2-27 弓矢
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里の人に案内して貰い、里の出口へ。
『見るに、この里の人たちは皆若い人ばかりだな……』
「うわ、頭の中に!? と、念話は何度聞いても驚きで」
案内してもらった森人族の青年は驚いている。さっきも念話で会話したんだけどなぁ。
「ああ、星獣様は森人族を余りご存じない? 私たちは成人するとそこで成長が止まるんで。普人族の方々と比べても寿命は非常に長いんで、まぁ、星獣様の方が寿命は長そうですけど」
うーん、となると森人族の人たちは若く見えても実は歳がいっているって可能性もあるのか……。まぁ、エルフだしな。
と、そうこう考えているうちに下へ降りるゴンドラの前に来た。
「このゴンドラはぐるぐると上下に常に動いているので、タイミングを見て降りてくださーい」
見ると確かにゴンドラは謎の力で大きく円を描いて回っている。観覧車を想像する。と言っても横壁がないから簡単に下へ落っこちそうで怖いね。
さあ、地上か。と、少し不思議に思ったんだけど、負傷して気絶していた俺をどうやって上まで上げたんだろうか。というか、大きな魔獣の素材とか上に上げられないんじゃね? ま、まぁ何かの特別な方法があるんでしょう。
―2―
地上にやって来ました。
迷ってここに戻れないってことだけはしないように考えないとね。まぁ、里の中心になっている大きな木が目印になるから、最悪、それを目印に突き進めば良いか。まぁ、大きな木って言っても世界樹ほどの大きさではないから余り離れすぎると見えなくなりそうだけどね。
少し森を探索しているとすぐにホーンドラットが見つかった。何処にでも居るくっそ雑魚ですね。とりあえず矢で射殺すか。
肩にかけた矢筒から魔法糸を使い矢を取り出す。
矢を放つ。矢はホーンドラットの眉間へと飛び、その角に当たって跳ね返った。……しまった。一撃で倒そうと思って頭を狙ったけど角があるじゃん。お馬鹿過ぎる。
ホーンドラットが角を前に出し、こちらに突撃してくる。そんな、のんびりとした突撃、今更食らいません。華麗に回避し……って、近接での攻撃方法が無い!?
仕方なく木の矢を手に持ち、覆い被さるように何度も突き刺した。結局近接かよ……。木の矢は折れてしまったが、なんとか仕留めることが出来た。矢の残りは28本か。これ、倒したことにならないよねー。
次のホーンドラットはすぐに見つかった。鼠の多い森である。今度はしっかりと胴体を狙い矢を放つ。矢は鼠の胴体を貫通し息の根を止める。まずは一匹。にしても解体用のナイフも無いから、血抜きも解体も何も出来やしない。
すぐに見つかった次の二匹目のホーンドラットも危なげなく射殺す。世界樹で弓の練習をしていたのは伊達じゃ無いッ! 後一匹で試験終了です。
と、ホーンドラットを探しているとゴブリンの線が見えた。森ゴブリンか……うん、これ結構多いぞ。近寄ってくる線はみるみる増えて10本くらいになっていた。
矢の届く範囲に入った森ゴブリンに矢を放つ。線を目印として放っているので当たれば儲けものくらいだ。線の表記が変わった森ゴブリンは無視してどんどん矢を放つ。攻撃に気付いた森ゴブリン達がこちらへと殺到してくる。その数6匹。余り削れていない。
――<糸を吐く>――
俺は魔法糸を出し木の枝の上に。……う、なんだ、軽く目眩が。まさかMPが枯渇し始めているのか? 俺はステータスプレートを確認する。
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うお、減ってる。もしかして魔法糸が原因か!? って、あれ? 完全に枯渇したわけじゃ無いのに最大値が増えている。条件が分からない。
考えられるのは――MPが少なくなった場合に増える、MPを使う行動を取ったら増える、それ以外のなんらかの要因……かなぁ。と、そんなことを考えていると森ゴブリンの投げた石が飛んできた。ちょ、今、SPが無いんだから当たったら洒落にならない。
俺は木の上から矢を射る。
矢は森ゴブリンの脳天に刺さる。あら、まだ生きてる。もう一発当てようとしたが、森ゴブリンはそのまま倒れ込んだ。あ、死んだ。そりゃまぁ、脳天に矢が刺さっているんだ、死ぬよね。これで残り5匹。
と、森ゴブリンの一人が背中に背負っていた木の盾を前に構える。うお、盾持ちだと!? いくら相手が木の盾とはいえ、今の手持ちの弓には盾を貫通させるほどの威力なんて無いぞ。
――<糸を吐く>――
仕方なく上からかなり長めの魔法糸を飛ばし、盾を引っさらう。お、何気に木の盾ゲット。と、MP枯渇による苦しさが無くなった? 何でだ?
改めてステータスプレートを見る。
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回復している? もしかして……!
俺は魔法糸を精製するのと同じように辺りに漂っている靄のような色の付いた空気を体の中に溜める。
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やっぱりだ。
これがMPの元か。今更気付くとか……。
なるほどな、魔法糸を使う度にMPが回復していたんだもん、魔法糸の精製がMPを消費することに気付かない訳だよ。
これなら、さっきみたいに連続で魔法糸を出さなければ大丈夫か。それどころかMPの回復手段が手に入って念話なども使いやすくなったな。
と、考え込んでいると森ゴブリンからの投石が。ああ、戦闘中だった。
俺は奪い取った木の盾を構え投石を防ぐ。そのまま矢を射る。矢は一匹の森ゴブリンの腕に刺さる。そのままもう一度――今度は森ゴブリンの頭に刺さり、そいつは崩れ落ちた。
残り4匹、矢の残りは14本……いけるか?
色つきの靄を吸い込み、MPを回復させる。
――<糸を吐く>――
魔法糸は投石を繰り返していた一匹の森ゴブリンに絡みつき動きを封じる。
「ギギギ、ムシ? チガウ?」
森ゴブリン達が騒ぎ出す。が、気にせず矢を射る。矢は一匹の膝に刺さる。
「ガァ、ギギギ、ニゲ、ニゲ」
森ゴブリンが逃げ出す。膝に矢を受け、逃げ遅れたゴブリンに矢を放つ。矢は狙い通りに頭に刺さり森ゴブリンを仕留める。
魔法糸に絡みつかれて身動きを止めている森ゴブリンにも矢を放ちトドメを刺す。
逃げ出した残りの2匹の森ゴブリンは追わない。……だって矢の無駄だし。
木の枝から降りて刺さっている矢を確認する。どれも此れも傷んで使い物にならない。所詮、木の矢か……。
にしても森ゴブリンの魔石、回収したいなぁ。さすがに削った木の矢程度じゃあ、解体は出来ないし……うう、勿体ないなぁ。
仕方ない、お金になりそうな装備だけ貰っていくか。魔法糸を使いお金になりそうな武装を縛って背負うことにする。弓士のクラスを得たらすぐにスイロウの里に戻って換金しよう。
と、後1匹ホーンドラットを倒さないと駄目なんだったな。
その後、すぐにホーンドラットは見つかり何事も無く倒すことが出来た。倒したホーンドラットは血抜きも何もされていないが、とりあえず必要だろうと思い、残った矢に刺してぶら下げて持って行くことにする。
残りの矢は8本。
さあ、フウロウの里に戻りますか。