5-29 新たな仲間
―1―
《転移》スキルによって我が家前に帰還する。さあて、今日はもうゆっくりしますかね。それで明日は避難キャンプっと。
「ラン、僕は帰る。また明日!」
ジョアンが自宅へと帰っていく。おうよ、またね。
我が家の前には何故か14型が居た。
「マスター、お帰りなさいませ」
ちょ、ずっと待っていたの?
「マスターが帰還される気配を感じたので慌てて――いえ、ずっと待っていたのです」
あ、そうなんだ。というか、ここだけ見ると意外と14型が有能だと錯覚してしまいそうだ。
「マスターが外出されている間に、マスターの為の住人が来ております。こちらの判断で下の部屋を分け与えましたが、問題無かったでしょうか?」
ちょ、14型さん、どうしたの。すっごい有能に見えるよ。ま、まさか偽物?
「では、マスター、ご案内するのです」
14型さんが案内してくれる。
俺が真銀で作られたプレートに足を乗せるとふわんと光が走り、体が綺麗になる。あ、これ、ホント便利だわ。俺の緑の長靴が綺麗になるぜ! って、そうだ。この長靴も真紅妃みたいに召喚出来るように強化出来るのかなぁ。うーん、魔石を与えた方がいいんだろうか? いや、でも俺は俺で《変身》スキルの為に魔石を砕いてMSPを溜めたいし、うーむ。悩むなぁ。
14型の案内で食堂側の方へ。あら、個室じゃないのか。
そこには見知らぬ3人が座ってこちらを待っていた。何で3人? って、あれはヤポさん? 鍛冶士ギルドのお偉いさんのヤポさんだな。ふむ、他の2人は見たことが無いな。
3人が立ち上がり、まずはヤポさんがこちらへと一歩出る。
「ラン様、お邪魔しております」
あれ、前回はラン『さん』だったよね。どったの? どんな心境の変化があったんだろうか?
「ラン様に、こちらの者の紹介を」
ヤポが腕を伸ばし、後ろの2人に前へ出るよう促す。しかし、後ろの2人はなかなか前へと出てこようとしない。何だか、怯えているように見える。どったの?
「まずは我が鍛冶士ギルドのフエです。まだ若いですが、鍛冶士の心得や運営に長けた者なので、ラン様の力になると思います」
フエと呼ばれた男性がおずおずと前に出てくる。ほうほう、そうなんだ。
「ふ、フエです。ラン様、よろしくお願いします」
ほー、フエさんね。あいよ、こちらこそよろしくです。
「もう1人は――私の鍛冶士ギルドとは関係が薄い西側の者ながら東側にまで名前が知れ渡っているなかなかのやり手ですよ。商業ギルドも奮発したものです。ラン様のつては侮れないですね」
侮れないのですよ。
ヤポさんの後ろに隠れていた猫人族の少女が前に出てくる。えーっと、女の子だよね?
「ら、ラン様、ユエって言います……」
売り子って、販売を担当するんだよな? こんなおどおどした感じで大丈夫なのか?
『自分は星獣様のランだ。2人ともよろしく頼む』
俺の天啓を受け、2人は驚いたような顔をし、2人で顔を見合わせ、その後、ホッとしたように息を吐いた。
「ラン様は、本当に会話が出来る魔獣なのですね。良かったです……」
「俺もちょっと怖かったです」
え? もしかして、俺の姿を怖がっていたのか? こんなにも可愛らしい芋虫姿が?
『ところでフルールは?』
2人の挨拶は分かったけど、肝心のフルールは? フルールの為の2人なのに、何で当の本人が居ないんだ?
「マスター、私が呼んで来ます」
何故か14型が動く。
食堂で待っていると14型と共にフルールがやって来た。フルールは全員が食堂に集まっているのを見て驚いたようだ。
「あ、ラン様、戻られていたいんですぅ?」
痛くないです。って、今、戻った所だからね。あー、まぁ、急に戻ったんだから、その状況で全員揃っている方が異常か。
『ああ、今戻った所だ』
俺を見てフルールが嬉しそうに牙を覗かせて笑う。
「ラン様、ラン様のお陰でやっと好きなように鍛冶が出来ますわぁ。ガンガン作りますわ。何でも言って欲しいですわぁ」
フルールの言葉にフエとユエの2人も頷いている。うーん、同じ2文字の名前で似たような感じの名前だからどっちがどっちか分からなくなりそうだ。やんちゃな感じの兄ちゃんがフエ――鍛冶士が笛さんか。この夢見てそうな感じで、売り子をやってくれる予定の猫人族の娘がユエか、こっちは月ちゃんだね。
『では、早速頼みたいのだが』
俺は魔法のリュックから赤竜の鱗を取り出す。
『これで小型の鎧を作って欲しい。そうだな、サイズはそちらに居るユエくらいか』
小っちゃな猫人族が装備出来るサイズでお願いします。それで子どもが装備するような感じになるだろうからね。
「しかし、ラン様は鎧が装備できな……」
フルールが不思議そうに首を傾げる。
『報酬は、残りの鱗を渡そう』
「やります、やります、すぐやりますわぁ」
俺の天啓にフルールが花でも咲きそうなくらいの笑顔で答える。何だろう、その狼頭でがぶっと食われそうな勢いだよ。
「ら、ラン様、よろしいですか!」
ユエちゃんが大きな声を上げる。あ、はい。どうぞ。
「ラン様、報酬にそれは渡し過ぎだと思います。これから、ここで売った武器や防具、それに武具の手直しや手入れによって儲けが出るのです。そこから引く形で充分だと思います……」
最後は自信が無さそうに小さな声だ。
「もちろん、ラン様が非常に無茶な依頼をされる時はまかないきれない時もあると思いますけど……」
ユエちゃんの言葉を聞いてフルールが目に見えるくらいに落ち込んでいる。そんなにこの赤竜の鱗が欲しかったのか。ふむ。
これ、どうしようかな。報酬で上げるって言ってしまった手前、やっぱ無しってのもなぁ。でもさ、新人のユエちゃんの言葉を無視するのもこれからの人間関係が難しくなりそうだし、多分、ユエちゃんが言っていることの方が、この世界だと正しいんだろうなってのがなんとなく分かるんだよなぁ。どうしよう。
『フルール、この鱗を貰えたら何に使うのだ?』
「もちろん、色々実験に使ったり、武具の作成に使いますわぁ」
答えが早い。前回、渡した鱗もあるだろうに、まだ欲しいのか。
『フルール、話してしまった以上、この鱗は渡そう』
俺の天啓にフルールが天にも昇りそうな勢いで飛び跳ねる。逆にユエちゃんはショックを受けたかのような顔で固まっている。犬人族よりも猫人族の方が表情は分かりやすいね。
『が、これで作った武具は販売に使う。儲けは当初の予定通り商業ギルドに入れるように』
俺の天啓にフルールの動きが止まる。
「それでは、フルールは作るだけになってしまいますわぁ。何も残らないですわぁ」
『武具が作れることには間違いないのだ、その販売の儲けも出よう。ユエ、これでどうだろうか?』
俺の天啓にユエちゃんが大きく目を見開く。
「ラン様は甘いと思います……」
そうか、甘いか。でもさ、どうしたらいいのか、わかんないんだよなぁ。仕組みが分からん。ホント、何が正解かわかんなーい。
2020年12月13日誤字修正
食道側の方へ → 食堂側の方へ