5-38 北の遺跡へ
―1―
オアシスに近づいていくと周囲に青い魔素が見えるようになってきた。ああ、水があるからね。これなら水の魔法が使えるか、うんうん。
オアシスに入った所で体を起こし2本足で歩く。この方が人ぽく見えるから出会った人に驚かれる確率が減りそうだもんね。
――[クリーン]――
体が砂っぽいからね、仕方ないね。
――[クリーン]――
ジョアンにもクリーンの魔法を掛けておく。綺麗になって困ることはないからね! とついでに《転移》のチェックもしておくか。
――《転移チェック6》――
チェックを更新して、よし、これで何時でもオアシスに戻れるな。
ジョアンと共にオアシスの中央へ歩いて行く。行き先が決まっているワケじゃないからさ、まずは目印となる水場に行くしかない。にしても人が居ないなぁ。建物の扉も閉まっているから、お店があるのかどうかも分からない。
俺たちが水場へ向かって歩いていると、その近くにある大きな石造りの建物から蜥蜴人が出てきた。
「あのウ、あなたは姫さまの言っていた芋虫魔獣のランですナ?」
あ、はい。
俺をかばうようにジョアンが前に出る。
「何者だ!」
いや、そんな風に強く言わなくても……。
「あのですナ、ここからでもピョンピョンと跳びはねている不気味な魔獣の姿は見えていたのですヨ」
あー、そう言えば位置や距離の確認のために何度も《飛翔》スキルで上昇していたな。そうか、オアシスから見えていたのか。
「それを見て住民が不安がっていたのですがナ、姫さまがその正体を説明してくれたのですヨ」
あ、すいません。何だか悪いことをしたなぁ。
『通りに住民が居ないのはそれが原因か?』
俺が原因で引き籠もらせてしまったのなら申し訳ないなぁ。
「いえいえ、違うのですヨ」
蜥蜴人が舌をチロチロと覗かせながら首を横に振る。そして、大きなため息を吐いた。
「ここから北に小迷宮と化した遺跡があるんですヨ」
ふむふむ。小迷宮かぁ、ちょっと攻略に行きたいな。
「そこに最近だと思うのですが、魔人族がたむろうようになったのですナ」
ふむふむ。魔人族か。この世界だと盗賊ってルビを当てるのが正解な種族だよね。盗賊とか強盗とか、とにかくろくでもない奴らだよ。
「そいつらの中に非常に恐ろしい力を持った女がおりましてナ」
えーっと、女……なのか。うーん、てっきり俺が追っているエンヴィーが居るのを期待したんだけどなぁ。うーん、外れかな。
「そいつらの襲撃を受けたのですヨ」
は? 襲撃を受けた? その割には建物とか傷付いている様子が無いな。
「その時は、姫さまと護衛騎士の2人が追い払ってくれたのですナ」
ふむふむ。なるほどなるほど。
「そういうこともあってこのオアシスの住人は家に閉じこもっているのですナ」
あー、なるほど。そうだったのか。
「姫さまたちは、我々の為にですナ」
うんうん。
「その魔人族を討伐する為に北の小迷宮に向かったのですヨ」
ふむふむ。というかだね、蜥蜴人の種族特徴なのか、なんでちょっとずつしか喋らないの? 一気に喋ってくれよ。ふむふむとか分かったつもりで聞いているけど、話と話に間が開いて、上手く頭の中に会話の内容が入ってこないよ!
「で、ですナ」
あ、はい。
「姫さまからの伝言ですナ」
あ、はい。
「先に向かっているので、加勢を頼むとのこですナ」
あ、はい――うん? 加勢を頼む? うーん、姫さまって間違いなく、あの姫さまだよな? 俺に助けを求めないとヤバイくらいに危険な相手ってコトなのか?
「ラン! 行こう!」
ジョアンが今にも駆け出しそうな勢いだ。あ、ああ。俺としてもお友達になった姫さまだからな、応援に行くのはやぶさかじゃないぜ。
で、だ。分かりにくかったけど、蜥蜴人の言っていることをまとめると……。
北の小迷宮に魔人族が住み着き悪さをしていて、ここの住人が困っているから、姫さまが討伐に向かった。そこには強い女の魔人族? が居る。姫さまは俺がこのオアシスに向かっているのを気付いていたから加勢を頼むと伝言を残して行ったって感じかな。
『ああ、ジョアン行くぞ!』
と、すぐに行きたい所だけど、ちょっと待ってね。
――[アクアポンド]――
俺は地面に池を作る。よし、発動した。
『ジョアン、水だけは補給するぞ。それと、そこの蜥蜴人よ、その小迷宮まではどれくらいの距離があるのだ?』
俺は皮の水袋に水を入れていく。オアシスの水から掬っていると、住人と揉めるかもしれないからね。自前なのですよ。水を貰う許可とかがあったら面倒いしね。どうよ、この完璧な行動!
「北の遺跡跡までは半日ですナ」
半日か。結構、近いな。まぁ、そんな距離に魔人族が住み着いたら大変だな。ここは急いだ方がいいよね。
『ジョアン、盾』
「ま、まさか、ラン!」
俺の天啓にジョアンが驚き、震えた声で叫ぶ。そのまさかだぜ。急ぐから仕方ないんだぜ。
「う、仕方ない……」
ジョアンが宝櫃の盾を地面に置く。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、宝櫃の盾と結びつける。
では、ジョアン君、盾の上に乗ってください。
いくぜ!
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使い宝櫃の盾を浮かせる。
――《飛翔》――
―3―
《飛翔》スキルを使いジョアンを運んでいく。《飛翔》スキルの効果が切れたらハイスピードの魔法を使用し移動する。《飛翔》スキルを使うとハイスピードの魔法の効果って切れちゃうんだね。常に掛け直すのは面倒だけど仕方ないか。
《飛翔》とハイスピードの魔法を繰り返し、北へ、小迷宮へと急ぐ。たまにジョアンがうっ、とか悲鳴を上げているが気にしない。そう、気にしている場合じゃないのだ。
北へ進むと砂に埋もれた石柱の数が増えていく。お、如何にも遺跡って感じだな。
埋もれた石の建物、石柱、何の遺跡だったんだろうな。
やがて半分ほど砂に埋まった石で作られた巨大な建築物が見えてきた。そこには下へと降りる階段も見える。
到着だな。半日の距離ってことだったけどさ、正直、その半分以下の時間で来ることが出来たな。ただまぁ、《飛翔》とハイスピードを交互に連続で使うのは疲れるし、MPも馬鹿みたいに消費するし、次はよっぽどのことがないとやりたくないなぁ。
どうにも頭の上の羽猫もバテてるみたいだしね。いや、コイツは暑さでダウンしているだけか?
と、へばっているところ、悪いけどさ、ライト頼みます。
――《ライト》――
頭の上の羽猫が光り輝く。ありがとさん。どうでもいいけど、ハイスピードの魔法を使っている時でも良く頭の上に乗っかてられるよな。俺が走るのに併せて吹っ飛んだりしないの? ま、まぁ、何か不思議な力が働いているのかもしれん。
さ、さあ、遺跡の探索です。