地に降りる。しかしまぁ、なんつう、馬鹿力だ。あ、羽猫が吹っ飛んで遠くへ……ま、まぁ、その方が安全だからね。遠くで見守っていなさい。


「出でよ、黒き斬り裂きの両刃(りょうじん)ラビリス」

 黒髪の女の言葉と共に、その手の中に黒く巨大な戦斧が現れる。

「あたいはっ! 魔を導く民の4魔将が一人、土のブラックプリズム。お前たちヒトモドキはっ! あたいの前に立った不幸を嘆けっ!」

 ブラックプリズムと名乗った女が叫び名乗りをあげる。ブラックプリズムの叫びに合わせるようにビリビリと空気が振動する。




―2―


「な、魔族じゃと。危険なのじゃ! 皆、距離を取るのじゃ!」

 姫さまが叫ぶ。姫さまの叫びと共に皆が後ろへ跳ぶ。

「吹きとべぇっ!」

 ブラックプリズムが手に持った巨大な戦斧を振るう。それに合わせ空間が斬り裂かれ、空間が歪み、弾ける。


――《魔法糸》――


 俺は魔法糸を跳ばし、大きく後方へと距離を取る。


 ブラックプリズムを中心に巨大な爆発が起こる。投げ飛ばされて元々距離が離れていた俺は爆発の影響を殆ど受けなかった。が、余り離れることが出来なかったジョアンが爆発に巻き込まれる。しかし、ジョアンは2つの盾を構え、踏ん張り、何とか耐えていた。さすがはジョアンだぜ。

 爆発の中心に居るブラックプリズムは当然として、エンヴィーもそばに一緒に居るから無傷か。これで一緒に吹き飛ばされていたら面白かったんだけどな。


 ブラックプリズムが地に両手を付け、力を溜める。何だ? 何だ、凄く危険な香りがするぞ。やばいぞ。どうする、どうする?

「大地が崩壊する音を聞け、カタストロフィ」

 ブラックプリズムの言葉と共に地面が揺れる。小さな揺れは大きくなり、大地を揺るがす。そのまま地面が裂けていく。裂けた大地に砂漠の砂が飲み込まれ消える。な、な、なんだ、なんだ、コレ。


――《浮遊》――


 《浮遊》スキルを使い、大地の裂け目から逃れる。


――《魔法糸》――

――《魔法糸》――

――《魔法糸》――

――《魔法糸》――

――《魔法糸》――


 連続で《魔法糸》を飛ばし、姫さまをジョアンを2人の護衛騎士を糸で結びつけ、穴の底への落下から回避する。穴の途中で皆が俺からぶら下がった状態だ。

「ら、ラン!」

「助かったのじゃ」

「これは……」


「あたいの土の特級魔法、カタストロフィをそのような手段でっ! しかし、これで終わらんよっ!」

 大地が再度、揺れる。そして裂けた大地が閉じていく。あ、やばい、挟まれる。


――《飛翔》――


 《飛翔》スキルを使い《魔法糸》をぶら下げたまま上昇する。早く穴の外へ、外へッ!


 裂けた大地が元へと戻っていく。そして砂漠の大地に還る。何だ、これも魔法なのか。って、俺は、コレを何処かで――そうだ、大陸に渡ってすぐの時だッ! も、もしかして、あの時、《浮遊》スキルを使って浮いていたら、元に戻る大地に挟まれて死んでいたのか? あの時は《飛翔》スキルも無いもんな……は、は、はははは、まさか、な。


「どうです? 凄いでしょう、私が手に入れた力は凄いでしょう?」

 エンヴィーがニヤニヤと笑っている。いや、お前の力かよッ! ああ、殴りたい、ホント、死ぬまで殴りたい。

「ほう、あたいの特級魔法を躱すか。しかし近接ならばっ!」

 ブラックプリズムが巨大な戦斧を構える。その腕に付けられた腕輪が光る。


 隷属の腕輪――嫌な思い出が甦る。この世界に3つだけ存在している相手を隷属させる糞みたいな腕輪。ああ、こんな腕輪が沢山なくて良かったよ、ホント、良かったよ。

「うん? そこの魔獣、この腕輪が気になるのか?」

「そうでしょう、そうでしょう。あの芋虫魔獣は、その隷属の腕輪を付けたことがありますからね」

 ああ、そうだよッ! だから、今も同じ事をやっているお前が許せないんだよッ!

「これはあたいの油断だね。まさか、あたいらを隷属させる為に、あの偽りの女神が作った腕輪が残っているとは思わなかったよ。全て壊したはずだったからねっ!」

 その言葉と同時にこちらへと戦斧が飛んでくる。へ?


――《飛翔》――


 再度、飛翔を使い飛んできた戦斧を回避する。戦斧は弧を描き砂漠に突き刺さる。怖いなぁ。そして、俺はそのまま砂漠へと降りる。それに合わせて《魔法糸》で引っ張り上げていた4人も着地する。あ、そうだ、ジョアンにヒールレインを掛けておかないと……。


「ら、ラン!」

 ん? どったの? ジョアンがこちらを見て叫んでいる。そして視界が下から上へと赤く染まる。へ? うぇ、やばいッ!

 俺はとっさに真紅妃を構える。

「まずは一人っ!」

 いつの間にか下から戦斧とブラックプリズムが迫っていた。真紅が戦斧を受け止める。そして視界が回転した。縦に上へと下へとくるくると回転する。

 俺が気付いた時には、俺は砂に突き刺さっていた。な、何が起きた? 俺は慌てて砂地から顔を出す。




―3―


 ジョアンは姫さまを守るように盾を構えている。赤騎士のスーさんと青騎士のカーさんが戦っている。

 カーさんが2本の剣をくっつけて回転させ、斬りかかる。それをブラックプリズムが難なく回避する。カーさんが、すぐさま剣を2つに別け、さらに挟み込むように斬る。

「足りんっ!」

 ブラックプリズムが戦斧を振るう。回避のしようがない挟み込むように迫っていた2本の剣が戦斧によって砕かれ、空を舞う。カーさんは、一瞬、驚いた顔をし、すぐに折れた剣から手を離し、懐から新しい武器を取り出そうと――取り出そうとした瞬間にはブラックプリズムによって蹴り飛ばされていた。人がまるでボールのようにクルクルと回って飛んでいく。は、何だよ、何だよ、それ。

 そこを狙うように、すぐさまスーさんが赤い風を纏った大剣で斬りかかる。戦斧を振るい、そのまま回転し、蹴りを放ったブラックプリズムには躱すことが出来ない――かのように見えた。


 戦斧の勢いはまだ回転している。


 隙を突いたはずのスーさんよりも早く戦斧が廻り、ブラックプリズムが戦斧にて大剣を打ち砕く。風の大剣がまるでガラスで出来ていたかのように簡単に粉々になる。

「遅すぎるっ!」

 ブラックプリズムがスーさんの腹へと拳を叩き込む。衝撃波が、鎧を着けたスーさんの体を突き抜ける。スーさんがブラックプリズムの拳にすがりつくように、そのままずるずると崩れ落ちた。


 は?


 一瞬で2人が? へ? 俺でも《超知覚》のスキルが無かったら見えなかったぞ? 何だ、その素早さ? 何だ、その怪力? 何なんだ、何なんだ、この強さ。単純に早く、単純に力が強いって、それ何だよ。

 と、2人を回復しないとッ! ああ、ジョアンもだッ!


 夜になったからか、周囲に青い水の魔素がふわふわと漂っているのが見える。よし、これなら使える。


――[ヒールレイン]――


 俺がヒールレインの魔法を使った瞬間だった。俺の体に無数の赤い点が灯る。

「ストーンバレット」

 ブラックプリズムの手から無数の石つぶてが生まれ、こちらに降り注ぐ。俺の体に巻き付いていた白竜輪が動き、石つぶてを迎撃していく。1つ、2つ……8つ、そこで白竜輪の動きが止まる。次々と降り注ぐ石つぶてが俺の体を貫通していく。かはっ。ま、まさか、こっちが魔法を使った瞬間を狙われるとは……。ウォーターミラーで跳ね返すことも出来なかったじゃんかよ……。


 はぁ、はぁはぁ、くそっ。俺が魔獣でSPが多いからか、致命傷にはなっていないが、体を石が貫通するなんて経験は――最悪だ。

「いやあ、凄いですなぁ。神国の騎士が雑魚同然じゃないですか。さすがですねぇ」

 これがエンヴィーの奥の手かよ。魔族を手懐けているとは……。いや、無理矢理従わせている、か。ならば隷属の腕輪を壊せば状況は打破出来るか? そうだ、勝つ必要はないんだ、腕輪さえ壊せば……。


――[アイスウォール]――

――[アイスウォール]――

――[アイスウォール]――


 3連続で氷の壁を張る。


――[ヒールレイン]――


 まずは俺に癒やしの雨を。俺に癒やしの雨が降り注いでいる間にもバリバリと氷の壁が砕かれている音がしている。


――[ヒールレイン]――


 ジョアンに癒やしの雨を降らせる。


――[ヒールレイン]――


 赤騎士にも癒やしの雨を降らせる。


――[ヒールレイン]――


 最後、遠く吹き飛ばされた青騎士にも癒やしの雨を降らせる。これで大丈夫か?


「やはりお前が一番やっかいみたいだね。よし、最後に潰すか。あたいは美味しい物は最後にとっておくのさっ!」

 ブラックプリズムが盾を構えたジョアンと姫さまの方に向き直る。ヤバイッ!


「任せてっ!」

 ジョアンが叫ぶ。

「ジョアン、頼むのじゃ! その間にわらわが」

 ブラックプリズムが2人へと迫る。ジョアンが姫さまをかばうように立ち、姫さまが何かの呪文を唱え始める。

 ブラックプリズムが振るう戦斧をジョアンが宝櫃の盾で受ける。一撃、一撃、受ける度にジョアンの宝櫃の盾が大きく跳ね上がる。

「ほう?」

 2人の騎士を倒した時よりもブラックプリズムの動作が遅い。もしかしてジョアンを追い詰めるために手を抜いているのか? それとも、あの時の神速は何かのスキルだったのか?

「中々の力を感じるねぇ。3年だ、3年力をつけて帰ってきなっ! その時に収穫してやるよっ!」

 ブラックプリズムが大きく深く戦斧を構え水平に振るう。ジョアンが宝櫃の盾を構える。宝櫃の盾と戦斧が触れる。宝櫃の盾が戦斧を受け止め――切れず、そのまま粉々になり、砕け散っていく。粉となって舞い散っていく宝櫃の盾。粉々になった盾の隙間から驚いたジョアンの顔が見える。

 振るわれた戦斧が一回転し、そのまま反動を利用したブラックプリズムの蹴りがジョアンに炸裂する。ジョアンがブラックプリズムの蹴りを受け、口から血をこぼし、膝をつく。


 な、な、なんだ、この状況は。初めて魔族と会った時の――レッドカノンと戦った時を思い出させる。いや、でも……。そうだよ、俺は強くなった。あの時よりも強くなった。


 負けない。


 このまま負けるかよッ!

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