おしえて、シロネせんせい1
「はぁ」
シロネは1つ大きなため息を吐き、のそのそとした歩みで教室へと向かう。今日はシロネが苦手とする子が学習に来ている日だ。体が弱いということで週のうちに何度も休みを取るなど普通では無下に扱われるものだが、第三王女の鳴り物入りで入学し、更に本人自身も大貴族の上、膨大な魔法の力を持っている才女と来れば軽く扱うことも出来ない。自身も第三王女の世話になっているとくれば尚更だ。
教室に入るとすでに全ての生徒が着席してシロネを待っていた。貴族としての教育を受けている令嬢たちが学習の前に騒いだり、雑談をしたりしている訳がないのだ。
「皆さん、居るようですね……」
教室の奥にはしっかりと青髪の少女が見える。ああ、やっぱり今日は居るんだな、とシロネは人ごとのように考えてしまう。
「むふー……。では、本日は原点に返り、魔法の初歩から教えようと思います」
シロネの言葉に前列に居た令嬢が優雅に首を傾げる。
「あら、シロネ先生。今更、そのようなことは必要無いと思いますけれど」
シロネとしても、その言葉は分かる。が、教師会議で決まった内容を変えることは出来なかったのだ。
「むふー。そうですね、ですが復習は大事ですよ。それに転入生も居ますからね、基本の確認ですよ」
いくら転入生が居ようと、そのレベルに合わせるなど普通では考えられないことだ。こちらのレベルに合わせられると思うから転入してくるワケなのだから。
「まず、魔法は8つの属性に分かれています」
全員が何を当たり前のことをといった顔でシロネを見ている。
「最初に紫の火、次に青い水、緑の木、黄の金、橙の土、赤い風、黒い闇、最後に白い光となるのです」
奥の少女が楽しそうに穏やかな笑顔でシロネを見ている。
「これら8つの属性は週とも関わりが深く、1週間は8つの属性が巡る様を示しているのです。むふー、更に8つの週で1つの月に、更にそれが4つで前半の年になるのです。皆さんも知っていると思いますが、後半の年が終われば女神の休息日があります。それを皆で協力して乗り切るのが神事になるのです」
奥の少女以外の全員が真剣な顔で頷いていた。女神の休息日を乗り切ること、それはこの世界の誰もが重きを置いていることだ。
ここまでが魔法の基礎だ。
「そして、8つの属性は色と密接な関わりがあります。あなたたちが順調にいけば次の月にはディテクトエレメンタルの魔法を習うと思うのですが、むふー、その魔法を使えば世界に満ちた属性の色を見ることが出来るのです」
ディテクトエレメンタルは魔法使いにとって基本の魔法となる。
「この魔法は世界に満ちた属性の影響を受けず、使用することが出来るのです」
「先生、影響とは?」
前列の令嬢の1人が聞いてくる。
「むふー、そうですねー。あなたたちはまだ経験が無いと思いますが、属性の無い場所では、それに属する魔法は使えません」
シロネの言葉に少しだけ教室が騒がしくなる。
「それは基礎の話ではありません。初めて聞きました」
令嬢たちの魔法に関する知識の無さにシロネは頭が痛くなる思いだった。
「8大迷宮と呼ばれる迷宮が良い例ですね。むふー、あそこは属性が1個か2個程度しかありません。下位の8大迷宮でも3個程度です。例えばナハン大森林にある世界樹などは『木』『水』『風』の属性しかなく、それ以外の属性の魔法を使用することが出来ません」
「でも、冒険者の方々は迷宮に有利となる属性で攻略していると聞きますわ」
令嬢の言葉にシロネが頷く。
「そうですねー。だからこそ、触媒が必要になるのです。むふー、属性装備の多くが触媒となります。だからこそ、そういった属性が付いた物は高価な貴重品となるのです」
奥の少女はシロネの言葉を聞き、感心したようにシロネを見ていた。
「シロネ先生、質問をよろしいか?」
奥の少女が手を挙げる。シロネは、それを、何故、手を挙げるんだろうか、と不思議な感じに思いながらも見ていた。
「はい、どうぞ」
「先程、8つの属性しか無いと言ったが、それならばディテクトエレメンタルの魔法はどの属性になるのだろうか?」
何故か奥の少女が席を立ち話し始める。
「ディテクトエレメンタルに属性はありません。ディテクトエレメンタルが使えない場所はありません」
シロネの言葉に奥の少女は楽しそうに笑う。
「それでは、それが9つ目の属性になると思いますが」
奥の少女の言葉にシロネは衝撃を受ける。
「いえ、それは無いのです。むふー、無いはずなのです」
シロネは首を振って少女の言葉を否定する。
「なるほど、分かりました」
奥の少女はがっかりしたように席に着く。それを見たシロネは慌てる。
「いえいえ、むふー、そうですね、その件は私も調べるとしましょう。良い質問をありがとうございました、ノアルジーさん」