5-37 オアシスへ
―1―
――《転移》――
《転移》スキルを使いジョアンと共に砂漠へ飛ぶ。俺たちは周囲の砂を巻き上げ深く砂の中へ着地する。うひぃ、埋もれる埋もれる。
ジョアンと2人で慌てて落ちてくる砂の中から上へ、上へと這い上がる。アブナイ、アブナイ、死ぬかと思ったぞ。
「ラン……」
言うな、ジョアン君。分かってる、言いたいことは分かっている。そうだ、とりあえず、進もう。そうだ、進もう。
サイドアーム・アマラに真紅妃をサイドアーム・ナラカに水天一碧の弓を持たせる。そして砂地でも歩きやすいように芋虫スタイルになる。わしゃわしゃ歩くのだ。と、あ、そうだ!
――[ハイスピード]――
風を纏う。周囲の砂が俺の周囲を舞っている。お、風が熱避けになっているな。これならお腹が熱くないぞ。それに移動速度も上がるからね、良い感じだね。もしかしてと思って使ってみたけど大正解だったみたいだ。
風を纏いしゃかしゃか砂漠を歩いて行く。
「ら、ラン……いや、何も言わないよ」
何かな、何かな。言いたいことがあるなら言っちゃおうよ。
黙々と歩きます。風のバリアが熱を遮断してくれるからね快適、快適。今なら最大MPが多いからね、MP不足で困ることも無いし、常に使い続けても大丈夫だね。
しゃかしゃか。
しばらく砂漠を歩いていると、またも砂地が盛り上がり、蠍モドキが現れる。えーっと、表示されている名前がラージテイルになっているな。って、そんな、名前だったのか。
『ジョアン!』
俺の天啓を受け、ジョアンが頷く。
前衛はジョアンに任せ、俺は水天一碧の弓に黒金の矢を番える。とりあえず今回は普通に撃ってみようかな。
ジョアンはラージテイルが回転しながら振り回してきた尻尾攻撃を宝櫃の盾で受け、そのまま受け流す。ラージテイルが尻尾を受け流され体勢を崩す。
そこを狙い黒金の矢を放つ。水天一碧の弓から放たれた黒金の矢は螺旋を描く水を纏い水の矢となってラージテイルへ迫る。
水の矢がラージテイルを貫通し、砂地へと刺さった。そして、ラージテイルはそのまま動きを止めた。あれ? 一撃? このラージテイルの属性が何かは知らないけどさ、一撃? こんな楽勝でいいの?
ちょっと使い道が無いかなぁ、なんて考えていた水天一碧の弓だけど、意外と使えるかも。
俺がそんなことを考えていると周囲の砂がボコボコと膨らみ、次々とラージテイルが現れた。またか……。こいつらってさ、土の中に居るからか、地表に現れるまで線が見えないんだよなぁ。油断すると不意を打たれそうだ。
―2―
現れたラージテイルを倒し黒金の矢を回収する。ちゃんと矢は回収して再利用しないとね、勿体ないからね。
そのままジョアンと共に砂漠を東へと進んでいく。すると前方に砂に埋まった巨大な石柱が見えてきた。おー、何だろう、遺跡跡とかかな。
石柱に近づこうとすると、俺は、その石柱の上の方に魔獣と書かれた線が延びていることに気付いた。
『ジョアン』
俺が天啓を飛ばすとジョアンが足を止め、何? って感じでこちらを振り向いた。
俺はサイドアーム・アマラに持たせた真紅妃で石柱の上を指す。そこには巨大な石柱に巻き付き、まるでそれ自体が彫刻であるかのように動きを止めた蛇頭に女性の上半身、蛇の下半身を持った魔獣が居た。頭が蛇だけどラミアとか、それ系ぽい魔獣だよね。
彫刻だと思って油断して近寄った所を襲いかかってくるって感じなのだろうか。これ、対応に困るなぁ。帝都では話の分かる魔獣も居たからさ、微妙に人間みたいな姿をしているとさ、話しかけたら通じるんじゃないかって思ってしまうんだよな。
と、とりあえず天啓を飛ばしてみて通じなかったら戦うってことで。
『ジョアン、とりあえず天啓を飛ばしてみるが、良いか?』
俺の天啓にジョアンが少しだけ驚く。
「魔獣とは会話にならないと思う。でも、ランの好きにしたらいいと思う」
お、珍しく喋るな。と、まぁ、許可が出たからね、試してみますか。
『すまないが、ここを通らせて貰いたい』
俺の天啓を受け、何故かラミアもどきが柱からぼとりと落ちた。へ? びっくりしたとかかな?
そして蛇のように身をくねらせながらこちらへと近づき、上半身を起こし、大きな口を開け、舌を延ばし、大きな悲鳴を上げた。な、威嚇行動?
ラミアもどきがこちらを見る。その瞬間、視界に赤い点が灯る。
ラミアもどきが口から青緑の液体をこちらへと吐き出す。
「ラン!」
ジョアンが2つの盾を構え、俺の前に立つ。ちっ、やっぱり魔獣は魔獣か! 会話が成り立つ魔獣とそうじゃない違いがイマイチ分からないな……。
吐き出された液体をジョアンが盾で受け止める。俺はその背後に隠れ水天一碧の弓に黒金の矢を番える。
――《集中》――
集中し、狙いを定める。
――《トリプルアロー》――
スキルを使い更に2本の矢を番え、3つの矢を放つ。放たれた3本の矢が水を纏い飛んでいく。《早弓》スキルの効果によって、すぐに次の矢を番え、放つ。
――《ダブルアロー》――
そのまますぐに《ダブルアロー》のスキルを発動させ、2本の矢を番え放つ。お、繋げられるかな、と思って試してみたら出来るじゃん。と、更にッ!
更に《早弓》スキルの効果によって次の矢を放つ。
計7本の矢がほぼ同時に放たれる。ラミアもどきに7本の矢が突き刺さり、ラミアもどきはそのまま崩れ落ちた。
へ? もう終わり?
相手の能力とか、そういうのを見極める前に倒しちゃった。何だろう、このオーバーキル感。これ、更に他の弓技に繋げることも出来そうだよね。これは、あれだ。オリジナルスキル、ショットガン誕生とかそんな感じだ。後の矢の回収が面倒なことや近中距離間が一番威力が出そうだ、とか色々とデメリットはありそうだけどさ、見る限り威力は抜群だな。
ジョアンに手伝って貰いながら、矢の回収と魔石の回収を行う。で、素材だけどさ。この人型を持って帰るのか? う、うーん。ちょっと抵抗があるよね。ま、それでも何が売れるか分からないし、魔法のウェストポーチXLに入れておきますか。
―3―
砂漠を進む。
途中、道の確認のため《飛翔》スキルを使い真上へと飛んで地形を確認する。おー、結構近くに緑が見えるね。あれがオアシスかな。
魔獣を倒し、打ち上げ花火のように《飛翔》スキルで飛び上がり距離を確認し、進む。
砂漠を進む。
砂に埋もれた謎の建造物跡を見ながら歩き、油断して入り込んでしまい、とっさに《飛翔》スキルで逃げ出した流砂、更に追い打ちを掛けるように突然、砂中から現れる魔獣……もうね、結構大変なんですけど。
道を安全に進んでいた時は魔獣が出なくてつまんないなぁ、なんて思っていたけどさ、いざ、出だすとうざいって思っちゃうんだよなぁ。
クルクル回るトゲの付いた花のような魔獣や蠍モドキに砂の色に偽装した巨大なトカゲとか、もうね、結構、大変です。
用意している水の量の問題で余り距離を稼げず、結局、オアシスまでは更に2日ほどかかった。
そしてオアシス到着である。
結局、かかった日数は全部で4日なんですよ、4日! 初日は水属性魔法が使えないってことですぐ戻ったにしても4日はかかりすぎだよね!
これ《転移》が使えなかったなら、厳しかったよな。まぁ、俺1人なら《飛翔》スキルを何度も使って無理矢理横断するって手段もあるんだけどさ。
はぁ、でも、これでやっとオアシス到着だね。
中央に大きな池のような水溜まり、そしてその周辺には草花や硬そうな木々が生えている。更にその周囲には、まるで、そのオアシスを守るかのように石で作られた家や動物の皮で作られたと思われるテントが見えた。
ちょっと大きな集落って感じだな。
さあ、オアシス探索です。