5-24 魔法の付与
―1―
『では、これから魔法付与に行ってくる』
俺がフルールに天啓を授けると、驚いたかのように耳をぴーんと立てる。
「今からですぅ? それなら案内しますわぁ」
『いや、大丈夫だ』
いや、今回は帝都ではなく、スイロウの里に行くからね。
『14型』
「マスター、承りましたのです」
ということでスイロウの里に行ってきます。
俺が家の外に出ると鍛冶場の方からクソ餓鬼が、こちらの様子を覗っているのが見えた。
「あー、芋虫出てきた」
「チャンプだよ、チャンプ」
「しごと」
「……だめだよぅ」
そこへ俺の後ろに居たフルールが慌てて駆けていく。
「こら! 教えた手仕事をちゃんとやるのですわぁ」
フルールがクソ餓鬼どもを鍛冶場に仕舞っていく。仕舞っちゃうね。あー、うん。俺が押しつけたけど、フルール、大変そうだね。
……。
さ、スイロウの里に行きますか。14型と手を繋ぎスキルを発動させる。
――《転移》――
転移を使いスイロウの里へ到着。そのまま門番のハガーさんに挨拶をしてスイロウの里の中へ。じゃ、クノエ魔法具店に行きますか。あ、そうだ! せっかくスイロウの里に来たんだからユウノウさんにミカンのこと伝えておくか。
ユウノウさんはミカンのことをほっとけばいいよ的なことを言ってたけどさ。コトの顛末くらいは伝えておかないとね。
ということで、まずは道場に行きますか。
俺が道場へと歩いていると向こうから見覚えのある猫人族が歩いてきた。
「おや、ラン社長。どうしたんですかー」
噂をすればなんとやら、ユウノウさんじゃないか。これから道場に行こうとしていたのに向こうから来るとは……。
『いや、ミカンと会ったのでな。その事を伝えようと道場へ向かう途中だったのだ』
俺の天啓にユウノウさんが頷く。
「なるほどー。お嬢……元気にしてました?」
『ああ、今は大陸の帝国領、ホーシアで女王の護衛をしているよ』
「そうですかー。元気そうですねー。お嬢の話、聞けてよかったのです」
あ、ああ。俺も伝えることが出来てよかった。
―2―
ユウノウと分かれクノエ魔法具店に向かう。
クノエ魔法具店には、いつものように置物のようなお婆ちゃんしか居なかった。
『もし?』
俺は老婆に天啓を授けてみる。
「はいはい、そうですね」
むぅ。うーん、クノエさんは居ないのかなぁ。
「マスター?」
うん? 14型さんどうしたの?
突然、14型が強烈なアッパーを座っているお婆ちゃんに叩き込む。ちょ、お前、お前! ホント、何やっているんだよ!
「どうしたのですか、マスター。壊れているモノは叩けば直ると聞いていたのですが?」
いやいや、お前。それなら俺がお前を叩くよ、叩いちゃうよ。それに壊れたモノを叩いても直らないよ、そんなことを誰から聞いたんだよ!
「おきャクさマ、オキャクさマ、オきャクサま」
座っていたお婆ちゃんの首がバネのようにぽーんと外れ、びよんびよんと動きながら壊れたように同じ台詞を繰り返している。へ? 機械?
「マスター、これは私と同じような――いえ、私よりは遙かに低能ですが、同系統の技術を使った存在ですね」
え? ロボットだったのか? 嘘だろ。完全に何処にでもいる――いや、漫画の世界とかにしか存在しないか――縁側に居そうなお婆ちゃんだったぞ。
「ありゃ、僕のお婆ちゃん、壊れちゃった?」
聞いたことのある声に、俺はすぐさま振り返る。いつの間にか、俺の後ろにクノエさんが居た。
『クノエ殿……』
俺の天啓に手を振って応える。
「はいはい、お久しぶりだよ。と、お婆ちゃん、僕がお客様の相手をするから奥で休んでてねー」
クノエさんがそう言うと、お婆ちゃんの格好をした機械が「はイはい、ハいハイ」と壊れた首を揺らしながら返事をし、そのまま奥へと歩いて行く。いや、それ大丈夫なの?
「はーい、ランさん、今日はどのようなご用かな?」
俺はクノエさんの前に真銀の槍を置く。
『魔法付与を頼みたい』
クノエさんが真銀の槍を受け取り、振り回したり、指を這わせてみたりしている。
「いい武器だねー。これなら簡単に魔法付与ができそうだよ」
お!
「でも僕が出来るのは水属性付与、風属性付与、耐風、防水、風纏、治癒だよ。それぞれ327,680円(金貨1枚)だね。どうするの?」
お金ならある! あー、でも俺が欲しいのは自己修復するような魔法なんだよな。となると治癒なんだろうか? 聞いてみるか。
『武器を修復させるような魔法は付与出来ないだろうか? それが治癒だろうか?』
俺の天啓にクノエさんが手を振る。
「治癒は持ち主のSPをゆっくり回復させる魔法だね。MPを消費しないから便利だよ。修復だとリペアの魔法かなぁ。それだと僕は使えないから、預かりになるね」
あ、そうなんだ。預かりってどれくらいなんだろうか。
『ちなみに預かりだと日数は、料金はどれくらいなのだろうか?』
「ふむふむ。預かりだと明日お渡しだね、料金は変わらないよ」
あ、そうなんだ。意外とすぐに終わるんだね。それだったら修復の魔法を付与してもらおうかな。と、そうだ。
『それと、その魔法を付与した状態でもウィンドウェポンのような付与魔法を掛けることは可能か?』
俺の天啓にクノエさんが苦笑する。
「ランさんは知りたがりだなぁ。余り聞くと嫌がられるよ。うーん、まぁ、上得意なお客様になりそうなランさんだから、教えるけど――可能だね。この真銀なら状態も質も良いから後3つくらいは上乗せできると思うよ」
ふお? 俺が聞きたかったことと微妙に違う答えだが――なるほど、参考になった。
『修復の魔法の付与をお願いしたい――14型』
俺の天啓を受け、14型がクノエさんに金貨を渡す。
「確かに、確かに。じゃ、明日だったら何時でも大丈夫だよ」
よし、これで真紅妃のようにお手入れ要らずの最高な武器になるぞ。散々、ホワイトさんに武器を大事にしないって、何本も槍を壊して怒られてきたからなぁ。自己修復する武器って最高じゃん。
「ところで今日は魔法の矢は大丈夫?」
とりあえずは大丈夫かな? どちらかというと弓技を色々と試したいから安い矢や神経毒とかの矢が欲しいかなぁ。
「そうだ! そろそろ魔導書が必要になってきたんじゃないかなー?」
魔導書? あー、そんなのもあったね。確か金貨1枚だったよな。うーん、今なら払えない額じゃないんだよなぁ。せっかくだ、買っておくか。
『14型』
14型がクノエさんに金貨を渡す。それをクノエさんがじーっと見つめている。も、もしかして14型が機械だって気付いたのか? 14型はモノじゃないんだから、あげないんだからね!
『ど、どうしたのだ?』
「いやあ、ランさん。そちらの人が持っている魔法の袋も登録者はランさんなんだなぁって。ランさん自身も結構大きいのを何個か持っているみたいだからね、さすがは星獣様だなって思ったんだよ」
え? でも、これ冒険者ギルドの貰い物とかだよ。まぁ、確かに魔法のウェストポーチXLはレアだけどさ。そんな驚くようなことかな。
「MPがどれくらいか気になるところだよ」
クノエさんが、そんなことを呟いていた。ああ、これは独り言か。字幕で拾っちゃったね。
俺はクノエさんから魔導書を受け取る。謎の皮によって装丁され金属細工が施された真っ黒な本だ。中央に黒い宝石がはまっている。
中をぺらぺらとめくってみる。完全に白紙。何だ、これ。
「あー、ランさん。まずはステータスプレートを黒い宝石にかざしてください」
あ、はい。ステータスプレート(金)を黒い宝石に触れさせると、一瞬、黒い光が立ち上がり、すぐに消えた。
「これでランさんで登録されたよ。後は、その中に情報がどんどん勝手に記載されるから、たまにはめくってみてね」
ふーん。ま、じゃ、これは俺の魔法のリュックの中に入れておくか。
さ、クノエ魔法具店の用事も終わったし、帰りますか。
―3―
《転移》を使い自宅へ。そのまま14型は食材を買いに行く。
俺はやることがないので召喚された真紅妃によって完全に整地された墓場で魔法やスキルの練習を行う。反復練習は大事だからね。
夕方、クソ餓鬼どもが家へと帰っていく。ちゃんと仕事をしていたのか不安である。ま、まぁ、そこはフルールの領分なんで、フルールの頑張りに期待ってことで。
そして14型が料理を開始しようとしたのをフルールが慌てて止め、フルールが晩ご飯を作成することになった。鍛冶の腕があっても料理の腕はどうなんだろうか?
並べられるよく分からないスープ。では、食べますか。
もしゃもしゃ。
お昼を抜いて空腹だったが、それでも14型よりはマシって程度にしか感じられない腕前だった。いや、あの、俺の周りって飯マズさんたちしか居ないんですかねぇ。あー、でも山岳都市まで一緒だったポンさんの料理は上手かったな。美味かったというより、上手かったって感じだ。この2人もあのくらいのレベルだったならなぁ。
そして翌日。何故かジョアンがやって来た。アレ?
「うん? ら、ラン! まさか今日は戻らないのか?」
あ! ジョアンに何も言ってないや。俺は商人さんが3日滞在するって言っていたから、3日間はこっちに居るつもりだったんだよ、あー、しまったな。
仕方ない、予定変更で、真銀の槍を受け取ったら、そのまま山岳都市に《転移》するか。
『14型』
俺は天啓で14型を呼ぶ。
『14型は、こちらに残れ』
「ま、ま、マスター? 正気ですか、また何処か気が狂ってしまったのですか?」
またって俺は一度も気が狂ったコトなんてないよ。
『14型、メイドは家を守り、主人が帰ってきた時に過ごしやすくするのが仕事だ』
えーっと、よく考えたら、メイドが常に付き従う方がおかしいよね!
「はっ」
14型が胸に手を当てる。どったの体の中のパーツでも壊れたか?
『キョウ殿からの紹介でやってくる、商業ギルドの人間、東の鍛冶士ギルドの人間の対応を任せる。お金の管理も任せるので、しっかりと我が家を守るように』
「マスター、確かに承ったのです」
14型が胸に手を当てたまま優雅にお辞儀をする。ここだけ見ると有能なメイドさんに見えるんだけどなぁ。14型に任せるのは凄く、すっごく不安だけど、他に人材が居ないってのが辛い。
14型に預けていたコンポジットボウ、水天一碧の弓、魔法の矢筒を受け取る。
『ジョアン、準備は?』
俺の天啓にジョアンが頷く。準備オッケーですな。
さてと、では、ジョアン行きますか。