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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
329/999

5-27  生まれた力、赤竜との戦い

―1―


――《変身》――


 叡智のモノクルを除いた、全ての装備が外れ、地面へと散らばっていく。そして、生まれた無数の魔法糸が俺を包み、大きな繭へと作り替えていく。


 そして、


 孵る。



 右目、視界に表示される青い縦長のメーター。以前よりもメーターが少し長くなっている。

 俺は体を動かし、手を伸ばし、繭を内側から裂く。繭の中から外に手をかけ、そのまま体を引きずり出す。先程まで俺の体を苦しめていた《限界突破(リミットブレイク)》の後遺症が消えている。俺の体が作り替えられた副産物だろうか。うん、これは覚えておこう。


 と、今は全裸に近い格好だからすぐに何か服を着ないと。


――《魔法糸》――


 大量の魔法糸を紡ぎ、簡易的な服を作り上げる。


――《換装1》――


 《換装》スキルを使いてぶくろに指を通す。そして、そのまま急ぎ地面に散らばっている装備を装着していく――フェザーブーツを履き、夜のクロークを纏う。

 真紅妃と真銀の槍をサイドアームを使って拾っていると女神セラの白竜輪がするすると体を上って来た。早くしないとね、赤竜に気付かれる前に早く装備を整えないとッ!

 地面に落ちていた指輪も拾い、芋虫形態の時と同じように首からかける。いや、まぁ、指輪を指に通すのは抵抗があるというか、うん。


 にしても、また《変身》スキルを使ってしまうとは、な。


 俺が初めて《変身》スキルを使ったあの時、そこから色々試し、再使用が可能って分かったのが、その日から8日が過ぎた後だった。この世界での1週間が再使用までに必要な日数ってワケだ。使えば使うだけ、再使用可能時間は短くなっている実感がある。それに併せて効果時間も確実に伸びている。と、そこまではいい。切り札にもなり得るので、使い時は考えないと駄目だが、こまめに使えば練習になって、どんどん使い勝手が良くなるからね。が、このスキル、一回使用する度にMSPを110も消費する。MSPを消費するスキルなんて初めてなんですけど! もうね、これが痛い。MSPが110もあれば、一個はスキルレベルが伸ばせるんだよ!


 《変身》スキルの熟練度を上げて性能を上げたいがMSPの消費が痛すぎる。だってさ、必然的にMSP稼ぎが必要になるんだよ!


 て、悠長に考えている場合か。


 この俺の目の前にいる羽の生えた巨大トカゲを変身メーターが無くなる前に倒してしまわないとな!




―2―


 赤の瞳を通して赤竜を見る。


【種族:レッドドラゴンスピネル】


 このサイズ、この強さでも名前付き(ネームドモンスター)では無いのか。って、ことはこんなのがうじゃうじゃいる可能性があるのか?


 四つん這い状態で獲物を探していた赤竜が、こちらの存在に気付いたのか、大きな頭をこちらへ向け、ゆっくりと振り返ってくる。それに併せて巨大な爪が地面に食い込む。


 赤竜の爪1個、赤竜の瞳が俺と同じサイズだから、ホント巨大だよなぁ。30メートルくらいあるのかな?


 と、赤竜を確認している所で、赤竜が何か魔素の塊のようなふわふわとした膜に全身が覆われていることに気付く。何だ、アレ? この赤い右目でしか見えないけど、何だろう?


 俺が魔法の真銀の矢で射貫いた瞳の部分を覆っている膜だけ、ぽっかりと穴が開いている。そして、その穴の部分に膜が吸い込まれるように消えていく。それに併せて瞳に開いた穴が消え、赤竜の瞳についた傷が癒えている。何が起こっている?

 見れば俺が攻撃した部位、爪や腕、腹、頭など、それらの部分も周りの膜が傷と同化し、その傷を治していた。

 傷を癒やして減った分の膜は、その周囲の――無傷の部分を覆っていた所からゆっくりと補充されている。しかし、その補充の速度はかなり遅いらしく、そのうち平均化するんだろうな、くらいの速度だ。

 そしてよく見れば、赤竜を覆っている膜は場所によって厚さが違っているようだった。頭や腕は厚く、翼は薄い。一番薄いのは首の下辺りかな……何だろう、コレ?


 俺が自分自身の体を見ると、俺の体にもうっすらと同じような膜に覆われていることに気付いた。も、もしかして。もしかして、コレがSPか。これが傷を癒やしているのか。なるほど、そういうことか!

 となれば、狙うのはッ!


 俺は真紅妃をサイドアーム・アマラに持たせる。そして真銀の槍の柄を剣でも握るかのように自身の両手で持つ。自分の手でしっかり持てる、この感動。


 赤竜がこちらを睨み、口に光を集めていく。ブレスか……。向こうのサイズからしたら、こちらなんてハエとか、その程度だろうにな!


――[エルアイスウェポン]――


 真銀の槍の穂先、剣のような部分が氷に覆われていく。もっと、もっとだッ!


 氷の塊が鋭く巨大な剣へと形を変えていく。相手が巨大なら、こちらも巨大な得物がいるよなッ!


 やがて、俺の握った柄の先は、氷で作られた10メートルはあろうかという巨大な刃と化していた。即席、アイスソードッ! 念願のアイスソードだ!


 喰らえッ!


 こちらへブレスを放とうとしていた赤竜に巨大なアイスソードを斜め下から上へと叩き付ける。その威力にブレスを吐こうとしていた口が拉げ、口の中で光が爆発し、そのまま大きく仰け反る。真銀の効果か魔法だからか、巨大なサイズなのに重さを感じない。すいすいと振り回せるんだぜ。




―3―


 赤竜が巨大な爪を振り下ろす。それをアイスソードにて打ち払い、斬り、回避し、また斬る。周囲に削った赤竜の鱗が散らばっていく。


――[エルハイスピード]――


 風の衣を纏い、連続で迫る巨大な爪を回避する。赤竜の巨大な爪が地面を抉っていく。喰らったら即死だな……。サイズの小さな俺を狙っている為、攻撃が大雑把になっているのが救いか。


――[エルアイスランス]――


 鋭く尖った無数の氷の枝が生まれ、赤竜に迫る。赤竜が迫る氷の槍を爪で砕いていくが、処理しきれず、氷の枝に封じられる。アイスランスの魔法は拘束形の魔法って感じだよなぁ。まぁ、鋭く尖っているから、そのまま貫かれたら致命傷になりかねないくらい危険なんだろうけど、そっち方向で上手くいったことがない。


 絡みついた氷の枝によって動きを封じられた赤竜が身をよじり、嫌がる。今がチャンスだッ!


 狙うはSPの薄い首下辺り、ここが、この赤竜の弱点ってワケだ。


――《ゲイルスラスト》――


 10メートルはあろうかという巨大な氷の剣が、鋭く残光を煌めかせ赤竜の薄いSP部位を貫く。

 俺は捻りアイスソードを引き抜く。引き抜いた先からSPが傷を治そうと首下へ集まっていく。もういっちょッ!


 集まってきているSPごとアイスソードが赤竜を貫く。その攻撃によって赤竜の喉下が裂け、大きく真っ赤な魔石が現れる。ここかッ!


 赤竜が大きな咆哮をあげる。赤い風の力を帯びた咆哮が周囲の氷を砕き、さらに俺へと迫る。


――《飛翔》――


 俺は《飛翔》スキルを使い大きく後方へと飛び、逃げる。


 咆哮を放った赤竜が獣のような四つん這いの状態から立ち上がる。右手を持ち上げ、何かを溜めていく。させるかッ!


 俺は残った《飛翔》スキルの効果時間で赤竜へと飛ぶ。それに合わせて俺の背中から羽のように光る鱗粉が舞う。赤竜が小虫でも払うように左手を動かす。更に首を動かし、噛みつき攻撃も行ってくる。器用だなぁ。


 《飛翔》スキルの効果が切れ、地面に降り立った後も、俺は赤竜の足下で巨大なアイスソードを振り回す。攻撃の手は緩めないぜ!

 赤竜が俺のアイスソードを蹴り、そのまま大きく後方へと跳んだ。重っ、攻撃が重い。氷で作ったアイスソードだから、砕かれるかと思ったぞ。


 そして、赤竜が右手を大きく高く持ち上げる。


 赤竜の右腕から風が生まれ、周囲の瓦礫を砕き、巻き込みながら巨大なうねりを作っていく。風の上位魔法トルネードかッ!


 その魔法は、もう何度も見ているんだよッ! 俺にはウォーターミラーの魔法があるからな、効かないぜ。学習しないところは所詮、魔獣ってコトか……。いや、待てよ、そうだ。俺も同じように、うん、出来そうだ。


 今の俺には魔法の流れも、魔素の動きも見えている。俺の赤い瞳がトルネードの魔法を分析する。


 ……分かった。


【[トルネード]の魔法が発現しました】


 更に俺ならッ!


【[アイスストーム]の魔法が発現しました】


 そう、氷の力を混ぜることが出来るはずだッ!


――[エルアイスストーム]――




―4―


 俺から生まれた竜巻が氷の粒と混ざり巨大なうねりを作っていく。生まれた氷と風の吹雪は周囲を凍らせ砕き、赤竜へと進んでいく。

 氷の嵐はトルネードの魔法を飲み込み消滅させ、赤竜へ走る。そしてそのまま赤竜が氷の嵐に包まれる。


 赤竜が周囲を振るわせる大きな咆哮を上げる。しかし、氷の嵐は止まない。氷の嵐によって斬り、砕け、刻まれていく赤竜。


 さあ、トドメだ。


――《集中》――


 集中し、狙いを定める。


 俺は手元のアイスソードを一振りし、アイスウェポンの魔法を解除する。元の真銀の槍に戻った、それをサイドアーム・ナラカに持たせ、自身の手で真紅妃を握る。さあ、行くぜッ!


――《飛翔》――


 《飛翔》スキルを使い飛ぶ。


 氷の嵐が止み、斬り刻まれボロボロとなった赤竜が現れる。それでも生きているのは相性による風の属性の力か。


 迫る俺を感知したのか、赤竜がヨロヨロと左と右の爪を振りかざし攻撃してくる。遅いッ!


 するりと赤竜の爪を抜け、赤竜ののど元まで飛び上がる。


 俺の目の前には赤竜の魔石。真紅妃行くぜ!


――《スパイラルチャージ》――


 紫色に輝く螺旋が赤竜の魔石を貫き、砕き――喰らうッ!


 魔石を失った赤竜が動きを止め、周囲に大きな地響きを立てながら崩れ落ちた。


 俺の勝ちだッ!




―5―


 さあ、赤竜素材ゲットだぜの時間ですね。


 右上に表示されている青いメーターはもうちょっとだけ残っているか。この体の間に回収してしまうかな。散らばっている赤竜の鱗を回収して、本体は魔法のウェストポーチXLに入れてしまおう。


 あッ!


 その前に遠くで寝ているジョアンに回復魔法を掛けておくか。せっかく、魔法の効果が上がっている状態だもんな。


――[エルヒールレイン]――


 ジョアンが居ると思われる場所に強化した癒やしの雨を降らせる。と、俺の存在に気付いたのか、羽猫がこちらへと駆けてきた。そのまま俺の肩に乗る。はいはい、戦闘に巻き込まれなくて良かったね。

「にゃあ?」

 うーん、赤竜程度だと羽猫も進化しないのか。名前付き(ネームドモンスター)じゃなかったもんな、仕方ないか。いやあ、でもさ、《変身》スキルを使わないと勝てなかったような相手の名前付き(ネームドモンスター)とか考えたくないな。もうね、そんなの世界の敵レベルじゃないのか?


 俺が赤竜の死体を前に鱗を集めていると羽猫が「にゃあ」と鳴いた。どったの?


 羽猫が見ている先、空を見上げると、そこに鷹のような影が見えた。それはどんどんこちらへと近づいてくる。もう一戦あるの? いや、もうスキルの効果が切れそうだから、勘弁して欲しいんですけど。


 大きな鷹が俺の周囲をくるくると旋回し、そこから何かが降ってきた。いや、人か?


 降ってきた巨大な鎧が地面を打ち砕く。


 そして、そんな鎧はこちらを見、手を挙げた。

「私は帝国領ナリンの兵をまとめているアルマという者だ。山岳都市ミアンがレッドドラゴンの襲撃を受け、崩壊したと聞いて急ぎ、私だけ先行してきたのだが、これは君が?」

 えーっと、帝国の属国の兵士さん? あー、でも結構偉そうな感じだな。

「ああ、俺……自分が倒した」

「き、君のような小さなお嬢さんが、レッドドラゴンを?」

 俺の言葉にアルマという兵は驚きの声を上げる。あー、今の俺の姿ってそんな感じか。いやまぁ、芋虫姿でも驚かれるのは一緒だし、場合によっては討伐されかねない、か。

「そうだ。そして今、素材を回収している所だ」

 うーん、面倒なことになりそうだ。《変身》スキルの効果が切れる前にサクサクッと会話を終わらせて逃げたいなぁ。あ、そうだ、後は向こうで寝ているジョアンに任せるのはどうだろうか? 帝国で有名な剣聖の孫だからね、上手くやってくれそうな予感がする。

「いや、少し待って欲しい」

 うん?

「その首から下げている指輪、あなたは帝国の貴族と見える」

 あー、そう言えば、これってそういう身分の証になるもんだったね。

「帝国の貴族なら分かって貰えると思うのだが、このレッドドラゴンは、襲撃を受けた山岳都市ミアンの復興資金に充てたい」

 へ? 何て言いました? いやいや、分からないんですけど。貴族の教えとか受けたワケじゃないんで、わからないんですけど。

「こちらのメリットが見えないのだが」

 こっちだって命懸けで戦ったんだからね、そういうもんだって、言われても納得出来ないんだからね。

「あなたには申し訳ないと思うが、襲撃被害を受けている為、仕方がない処置なのだ。本来は最初に討伐隊が組まれ報酬が決められるのだが、あなたはそれよりも早く倒してしまった」

 うーん。その言い方だと、まるで俺が倒したのが悪いみたいじゃないか。って、そうか、俺が倒しちゃったから、この人もただ働きになってしまったのか。いや、でもさ、命懸けで戦うよりはいいんじゃね?

「もちろん、私の方から――ナリン王に頼み、帝国へは話を通しておく。あなたにはゼンラ帝から名誉とお褒めの言葉があるだろう」

 いやぁ、それよりも俺は素材が欲しいなぁ。って、ワガママを言っても仕方ないのか? 多分さ、コレ、俺が帝都の貴族だから譲歩した交渉をしてくれているんだろうな。ただの冒険者とかだったら、問答無用だったぽい感じがするな。はぁ、こんなことなら先に赤竜を回収しておけば良かった。まぁ、何枚か鱗はゲットしたし、これで鎧は作れるか。あ、それに合わせて換装スキルも上げないとね。

「私の言葉に嘘がないと信じて貰えるよう、あなたの指輪を私のステータスプレートに記録させて欲しい。その情報から間違いなく帝国には話を通す」

 指輪を登録とか良くわかんないけど、どうぞ、好きにやってください。俺はね、一気にやる気がなくなったのですよ。MSPを110も使って、死にかけて、それをかっ攫われるとかやる気を無くすっての。


 自分の身分に偽りがないと示すためか、アルマと名乗った鎧は俺に自身のステータスプレートを見せ、そのまま、その上に俺の指輪を置いた。

「あなたが無理を言ってくる上位の帝国貴族ではなくて助かった」

 はぁ、さいですか。まぁ、この人も使いっ走りだろうからなぁ、俺が無理を言っても困らせただけだろうし、場合によっては戦闘になったか。この人を倒しても俺対国って感じになりそうだし、そうなれば幾ら力をつけてきたって言っても、まだまだ国と戦えるほどじゃないから、俺の冒険は終わってしまったになるしなぁ。はぁ、ため息しか出ないよ。

「これで良いのだな? 自分はもう行くが構わないな?」

 俺の言葉に鎧が頷く。

「本当はもう少し事情を聞きたいのだが、あなたの譲歩だけでこちらとしては充分助かっている。もし山岳都市ミアンに知り合いが居たのなら、この先に避難キャンプが作られている」

 俺はアルマから避難先を教えて貰う。はぁ、じゃ、ま、そっち言ってみますか。


 と、そろそろ《変身》の効果が切れそうだ。ちょっと、何処かに急いで逃げて、元に戻ったら、ここに戻ってジョアンを回収して避難地に行きますか。


 はぁ……。

2015年12月22日誤字修正

あたなの指輪を → あなたの指輪を


2021年5月10日修正

簡便して → 勘弁して

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